マンレイ鍵穴
マン・レイ Man Ray
「鍵穴」
 1970年 銅版 EA
 21.5×19.3cm Signed

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蒸し暑い毎日ですが、いかがお過ごしですか。
さてと、本題に関係ない話を・・・
昔、美術業界に入りたての頃、大先輩に「どんな大画商でもほんとうの客は片手、両手あったら凄いことだ」と言われた。
片手つまり5人の客ということですね。
私自身、もう30数年この世界にいますが、なるほどその通りと思います。

コレクションは、コレクターにとって人生そのものです。
いつどんなきっかけで美神に魅入られ、どんな作品を買って今日まで来たか。
失敗や後悔のないコレクションなんてない。
その共犯者が画商です。
失敗したときの責めはそれを売りつけた画商が負わねばならん。客は離れていく。
成功したコレクションは買った人の「眼力」と決断力が生んだもの。その恩恵は売った画商にももたらされる。

画商の敵は昔は「奥さん」といわれていました。
お客様の自宅に伺うと、ご主人の脇で、奥様が冷たい視線を私に向ける・・・
でも、もっと怖いのはコレクターの「心変わり」です。
誰でも、「飽き」が来るのですね。
いっときあんなに感激したのに、いつの間にか、心に響かなくなる。
そしてそれを強力に勧めた画廊(当然たくさん売りつけられた)から足が遠のく・・・・

何だかとりとめのない文章になりそうなので、止めますが、
ネット時代の故か、毎日のように作品の在庫の問い合わせがメールであります。
ここ数ヶ月はとくに激しくて、連日、草間彌生とアンディ・ウォーホルなどの問い合わせがどっと来る。二作家とも私たちがエディションしてきた作家ということもあるのでしょうが、背景としてはバブル復活のような気がしないでもない。
こういう場合(ネットであれ、電話であれ、もう30数年やってきましたからね)、誠実にお応えしても、ほとんどそれっきりです。つまり値段だけが知りたいのでしょうね。
名乗りもせず、ただ「いくらだ」と値段を聞くだけの人は千人が千人、その後に客になったためしはない。
普通だったらごく当然のマナーが、美術界ではなぜ通用しないのでしょう。

中には「お宅の在庫リストを全部ファックスしてくれ」なんて、めちゃくちゃなことを平然と要求する方もいらっしゃる。
画商としては、何を在庫し、いくらつけているかという最高機密の情報を提供したことに対し、「ありがとう」なんて返信は千に一回もない。
じゃあ、ほっとけばいいかというと、千一回に一度は奇跡のようなお客様にぶつかることがある。

先ず、ご自分できちんと名乗り、興味を持ってくれれば、画廊に訪ねていらっしゃる。
こういう、真っ当な人間に出会うと、思わず
「私、あなたにとことん尽くします」という気持ちになる。
私の画廊が、なぜこういう作家を支持し、お客に勧めるのかを、画商人生の全ての経験と知識を総動員してしゃべる(私は画家ではないから、言葉でしか表現できない)。
画商って、コレクターの僕(しもべ)なんですよ。

私、この人のためなら人生をかけたいと思った客が数人いる(無念なことに多くはお亡くねりになってしまった)。
自分の信じる美神をともに仰ぎたい、そういう客に巡り合いたい、画商の夢です。