ときの忘れものの掲示板には、熱心なコレクターの皆さんの投稿があります。とてもありがたいことで、先日創刊した「ときの忘れものアーカイヴス」も掲示板での論議がきっかけで誕生しました。
残念なことに、過去において掲示板荒らしにたびたび遭い、さらに自動送信を思われる迷惑メールが殺到し、一時閉鎖に追い込まれました。いまはパスワード形式にしているので、上述のような被害にはあっていませんが、そのかわり誰でも直ぐに見られなくなりました(簡単なシステムなので、どなたでも閲覧、書き込みできます)。せっかくの皆さんの論議が、消えて行くのも惜しいし、コレクションする人への貴重なアドバイスにもなっているので勝手に再録させていただきます。前後の詳細は掲示板をご覧ください。
 先ずは、某廣瀬さんからの投稿です。
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 三浦さんと尾立さんの「写真に恋する」の解説、楽しみに読んでおります。他には写真作品に対するわかりやすい説明・解説が少ないですね。既にある程度のプリントに対する知識を持っている前提の解説が多いようです。貴重なブログです。
私も最近写真の書物をぼつぼつ読み始めましたが、コレクター向けは皆無ですね。版画に興味を持ち始めたころは「版芸」がバイブルでバックナンバーをすべて集めて読みました。巨匠から新人紹介、そして市場価格動向まであります。しかし写真についてのものはないようです。
(気がつかないのかもしれませんが)もっともっと写真について知りたいと思っています。原茂さんの「stamp of Berenice Abbott on the back」もほとんど知らないのではないでしょうか。私も今日、手許にある細江さんの「写真の見方」で知りました。このような状況では、写真家、画廊のオリジナルプリント販売は難しいと思います。若い世代には「版画」より「プリント」のほうが受け入れやすい時代になっていると思います。どこかでオリジナルプリント付の季刊「写真芸術」でも出版してくれないでしょうか。先日の五味さんなんかすぐに巻頭特集されるでしようね。原さんの眼と知識には脱帽です。それとコレクター日記はどこか引き続きアップされているのでしようか。
とりとめのない話ですみません。引き続き両氏の連載、拝見します。  
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 それに対する某原茂さんからの返信は以下の通り。
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 広瀬様、過分なお言葉恐縮です。初めて写真を買ってからようやく10年(しかも予算が月3万円! 最近はそれさえも危うい!!)という「青二才」がそこそこ大きな顔をしていられるのが、このジャンルがまだまだこれからの(だからこそチャンスがごろごろしている)分野だということの何よりの証拠かと思います。
 私も写真の勉強は『写真の見方』からでした。とても本まで回す予算はなかったので、図書館で「写真」とタイトルの付いた本を片っ端から借りたような気がします。
 コレクター向けの本はまだまだ少ないですが、坂川栄治さんの『写真生活』(晶文社、2002年)はそのものズバリの本ですし、安友志乃さんの『撮る人へ』(窓社、2001年)の中の「写真を買ってみよう」、飯沢耕太郎『写真評論家』(窓社、2003年)の中の「写真の方舟」(インタビュー)などは今読んでも(いろんな意味で)面白いと思います。最近の写真の本であれば、「写真を買うこと」についてもきちんとスペースを割くようになってきているので、目次に目を通していただければ意外な発見があるかもしれません。小林美香『写真を<読む>視点』(青弓社、2005年)の第6章「美術館と写真-写真を蒐集する視点」、飯沢耕太郎『写真を愉しむ』(岩波新書、2007年)の第4章「集める愉しみ」などは読み応え充分です。
 雑誌としては、安友志乃『撮る人へ』の出版をきっかけにして、「写真売ります。写真買います。」を売り文句に2002年に創刊された窓社の雑誌「Photo Pre」が、写真の売買についてかなり意欲的に取り上げていたように思います。写真を売る立場のギャラリストや、コレクションする立場の美術館のキュレーター、プリンター、写真集専門の書店主といった、これまであまり取り上げられることのなかった写真関係者を積極的に取り上げ、現在8号まで出ています。私も「写真を買うということ」とのタイトルで、第2号から書かせていただき、アジェ、北井一夫、蔵真澄、植田正治、金子典子、リー・フリードランダー、進藤典子の作品を買ったり買えなかったりした小コレクターのドタバタをご紹介させていただきました。特に、第7号と第8号では「ギャラリーで写真を買う醍醐味」と題して、「ときの忘れもの」亭主様と対談させていただく光栄を得ました。書籍扱いの雑誌だと伺っていますので、今でもバックナンバーが手にはいるはずです。
 残念ながら、雑誌「Photo Pre」は8号までで休止となり、その後、WEB「J-Photo」http://the-za.somard.co.jp/j_photo/index.html 上の一コンテンツ「Photo Pre ON-LINE」となって、「写真を買うということ」はそこで「原茂日記」として不定期連載させていただくことになりました。現在は、画面の一番下の「サイトマップ&旧コンテンツ」の中の「原茂日記」http://the-za.somard.co.jp/j_photo/jp_space/photopre_007.shtml、それ以前のものは「過去記事倉庫」 http://the-za.somard.co.jp/j_photo/jp_space/photopre_old.shtml の中に他の記事と一緒に眠っています。(直接リンクはしていないようですが、WEB上で「原茂日記」「Photo Pre過去記事倉庫」等で検索していただければ掘り出せると思います)。とはいえその日記も2007年2月19日で更新が止まっており、多方面にご迷惑の掛け通しです。現在はこの「ときの忘れもの」HP上に出没させていただいているような次第です。
 WEB関係では、「ブリッツ・ギャラリー」http://www.artphoto-site.com/gallery.html の「アート・フォト・サイト」http://www.artphoto-site.com/ の「コレクターズガイド」 http://www.artphoto-site.com/collection.html が充実しています。私も何枚かコレクションさせて頂いている写真家の渡部さとるさんのHP「sutudio monochorome on the web」 http://www.satorw.com/ の「diary」(ブログ)では、写真家の立場から見た(渡部さとるさん自身、ウィリアム・クライン、森山大道、田中長徳、中藤毅彦、小林紀晴のニューヨーク、北井一夫の北京など名作中の名作のコレクターでもあります)プリントの販売についての慧眼に満ちたコメントが綴られています。
 勉強になるのはオークションのカタログです。ササビーズ http://www.sothebys.com/ でもクリスティーズhttp://www.christies.com/ でも注文すれば送ってくれるはずです。(HPから注文できますし、オークションのリザルトも見ることができます)。どんな作家のどんな作品が高く評価されているか、評価のポイントはどんなところかなど、辞書を片手にギネスのスタウトをちびちびやりながら頁をめくるのは至福のひとときです。
 とはいえ、私にとっていちばんの写真の先生は、写真を愛し、その愛する写真を次の世代に手渡そうとしているギャラリストの方々でした。写真への扉を開いてくださったイル・テンポの石原和子さん、ツァイトの石原悦郎さん、最初に写真を買うことについての文章を書くことを勧めて下さったホカリファインアートの安友志乃師匠(!)、DaysPhotoGalleryの浦井美弥さん、ルーニイの篠原俊之さん、Nadarの林和美さん、PUNCTUMの寺本一生さん、大阪はThird Gallery Ayaの綾 智佳綾さん、EARLY GALLERYの有田泰子さん、自主ギャラリーで頑張っている皆々様、そして我が(?)「ときの忘れもの」のご亭主と三浦さん。このなかのいくつのギャラリーは残念ながら今は記憶の中にしかありませんが、そこで交わした言葉のひとつひとつは、購入した作品と同じぐらい(ときにはそれ以上)の私の宝物です。
 多くの方がこの宝の時間をギャラリーで過ごしてもらえたらと思っています。それこそが「ギャラリーで写真を買う醍醐味」なのですから。
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こういう熱心なコレクターこそが、美術市場を成熟させ、ひいては作家たちを励まし、支えていくのでしょう。今後とも皆さんの活発なご意見をぜひよろしくお願いいたします。