菅井汲「赤い太陽」

菅井汲「赤い太陽」
1976年 マルチプル(アクリル+シルクスクリーン)
刷り:石田了一 10.0×7.0×2.0cm 限定150部
ケースに作家自筆サイン、

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草間先生の版画の件で、刷り師の石田了一さんと打合せを終えた後のこと、ちょうど昼時なので食事をした折の雑談で思わぬエピソードを聞くことができました。

ご紹介するのは、、菅井汲先生が1976年、日本で初めて手がけた立体作品です。
フランスでは既に大作家としての評価でマルチプルも作っていましたが、日本ではまだマルチプルという言葉が市民権をもたず、オブジェを楽しむという時代ではありませんでした。
しかしさすが世界のスガイだけあって、時代に先駆けていました。チャーミングな作品で、保存状態も完璧です。

さてこれを一個一個手作りで仕上げたのが刷り師の石田了一さん。彼にとっても初めての立体マルチプルの仕事で、たいへん苦労されたようです。
石田さんによればチリ埃のない状態で(これが難しい)アクリルの表面にシルクスクリーンで何度か重ね刷りするのですが、紙と違ってアクリルはなかなか乾燥しない。
いろいろ試行錯誤の上、たどり着いたのが、家庭用オーブン(!)。
この世界のスガイのマルチプルがオーブンの中で誕生したなんて、私も初めて聞きました。
はじめは金網に直接載せて70~80度にスイッチしたところ、接触面が溶けてしまったらしい。
そこで考えたのが割り箸。オーブンの底に割り箸を二本置いて、その上に刷りあがったアクリルをそっとのせて乾燥させたんだそうです。片方が乾くとひっくり返してまた乾燥させる。
これを150回繰り返したというわけです。
必要は発明の母。
「刷り代も安く、乾燥機なんか買えなかった」時代、今から30年前のことでした。