倉俣史朗・関根伸夫・草間彌生の鏡の世界/It's a real★本物を買う!

先日、芦屋市立美術博物館の運営難について書きましたが、今度は東大の傍、弥生町にあった「立原道造記念館」から最後の館報が送られてきました。1997年の開館以来、ずっと赤字が続き、2009年10月創立者・鹿野琢見氏が亡くなり遂に力尽き、2月20日をもって閉館になりました。今後、遺された所蔵資料・作品などは窪島誠一郎氏が運営する信濃デッサン館に寄託し、同館で公開展示するとのことです。
寄託先となった信濃デッサン館も決して楽ではなく、その苦境を乗り切る為か2005年5月には所蔵する野田英夫作品などをオークションで売却するという挙に出たものの経営は好転せず、2006年にはいったん閉館すると発表したほどです(その後、一時休館を経て再開)。
芦屋のように公立美術館でさえ運営難に陥っているのですから、ましてや経済的基盤の薄い私立の記念館や美術館の難儀は想像にかたくありません。
アメリカのように公的な支援に頼るのではなく民間の寄付によって美術館が運営されていく風土ができればよいのですが、日本ではカミ頼み(神? お上?)の意識が強く、なかなか難しい。

さて、3月5日6日に開催する「It's a real★本物を買う!」の出品作を順次ご紹介していますが、本日は鏡(鏡面)を使ったオブジェ(立体作品)3点です。

■先ず、鏡(ミラー)=草間彌生と連想するほど、クサマのミラールームの印象は強烈です。人間が入れるくらいの大きなミラールームは、伊香保のハラミュージアムアーク(設計は磯崎新、木造の傑作です)はじめいくつかの美術館にあり、今では教科書にも載っています。
草間彌生_ミラーボックス_1
8 草間彌生 《Mirror Box》
2001 アクリル+シルクスクリーン
16.2x14.0x14.0cm Ed.280 Signed

この<鏡の箱>の側面に突き出ている覗き穴から中を覗くと無限にメタリックな球体が続く草間ワールドが出現します。Ed.280となっており、いかにもラージエディションに思えますが実際には半分もつくられていません。版元となりこの作品をエディションしたのは岡部徳三さんですが、2006年に亡くなり、制作が中断されてしまったからです。


■鏡面といえばもう一人、関根伸夫をあげねばならないでしょう。
1970年のヴェネツィア・ビエンナーレに出品した「空相」は、鏡面磨きされたステンレスの柱の上に巨大な自然石を載せた作品で、あたかも石が中空に浮いているかのような錯覚を見る人に与え、一躍世界の舞台に関根を押し上げました(この出品作は現在はコペンハーゲン近郊のルイジアナ美術館が所蔵)。
原美術館はじめ、各地に林立する空相シリーズは、現代美術好きならどこかでご覧になっているはず。
10_関根伸夫
10 関根伸夫 《大地の点》
1982 ステンレス・レリーフ
35.0x31.5x2.0cm Ed.30 Signed

この作品もステンレス(鏡面磨き)の裏面から関根先生がハンマーで一撃し、表面に小さな「大地の点」を作り出した作品です。表面(鏡面)に写る風景がゆがむのはそのためです。マルチプルではありますが、一点一点の「点」の場所が異なっているので、一点モノともいえます。


■六本木の東京ミッドタウンにある安藤忠雄設計の21_21 DESIGN SIGHTでは、「倉俣史朗とエットレ・ソットサス」展が開催されています(5月8日まで)。
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モダニズムに息苦しさを感じていた二人は、ソットサスは西欧的イデオロギーを背景に、倉俣は日本的感性をもって、デザインという言語で語り合い、夢を見、美を探求し、友情を育みながら、創造の可能性を探り続けました。表現の異なる二人ですが、ともに、機能性や利便性を超えて、生活に喜びと驚きをもたらすデザインを求めたのです。(同展HPより)
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今回出品の倉俣史朗の「鏡」は、磯崎新のポスト・モダン(モダニズム)ムーブメント最盛期の代表作「つくばセンタービル」(1983年)のために作られた作品です。
12_倉俣史朗
12 倉俣史朗 《TSUKUBA 鏡》
1983 鏡 80×50×D5.5cm

竣工時の「つくばセンタービル」には、「筑波第一ホテル」が入り、客室の内装を倉俣史朗が担当しました。このときは私たちもお手伝いし、倉俣さんの選らんだ版画作品が各室を飾りました。
しかし、客室で実際に使用されたオリジナル家具は悲しい運命を辿ります。

1990年代のバブル経済の崩壊により、経営母体であった株式会社第一ホテルが2000年5月会社更生法の適用を申請し倒産。その後、株式会社ホテルオークラグループとして経営が変わったものの、ホテル客室及びカフェなどに大規模な改修が行われ、貴重な倉俣史朗デザインによるインテリアが失われてしまったのです。
今回の出品作「鏡」はそのような事情に中で、危うく破棄を免れた稀少作品です。
当時の雑誌『新建築』1983年11月号には、竣工当初の「筑波第一ホテル」の客室が紹介されており、この「鏡」も掲載されています。
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