現代版画センター以来のお客さまであるMさんは数年前に長年務めた会社を定年退職して故郷の神戸に戻られた。
先日久しぶりに上京、来廊されるなり「あんたんとこは宗旨替えしたんか。最近は写真ばっかりやないか」とお叱りを受けた。
「んなことありません、版画は私の命ですから」と抗議したのですが・・・(と小声になる)
Mさんは今からン十年前、谷中安規の代表作約40点をそれと知らずに(つまり売る方も、買う方も安規を知らなかった、いい時代ですね)買ったという名うてのコレクターです(今は兵庫県立近代美術館に寄託されていて、安規展には欠かせない塊です)。
運も才能のうち、といいますが、運だけではなく、それが何者かも知らずに己の審美眼のみで買うことを決断できる、それがコレクターのコレクターたる所以です。
そんな折、オーストラリア在住のXさんから大意以下のようなメールが届きました。
Xさんは先般ご紹介したオリヴァー・スタットラー著『よみがえった芸術ー日本の現代版画』刊行にも参加された気鋭の美術史家です。
Xさんの了承を得たのでご紹介します。
■Xさんから亭主へのメール
現在シドニー大学で来年4月に開催される展覧会を企画しております。
概要につきましては、オーストラリア大使館のサイトに投稿いたしましたのでご笑覧いただければ幸いです。
この展覧会に展示するヨーロッパ版画を当地の美術館から借りるのに苦労しておりますが、知人の日本人ギャラリーオーナーが以前リュバルスキーの「救世騎士団」を持っていたことを思い出し、ローンをお願いしに先日行ってみましたら、どうも紙が1920年とは思えず、かといって複製版画を作るような作品でもないので、当惑しておりました。
ネットで調べたところ、綿貫さんの記事(「ときの忘れもの」第03号)を見つけて拝読し、ようやく納得がいきました。
(彼女は、日本からネットで購入したとのことです)
キャプションには、「original c.1920 reprint 1975」としておきます。
それにしても不思議な話ですが、当面の謎が解けましたので、一言お礼を申し上げたくご連絡させていただきました。
■亭主からXさんへの返信
懐かしいお便り、ありがとうございます。
ご活躍の様子、何よりです。
リュバルスキーの原版8枚は、今でも私の手許にあります。
いつでもお貸しできますので、何か必要があったらおっしゃってください。
旧所蔵者の品川清さんも亡くなられました。
お子さんがおられなかったので、コレクションや旧蔵書などは私が一部処分を任されました。
有名な品川一族のお一人です。
つまり、品川力さん(ペリカン書房)、品川工さん(版画家、恩地孝四郎さんのお弟子さん)らはたしか従兄弟にあたります。
創作版画の歴史にまつわるいろいろな人脈も、知る人が段々少なくなり、昔話をできる人がいなくなりましたが、片方で気鋭の女性研究者たちが輩出、素晴らしい研究成果も出てきています。
ご帰国の折はまたぜひお立ち寄りください。
展覧会のご成功をお祈りしています。
******************
いや私も驚きました。
詳しくは、版画掌誌第3号の編集後記(編集続行中)をお読みいただきたいのですが、故・品川清さんがロシアからはるばる渡来したリュバルスキー Pavel Vasil’evich LIUBARSKY のリノカット原版を団子坂の骨董店で手にいれたことから、数奇な物語がはじまります。
前述のMさん同様、品川さんは私が言うまでリュバルスキーの名すら知らずに、原版一束を買ったのでした。
版画家・品川工さんの一族だけあって、品川清さんはコレクターでもあり、また趣味で版画を制作したり、骨董店で見つけてきた版木(例えば平塚運一)を使って後刷りをして、仲間に無償で配布するというようなこともやっていました。
品川清さんが善意で(趣味で)後刷りしたリュバルスキーのリノカット版画がその後、人の手を経てゆくうちにいつしかオリジナルに転化してしまったという次第です。
それにしてもロシアにあった原版が日本に渡来、後刷りされた作品がオーストラリアへと流れ着き、現地の大学美術館の『サドラー教授と日豪版画のモダニズム(仮題)』展に展示される。これを機会にリュバルスキーの版画にきちんとした評価がなされることを期待しています。
ご紹介する下記4点は、品川清さんによる後刷りです。

リュバルスキー「まだ清純なからだ・・・」
版画集『Prostistutka』より8番
1920年頃 リノカット(1975年、摺り:品川清)
イメージサイズ:12.0×10.0cm
シートサイズ:23.0×17.0cm

リュバルスキー「まさかのときに」
版画集『Prostistutka』より6番
1920年頃 リノカット(1975年、摺り:品川清)
イメージサイズ:15.3×7.0cm
シートサイズ:23.0×17.0cm

リュバルスキー「満ち足りた生活」
版画集『Prostistutka』より5番
1920年頃 リノカット(1975年、摺り:品川清)
イメージサイズ:13.5×9.5cm
シートサイズ:23.0×17.0cm

リュバルスキー「救世騎士団」
版画集『Prostistutka』より11番
1920年頃 リノカット(1975年、摺り:品川清)
イメージサイズ:13.8×9.0cm
シートサイズ:23.0×17.0cm
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先日久しぶりに上京、来廊されるなり「あんたんとこは宗旨替えしたんか。最近は写真ばっかりやないか」とお叱りを受けた。
「んなことありません、版画は私の命ですから」と抗議したのですが・・・(と小声になる)
Mさんは今からン十年前、谷中安規の代表作約40点をそれと知らずに(つまり売る方も、買う方も安規を知らなかった、いい時代ですね)買ったという名うてのコレクターです(今は兵庫県立近代美術館に寄託されていて、安規展には欠かせない塊です)。
運も才能のうち、といいますが、運だけではなく、それが何者かも知らずに己の審美眼のみで買うことを決断できる、それがコレクターのコレクターたる所以です。
そんな折、オーストラリア在住のXさんから大意以下のようなメールが届きました。
Xさんは先般ご紹介したオリヴァー・スタットラー著『よみがえった芸術ー日本の現代版画』刊行にも参加された気鋭の美術史家です。
Xさんの了承を得たのでご紹介します。
■Xさんから亭主へのメール
現在シドニー大学で来年4月に開催される展覧会を企画しております。
概要につきましては、オーストラリア大使館のサイトに投稿いたしましたのでご笑覧いただければ幸いです。
この展覧会に展示するヨーロッパ版画を当地の美術館から借りるのに苦労しておりますが、知人の日本人ギャラリーオーナーが以前リュバルスキーの「救世騎士団」を持っていたことを思い出し、ローンをお願いしに先日行ってみましたら、どうも紙が1920年とは思えず、かといって複製版画を作るような作品でもないので、当惑しておりました。
ネットで調べたところ、綿貫さんの記事(「ときの忘れもの」第03号)を見つけて拝読し、ようやく納得がいきました。
(彼女は、日本からネットで購入したとのことです)
キャプションには、「original c.1920 reprint 1975」としておきます。
それにしても不思議な話ですが、当面の謎が解けましたので、一言お礼を申し上げたくご連絡させていただきました。
■亭主からXさんへの返信
懐かしいお便り、ありがとうございます。
ご活躍の様子、何よりです。
リュバルスキーの原版8枚は、今でも私の手許にあります。
いつでもお貸しできますので、何か必要があったらおっしゃってください。
旧所蔵者の品川清さんも亡くなられました。
お子さんがおられなかったので、コレクションや旧蔵書などは私が一部処分を任されました。
有名な品川一族のお一人です。
つまり、品川力さん(ペリカン書房)、品川工さん(版画家、恩地孝四郎さんのお弟子さん)らはたしか従兄弟にあたります。
創作版画の歴史にまつわるいろいろな人脈も、知る人が段々少なくなり、昔話をできる人がいなくなりましたが、片方で気鋭の女性研究者たちが輩出、素晴らしい研究成果も出てきています。
ご帰国の折はまたぜひお立ち寄りください。
展覧会のご成功をお祈りしています。
******************
いや私も驚きました。
詳しくは、版画掌誌第3号の編集後記(編集続行中)をお読みいただきたいのですが、故・品川清さんがロシアからはるばる渡来したリュバルスキー Pavel Vasil’evich LIUBARSKY のリノカット原版を団子坂の骨董店で手にいれたことから、数奇な物語がはじまります。
前述のMさん同様、品川さんは私が言うまでリュバルスキーの名すら知らずに、原版一束を買ったのでした。
版画家・品川工さんの一族だけあって、品川清さんはコレクターでもあり、また趣味で版画を制作したり、骨董店で見つけてきた版木(例えば平塚運一)を使って後刷りをして、仲間に無償で配布するというようなこともやっていました。
品川清さんが善意で(趣味で)後刷りしたリュバルスキーのリノカット版画がその後、人の手を経てゆくうちにいつしかオリジナルに転化してしまったという次第です。
それにしてもロシアにあった原版が日本に渡来、後刷りされた作品がオーストラリアへと流れ着き、現地の大学美術館の『サドラー教授と日豪版画のモダニズム(仮題)』展に展示される。これを機会にリュバルスキーの版画にきちんとした評価がなされることを期待しています。
ご紹介する下記4点は、品川清さんによる後刷りです。

リュバルスキー「まだ清純なからだ・・・」
版画集『Prostistutka』より8番
1920年頃 リノカット(1975年、摺り:品川清)
イメージサイズ:12.0×10.0cm
シートサイズ:23.0×17.0cm

リュバルスキー「まさかのときに」
版画集『Prostistutka』より6番
1920年頃 リノカット(1975年、摺り:品川清)
イメージサイズ:15.3×7.0cm
シートサイズ:23.0×17.0cm

リュバルスキー「満ち足りた生活」
版画集『Prostistutka』より5番
1920年頃 リノカット(1975年、摺り:品川清)
イメージサイズ:13.5×9.5cm
シートサイズ:23.0×17.0cm

リュバルスキー「救世騎士団」
版画集『Prostistutka』より11番
1920年頃 リノカット(1975年、摺り:品川清)
イメージサイズ:13.8×9.0cm
シートサイズ:23.0×17.0cm
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