
松方コレクションを持ち出すまでもなく、あるコレクターが蒐集したコレクションが無傷のまま次の世代に引き渡されることはめったにないといっていい。
版画に関しても、戦前の名のあるコレクションはほとんど散逸してしまった。
蒐集した本人や遺族のその後の経済的事情や、個人ではいかんともし難い戦争などの時代の激動をくぐりぬけて「コレクション」が生き残るのは至難のことである。
かつてO氏という駒井哲郎作品の大コレクターがいた。駒井作品のほとんどを所蔵していたが、やがてそれをすべて手放された。その中の銅版画だけはほぼ一括して東京都美術館に買い取られたが、希少なモノタイプの一群はその後散逸してしまった。
資生堂の名誉会長であり、東京都写真美術館館長としても活躍する福原義春氏は、いまや個人コレクションとしては質量ともに最高の内容をほこる駒井哲郎作品群を所蔵している。
それらのほとんどは現在、世田谷美術館に寄託されている。「文化財は死蔵されるべきではない」という福原氏の信念からだが、福原氏自身が自らのコレクションについて語ることは余りなかった。
サラリーマン・コレクターの走りだった福原氏(昭和30年代、福原氏は「版画友の会」の会員だった!)が「わがコレクション:駒井哲郎」と題して講演をするという。今までのコレクターや美術界が公然とは評価してこなかったカラー作品をいち早く認め積極的に集めた一人の先鋭的コレクターの軌跡を知るまたとない機会である。
駒井ファンならずとも、美神に魅入られた人の語るコレクション哲学を聞いてみたい。
11月19日(日)午後1時から、世田谷美術館の講堂で開催されます。
*2010年8月20日追記
このブログ執筆当時に記載したコレクターの名前に間違いがありました。お詫びして訂正します。
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