ゾーンシステムを巡って 中島秀雄
 写真は科学と化学、そして、アートがつながったもので、テクノロジーの進歩と共にその表現領域を広げてきた。従来の写真は、撮影のためのフィルムにしてもプリントにしても銀の化学変化によって画像形成するもので、暗室作業という独特のプロセスゆえに勘や経験と多少の忍耐と時間を必要とした。昨今、デジタル技術の飛躍は、写真の世界に大きな変革をもたらした。フィルムに代わる記憶素子とパソコン・プリンターによる処理に切り代わり、速写性や通信機能という面から見ればこれほどすぐれたものはない。
しかし、従来の銀塩写真に魅力が失われてしまったといえるかというとそんなことはまったくないと思っている。
 学生時代、私は、プリンターに選ばれた。文化祭のための学年クラス作品提出のために全員のネガを集め、私がまとめてプリントすることになった。ところが、このときに集めたクラス仲間25人ほどのネガは、その濃度、ネガサイズはバラバラで、そのバラバラなネガからのプリント制作にはほとほと苦労したことを記憶している。
銀塩写真の大きな特徴は、言うまでもなくまずこのネガにあるといえる。そして、ネガ作りこそ銀塩写真の魅力の一つであり、強さであると思っている。
 アメリカの有名な写真家アンセル・アダムスは、10代の頃、写真に深く関っていたが、すでにコンサート・ピアニストになる決意を家族の前で語り、メイソン&ファミリンのグランドピアノまで買ってもらっていた。しかし、ニューメキシコ州タオスへ撮影旅行に行ったときに、当時有名だった写真家ポール・ストランドに会い、彼のネガを見せてもらいその美しさに感動して写真家に転向してしまった。その頃、アダムスは、すでにすばらしい作品を創っていたが、やはりネガ作りには苦労していて、すばらしい銀塩プリントを創るための理想的なネガがあるはずだとたえず考えていたのだろう。たった一枚のネガが、1人の人間の人生を変えてしまったのだ。(なかじま ひでお)
アンセル・アダムズ
Ansel ADAMS アンセル・アダムス
"Forest Detail, Winter Yosemite National Park, California "
1949 printed later
Gelatin Silver Print
24.0x19.2cm signed"AA"
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銀塩写真の魅力
画廊亭主敬白
 ときの忘れものでは、明日6月9日(火)より27日まで「銀塩写真の魅力 Gelatin Silver YES!」展を開催します。
 写真の歴史は僅か200年にも満たない、人類が創ってきたさまざまな表現(芸術)分野の中では最も新しいものの一つですが、既に「銀塩写真」は廃れ行く運命にあるかに思われます。
 今回、G氏の協力により、短い写真史の中でも古典ともいうべき評価を得ている作品を中心に銀塩写真の魅力を伝える展覧会ができることとなりました。
 アンセル・アダムスの提唱したゾーンシステムを実践している中島秀雄先生に、銀塩写真の魅力を執筆していただきます。ぜひ会場で15作家の実作を見ながらお読みください。

◆ときの忘れものは「銀塩写真の魅力 Gelatin Silver YES!」展の会期中、6月20日[土]17時より「オリジナルプリントをコレクションする愉しみ」と題して、写真評論家の飯沢耕太郎氏によるギャラリートークを開催します。
参加費1,000円(1ドリンク付)
※要予約/氏名・電話番号を明記の上、メール( info@tokinowasuremono.com )、電話(03-3470-2631)、又はファックス(03-3401-1604)でご予約ください。