14日(日)は群馬県伊香保のハラミュージアムアークで、建築家・磯崎新先生の喜寿のお祝いの会が盛大に催されました。歴代のアトリエOBたちを中心に、磯崎建築にかかわってきた150人もの人が大集合。
私たちも例によって植田実先生はじめ磯崎新連刊画文集「百二十の見えない都市」の制作サポートチーム兼露天風呂愛好会で連れ立って参加してきました。そのご報告は後ほどするとして、先日、行ってきた名古屋ボストン美術館「一俳人のコレクションによる 駒井哲郎銅版画展~イメージと言葉の共振~」(9月28日まで)について、記憶の鮮明なうちにご報告します。もちろんきちんとメモをとってきましたので、データは正確です。
名古屋B駒井哲郎展表駒井哲郎展_名古屋B裏


駒井哲郎名古屋B美展図録
駒井哲郎先生と親交のあった馬場駿吉氏の個人コレクションの展示です。
展覧会の概要は、同館のホームページをご覧いただきたいのですが、私は展示されている実物を同館学芸員のご厚意でいただいた出品リストを参照しながら、一点一点じっくりと拝見し、サインや限定番号などについて詳細にメモをしながら見てきました(さすがに疲れた)。
一部展示換えがあったようで、私が行った9月7日に展示してあったのは以下の作品です。
出品番号、タイトル、制作年、限定番号の順に記載しました。
<美->とは、1979年刊行の美術出版社のレゾネ『駒井哲郎版画作品集』の記載番号。
<都->とは、1980年東京都美術館の『駒井哲郎銅版画展』図録の出品番号です。

1.束の間の幻影 1951年 Epreuve d'Artiste 美-39、都-36
2.孤独な鳥 1948年 18/20 美-17、都-16
3.肖像 1948年 Epreuve d'Artiste 美-19、都-18
5.人形と小動物 1951年 Epreuve d'Artiste 美-43、都-41
6.時間の迷路 1952年 Epreuve d'Artiste 美-54、都-52
7.月のたまもの 1952年 4/27 美-56、都-54
8.廃墟 1954年 Epreuve d'Artiste 美-74、都-73
9.教会の横 1955年 13/25 美-83、都-84
10.ある空虚 1957年 16/20 美-88、都-88
11.夜の森 1958年 15/25 美-101、都-99
12.樹 1958年 Epreuve d'Artiste 美-90、都-90
13.鳥と果実 1959年 Epreuve d'Artiste 美-120、都-119
15.「13」 1959年 Epreuve d'Artiste 美-114、都-113
17.貝 1961年 5/8 美-162、都-165
19.三匹の小魚 1958年 Epreuve d'Artiste 美-108、都-105
21.二つの球 1973年 2/20 美-302、都-310
  *レゾネ、及び都美図録には<Ed.75>としか記載されていません。
   季刊雑誌『版画芸術』特装版のために限定75部刷られたのですが、
   この馬場コレクションのおかげで、他に限定20部が存在したことが
   あきらかになりました。
23.審判 1962年 5/14 美-169、都-169
25.機械 1958年頃 美-113、都-109
  *出品リストには<Epreuve d'Artiste>と記載されていますが、
   マットで隠されているのか、展示の実物にはその文字は見えません
   でしたが、作品右上に<A monsieur Baba>と記載されていました。
26.人形 1966年 25/50 美-211、都-215
27.一樹 1960年 2/12 美-144、都-145
28.大きな樹 1971年 197/200 美-288、都-295
29.蛇 1973年 V/V 美-296、都-303
31.賭 1958年 美-96、都-63
  *今回の収穫のひとつで、カラー作品の初期を飾るものです。
   残念ながら、プレートマークがマットで隠されており、
   サインも限定番号も見ることができませんでした。
   出品リストにも何の記載もありません。
32.喰う女 1960年 Ep.d'essai 美-132、都-131
  *Ep.d'essai とは試刷りのことです。
33.実 1961年 2/12 美-149、都-151
34.笑う人 1961年 2/15 美-150、都-153
35.蟹 1961年 2/15 美-153、都-156
36.人のようなネコ 1961年 2/15 美-152、都-155
37.顔の軌跡 1961年 2/10 美-159、都-159
38.小さな人 1962年頃 2/15 美-161、都-176
39.妖し 1961年 16/20 美-156、都-157
41.枝おろし 1966年 Epreuve d'Artiste 4/7 美-203、都-208
  *安東次男との詩画集『人それを呼んで反歌という』の中の
   一点です。出品リストには限定番号の記載はありませんが、
   実物には、詩画集の中の作家保存版の一部である
   <Epreuve d'Artiste 4/7>が記載されていました。
42.庭の小虫 1961年 15/20 美-206、都-150
  *出品リストには<6/20>と記載されていますが、実物には
   <15/20>と記入されていました。リストの誤記か、又は
   同じ作品がもう一点あるのでしょうか。
43.蝕果実 1960年 Epreuve d'Artiste 美-128、都-127
  *安東次男との詩画集『からんどりえ』の中の一点ですが、
   もともとは「Juin 球根たち」という題名だったものを
   前回29回で論じたように、後に別刷りした際に「蝕果実」
   と改題されました。
44.Juin 球根たち(詩画集のための試刷り) 1960年 Epreuve d'Artiste 美-128、都-127
45.安東次男『からんどりえ』(CALENDRIER) 1960年 美-123~131、都-122~130
  *詩画集本体の展示で、奥付けは見えませんでしたが、出品
   リストには<37/37>と記載されています。
46.小山正孝『愛しあふ男女』 1957年 15/152 美-84、都-85
  *この連載の20回21回で詳しく論じましたが、
   やはりこの作品の限定部数の分母は152部のようですね。
47.岡安恒武『GOLGOTHA』 1953年 14/15(50) 美-67、都-65
  *これについても、第2回で論じましたが、
   やっと限定番号とサインの記入された実物(Ed.15)を
   見ることができました。
48.ロオトレアモン、訳 青柳瑞穂『マルドロオルの歌』1952年 美-48~53、都-46~51
  *詩画集本体の展示で、奥付けは見えませんでしたが、出品
   リストには<44/350>と記載されています。
49.『銅版画のマチエール』 1976年 125/125 
  *これはノーサインです。レゾネにも都美図録にも未掲載の作品です。
51.暑中見舞(手) 1961年 Epreuve d'Artiste 美-354、都-354
53.芸大アトリエC-126展 カレンダーのための小品 1973年 15/28
  *良く知られた作品ですが。レゾネにも都美図録にも未掲載です。
   カレンダーの他に、別刷りが28部あったのでしょう。
54.『断面』フロントピース 1964年 Epreuve d'Artiste 美-176、都-184
55.風景 1954年 Ep.pour Shunkichi Baba 美-75、都-74
56.馬場駿吉『断面』 1964年 特装版(1/50)、並装版(500部) 美-176、都-184
59.『断面』フロントピース 1964年 Epreuve d'Artiste 美-176、都-184
60.小さな幻影 1950年 Epreuve d'Artiste 美-24、都-24
61.二樹 1970年 13/200 美-278、都-285
62.思い出 1948年 14/20 美-18、都-17
  *これも今回の収穫の一つでした。この作品については、
   レゾネには<限定20部 E.A.>とあり、都美図録には、
   <Ed26 E・A>とあり、混乱していました。
   この作品にはセカンド・エディションがないはずなので、
   都美図録のEd.26は誤記でしょうね。
   因みに、都美収蔵作品は<16/20>、埼玉近美収蔵作品は
   <Epreuve d'Artiste>です。
63.海底の祭 1951年 Epreuve d'Artiste 美-40、都-38
64.岩礁にて 1970年 124/500  美-239、都-247

さすがに駒井先生の信頼を得て、同時代的に収集されただけあって粒ぞろいで感銘を受けました。
特に、限定番号については、私はたいへん勉強になりました。
番号入りの作品について、2番が多いことは、ある物語を感じさせます。限定番号とはもちろんその作品の戸籍みたいなものですが、これがあるおかげで、たとえばその1番を誰が買ったかということを追跡調査することも可能です。これについては次回以降に詳しく論じましょう。
特筆すべきは、エプルーブ作品ですが、ほとんどが<Epreuve d'Artiste>と駒井先生の几帳面な細かな字で記載されていることです。<E.A.>または<Ep.>などと略されて記載された作品はただの一点もありませんでした(一点だけ、Ep.pour Shunkichi Babaとあり)。
駒井先生の番号入りとエプルーブ(Epreuve d'Artiste)の区別については、非常に微妙かつ困難な問題があり、これを論じると日が暮れるどころではない。
しかし、おいおいと私の知っていることは書いていきましょう。
とにかく、点数は少なくても、非常に質の高い、見ごたえのある展覧会でした。ぜひ名古屋方面に方はお見逃しなく。
この展覧会については、次回も続いてご紹介します。