「三匹の蝶(15点組)」
1985 カラーメゾチント
Image Size 12.0×11.8cm
Sheet Size 38.0×28.0cm
Ed.50(ve 18/50) Signed
◆長谷川潔が再興したメゾチント技法により多くの秀作を残した浜口陽三(1909~2000)ですが、来年は生誕100年を迎えます。きっと記念の展覧会も開かれることでしょう。
カラー作品が浜口先生の真骨頂であり、この「三匹の蝶」も4版(イエロー、レッド、ブルー、ブラック)を重ねて刷りあがった作品ですが、特別バージョンがあり、ご紹介する作品には、ご覧の通り14点の別刷りがついています。
これは最近私どもが海外のコレクターから入手したものです。
◆1980年代にパリからアメリカ西海岸に移った浜口陽三は、新たに契約したヴォーバル画廊が版元となり、このような別刷りを加えた作品が発表されるようになりました。
早速、カタログレゾネの記述を見てみましょう。
(浜口陽三全版画作品集,中央公論美術出版)
No.176-1「三匹の蝶」1985 color mezzotint
Ed.150, AP=20(Ⅰ/ⅩⅩーⅩⅩ/ⅩⅩ), HC=15
No.176-2「三匹の蝶(15枚組)」1985
Ed.52(a/zーz/z, aa/zzーaa/zz)
No.176-3「三匹の蝶(7枚組)」1985
Ed.50(ve1/50ーve50/50)
つまりこの「三匹の蝶」には、エディションが3種類あり、本体の完成作品は同じものですが、
No.176-1は完成作品のみの1点でEd.150。
No.176-2は別刷りを含む15枚組でEd.52。
No.176-3は別刷りを含む7枚組でEd.50。と読めます。
限定番号の入れ方は混乱を避けるために、
No.176-1 Ed.150
(*レゾネに記載はないけれどおそらくは、 1/150-150/150)
No.176-2 Ed.52(a/zーz/z, aa/zzーaa/zz)
(*これは明らかにレゾネの誤記で、おそらくは、a/zーz/z, aa/zzーzz/zz)
No.176-3 Ed.50(ve1/50ーve50/50)
となっています。
ちょっと面倒ですが、このレゾネの記述と今回私たちが入手した作品は一致しません。
完成した作品には、限定番号が<ve18/50>と記入されており、これはレゾネNo.176-3に相当します。
しかるに、別刷り14枚(番号、サインともになし)を見ると、レゾネNo.176-2に相当するのではないかと思わざるを得ません。
なぜこういう組み合わせの作品があるのか。ミステリーです。
私どもから旧蔵者に問い合わせたところ、他の複数の作品とともにプレゼントされたとのこと。つまり本人が好きで買った作品ではないので、レゾネとの照合もせずに、まとめて私たちに譲渡することになったようです。贈り主は明かされませんでしたが、おそらく版元周辺からでしょう。
考えられるのは、No.176-2(15枚組)と、No.176-3(7枚組)が両方あり、売る時に本体の完成品(サイン、番号入り)を誤って入れ替えてしまったということでしょうか。
このような別刷り(完成前の各色の別刷り)を加えてエディションすることは、珍しいことではなく、例えばマルク・シャガールの「アラビアン・ナイト」などが有名です。
ただし、それらの多くは、せいぜい数部(一桁)が作られるに過ぎず、このように別刷りを50部も作って加えるなどという例は、私は余り知りません。
ともあれ、カラーメゾチントの巨匠の珠玉の作品がいかに作られたかを知ることのできる珍しいセットといえるでしょう。状態は完璧です。
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