小野隆生の「断片」をめぐって
その2. 帽子―――もうひとつの愛すべきモノ
深夜に塗られた影

 靴とともに、小野隆生が愛してやまないのが帽子です。彼が身につけるのはソフトハットやパナマハットといった、これもまたクラシックなスタイルのものです。その代表がボルサリーノです。アラン・ドロンとジャン・ポール・ベルモンドの二人が主演した映画『ボルサリーノ』(1969年)で、日本でも一躍有名になりました。ちなみにボルサリーノとは150年の歴史をもつイタリアの帽子のブランドで、そのなかでとくに知られているデザインを指して広くボルサリーノと呼ぶようになったようです。
 画家は愛用の帽子を、友だちに会いに、あるいは映画を見るなど、街へ出るときに被ります。画家のアトリエがあるチッタ・デッラ・ピエヴェという中世の面影を残す街に、その帽子はすんなりと溶け込んで見えます。
 さて、ここでちょっと想像力を働かせてみてください。まず、縦長の画面を想定します。その下方に前回登場の「靴」を、そしてかなり距離をとった上方に「帽子」を置きます。二つのあいだには……、そう画家の姿が浮かんできませんか? 往年の名画を見に街の小さな映画館へ向かう姿が。
 「断片」にはそんな楽しみ方もあるのです。   
    (2008年7月1日 いけがみちかこ)

*掲載図版は小野隆生「深夜に塗られた影」池田20世紀美術館カタログno.9
1998年 テンペラ・板 62.0×100.8cm

◆6月26日~9月30日までの三ヶ月間、伊豆の伊東にある池田20世紀美術館で「小野隆生展 描かれた影の記憶 イタリアでの活動30年」が開催されています。

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