昨日は冬並みの寒さにふるえながら川崎市岡本太郎美術館に向かい「前衛下着道-鴨居羊子とその時代 岡本太郎・今東光・司馬遼太郎・具体美術協会」展のオープニングに出席してきました。
ここは入り口から結構歩かねばならないのですが、生田緑地の木立の新緑が美しく、ひんやりとする冷気さえもほほに気持ちよい。
森林浴の気分です。
亭主はオープニングが苦手であまりこういう席には出ないのですが、今回ばかりは十二分に楽しんできました。
四谷シモンさん、山本容子さんなどにご挨拶。
四谷さんは先日の井桁裕子展にご来廊いただいたのですが、「あの人は凄い人だよ」と、絶賛のお言葉。井桁さんがいたら泣いて喜んだろうに。
展覧会は盛りだくさんすぎて構成がこなれていない憾みがありますが、「下着」を美術館企画のテーマにしたことの着眼点が抜群です。詳しくは後日報告したいのですが、遠出をする価値は十分にあります。カタログも労作で、具体を生んだ関西パワーを関東人が知るには格好の文献です。
亭主としては70年大阪万博の磯崎新先生のロボットが実際動いている映像を観られただけで感激でした。
鴨居さんがデビューした50年代末を彷彿とさせる下着ショウと宝塚と、SMショウをごっちゃにしたようなオープニング・イベントも、何か60年代のエネルギーを感じさせ嬉しい。
こういう企画を生みだす村田慶之輔館長の手腕に賛辞を送りたい。
招待券が少しありますので、ご希望の方はメールでお申し込みください。

さて、現在開催中の「The NUDE 写真展」の出品作家中、最年少の井村一巴さんの作品をご紹介します。
井村の作品はたしかに写真なのですが、よく見ると画面のそこここに淡く白い線や点が無数に刻まれて、煙のような絵が描かれています。

ときの忘れものでの2007年の個展で初めて「Photograph with pin scratchings」と自ら名づけたこの技法の作品を発表します。

個展の折に岡部万穂によって執筆された批評がこの技法の誕生を簡潔に紹介しています。
(以下、岡部執筆の「井村一巴〈セルフポートレイト展〉――“主観”を超えて」から引用)

(略)
井村は黒いバックの前に佇むモノクロのポートレイトを撮影している。
撮影は、両親が運営する小さなギャラリーのスペースを借り、深夜、夜通し行なわれる。黒い布の前に一人たたずみ、さまざまなポーズを取ってみる。正面から、斜めから、頬杖をつき、椅子に座り、椅子の上に不自然な姿勢でしゃがみこみ――一晩で、36枚撮のフィルム5~6本をあっという間に使い切り、夜通し撮りつづけた翌日は筋肉痛に悩まされるという。井村にとってポートレイトとは、身体を張ったパフォーマンスでもある。表現ではなく、主観を超えて、進んでいくための。
そして井村は、モノクロのセルフポートレイトの表面を、買った洋服の値札を止めている小さな安全ピンの先で削り、絵を描きはじめた。
柔らかな光沢を持つ印画紙の表面は、針の先で削られてめくれ、支持体の紙が覗いて、かぼそくも白く鋭い線となる。ポートレイトに絡みつくように描かれたそれらは、植物のつるのようであったり、背景一面に降り注ぐ雨であったり、背中に生える翼であったり、頭の上にチョコンとかぶせられたティアラであったりする。楽しげに描かれたこれらの絵は、ただひたすらにかいわらしく、やさしい。(以下、略)

058garden1_2008井村一巴
"garden 1"
2008年
ゼラチンシルバープリントにピン・スクラッチ
59.0×39.0cm  Ed.1
サインあり


060fluid_2008井村一巴
"fluid 1"
2008年
ゼラチンシルバープリントにピン・スクラッチ
59.0×39.0cm  Ed.1
サインあり

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◆ときの忘れものは、2010年4月13日[火]―4月24日[土]「The Nude 写真展」を開催しています。
NUDE展DM
ロバート・メイプルソープ、細江英公、マン・レイ、植田正治、ジョック・スタージス、イリナ・イオネスコ、カリン・シェケシー、エレン・フォン・アンワース、中島秀雄、大坂寛、井村一巴、五味彬、服部冬樹、菅原一剛たちのヌード作品をご紹介しています。