ゾーンシステムを巡って 中島秀雄
新たな仕事は、男と女がテーマになっていた。しかし、最初に仕上げたプリントではイメージが弱く、作品にはならなかった。次に、製版用フィルムに転写してネガを作ってみたが、これもうまくいかなかった。そこで、画像マスクを作ってプリント露光の際に光をさえぎる方法に切り替えてみたところ、これはうまく行った。しかし、画像マスクを操作するためにもう1人の助手を必要とするときもあり、結局、全作品の完成まで半年間、根気と集中力を必要とする仕事になった。写真表現の可能性を広げる貴重な経験にはなったが、いくらうまく行ったからといって私の作品を作ったわけではなく、満足感はすぐに消えてしまった。そして、この経験から私は、写真の全てを1人で進めるためには、撮影から現像、プリントまでのよどみない技法を構築しなければならないと考えるようになった。
一日の仕事が終わった後の楽しみは、写真集や海外から収集したオリジナルプリントを眺めることだった。ウィン・バロック、エドワード・ウエストン、中でもアンセル・アダムスのシャープなファインプリントには、印刷では味わえない深い黒から豊かなハーフトーン、そして、輝くようなハイライトに写真の美しさ、強さを感じ、写真に関ってきた幸福感、これからも写真を続けることの決意のようなものを感じさせてくれた。同時にどうしたらこんなプリントが出来るのか、写真が撮れるのか、新たな好奇心と欲望がプリントを持つ指先から伝わってきた。
仕事が終わるのは夜になることもある。この日は、いつもと違う本棚に目が向いた。写真集の黒い背表紙に挟まれ、黄色の小さな本に目が止まった。ZONE(ゾーン)という文字が目に入った。(なかじま ひでお)

Wynn Bullockウィン・バロック Wynn BULLOCK
Child in the forest"
1951 printed later
Gelatin Silver Print 19.2x24.2cm signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから

◆ときの忘れものでは6月9日[火]―6月27日[土]「銀塩写真の魅力~Gelatin Silver YES! 」展を開催しています。ゾーン・システムを考案したアンセル・アダムス、それを現在日本で実践する中島秀雄、複数のネガを用いてひとつの画像を作り上げるジェリー・ユルズマンなど暗室作業にこだわった作家のほか、ウィン・バロックの代表作「森の中の子供」、エドワード・ウェストンの「ヌード(1936)」をはじめ、ルイス・キャロルレスリー・R・クリムスハーブ・リッツ植田正治今道子クリス・ジョンソン安齊重男アレン・ダットンフレッド・シールジル・ペランの15作家の写真を展示しています。