ゾーンシステムを巡って 中島秀雄
手に取ったポケットサイズの表紙には、”Zone System Manual”と書かれている。本文の大きな英文字に意味は取りやすいと思ったが、最初のワードZone System, Visualizeからは、およそ写真の意味は取れなかった。著者は、M.I.T.の写真教授マイナー・ホワイトであるから、白黒写真の撮り方のようだと勝手に考えページをめくった。しかし、日本にある写真の撮り方本とは違っていた。“フィルムの感度テスト 、標準現像時間テスト、ゾーンルーラー、カリブレーション、マイナス現像、プラス現像” と気になる項目が次々と現れた。ページには写真、ゾーンステップ、ゾーンメーター、所々にイラストが描かれ、光、露出、現像、プリントの関係が視覚的に分かるようになっていて、私が今まで聞いたこともない新たな技法に引き込まれていった。冒頭に、 ”アンセル・アダムスは、長年ゾーンシステムによって撮影してきた” との一行を知ったとき、私は、アダムスのファインプリントの秘密はこのゾーンシステムにあると直感した。
アダムスの考えるゾーンシステムはこうだ。まず、銀塩写真の中核である印画紙に現せる最大黒から最大白までを1絞り差で10段階のトーンステップを作り、これにローマ数字をつけてゾーンルーラーとする。最大黒をゾーン0、中間をゾーンⅤ(18%グレー)、最大白をゾーンⅨとし、これを外に持ち出し、露出計を使ってなだらかな色彩の風景を10ゾーンで区分けして見る。そこからプリントに必要なシャドー、ハーフトーン、重要なハイライトがどこなのか分かり全体としてどんなプリントになるのか、どんなプリントにしたいのか、その場でビジュアライズ(想定・予知)が可能になる。次に、ゾーンの確認から露出のキーを見つけ、ゾーンに見合うフィルム現像の予測、被写体、時間、場所、絞り、シャッタースピードのデーターを含め専用のノートに記録してから撮影となる。そして、記録ノートに従って現像、プリント処理へとシステムにしていくというものなのです。(なかじま ひでお)

◆ときの忘れものでは6月9日[火]―6月27日[土]「銀塩写真の魅力~Gelatin Silver YES! 」展を開催しています。ゾーン・システムを考案したアンセル・アダムス、それを現在日本で実践する中島秀雄、複数のネガを用いてひとつの画像を作り上げるジェリー・ユルズマンなど暗室作業にこだわった作家のほか、ウィン・バロックの代表作「森の中の子供」、エドワード・ウェストンの「ヌード(1936)」をはじめ、ルイス・キャロル、レスリー・R・クリムス、ハーブ・リッツ、植田正治、今道子、クリス・ジョンソン、安齊重男、アレン・ダットン、フレッド・シール、ジル・ペランの15作家の写真を展示しています。
出品作品を収録したリーフレット(A5判、20頁、テキスト:中島秀雄)が完成しました。(@300円、送料120円、切手可)、メールにてお申し込みください。