長谷川潔・浜口陽三・駒井哲郎/It's a real★本物を買う!

文化交流使報告会(表)先日2月28日雨の中、東京国立博物館平成館大講堂で第8回文化庁「文化交流使」活動報告会が開催され、亭主も出席してきました。
東博自体は月曜休館なので当然正門は閉まっており、平成館大講堂の入り口を探して延々敷地の塀外を歩きました。東博の敷地がこんなに広大だとは初めて知りました。
それにしてもお役所が開くこういう報告会があることも、「文化交流使」なるものの存在すら不勉強で知りませんでした。
たまたま4月に開催する「野田英夫展ー漂泊と望郷の画家」の準備のためにご遺族である版画家の野田哲也先生と打合せをしていたら、野田先生から文化交流使としてイスラエルとイギリスに派遣されたことを伺い、その報告会があるのでいらっしゃいと誘われたわけです。
和紙造形、切り絵、華道、落語、人形浄瑠璃、版画、香道、アニメなど色々な分野の方が選ばれ、それぞれ日本の文化を海外の人に伝えるべく講演会やワークショップを開いてきた活動報告をお一人15分間の短い時間でスピーチされたのですが、いや面白かった。
ヘブライ大学やロンドンメトロポリタン大学で伝統木版技法のワークショップや技法の実演、講演会などを開いた野田先生の独特のユーモア溢れる報告ももちろん素晴らしかったのですが、在日韓国人のルーツをもつ笑福亭銀瓶さんが韓国語を独習し、やがてソウルや釜山、済州島で韓国語落語を公演するまでにいたった話などは会場に暖かな笑いが満ちました。
いまや日本を代表するサブカルチャーであるアニメーション作家の山村浩二さんがカナダへ派遣され、モントリオール、トロントなどで講演と自作アニメの上映、展覧会を開いた報告も感動的でした。そもそも山村さんがアニメに目覚めたのはカナダのアニメーション短編映画に感動したのがきっかけだったとか。カナダのアニメに影響を受けてアニメ作家となり、アニメ大国日本のトップランナーとして活躍し、その恩返しともいえるカナダへの旅はことのほか山村さんにとって嬉しかったようです。
野田先生以外、誰一人知らない人たちの報告会でしたが、文化庁もなかなかやっているではないかと感心した次第。参加できるのは関係者だけらしいのですが、無料なのに聴衆は100人ほど。こういう情報こそツイッターでも使って流せばたくさんの人が参加できるのにもったいないですね。

日本の版画といえば木版だけではありません。
3月5日6日に開催する「It's a real★本物を買う!」の出品作から、日本が世界に誇る銅版画の巨匠、長谷川潔・浜口陽三・駒井哲郎の作品をご紹介しましょう。

長谷川潔は1918年(大正7年)にフランスへ渡り、メゾチント(マニエール・ノワール)と呼ばれる古い版画技法を復活させ、独自の様式として確立させたことはもっともっと評価されるべきでしょう。フランス政府からは数々の勲章・賞を受けたにもかかわらず、日本は冷たかった。望郷の念にかられながら一度も帰国せずにパリで没した作家の真の顕彰はこれからです。
今回出品の3点はいずれも20世紀初頭には忘れられていたマニエール・ノワールを復活させ独自の技法として完成させたもの。深い黒の中から自ら光を発するかのようにモチーフたちを浮かび上がらせ、可視の世界を通して不可視の世界を見、言葉では表現しきれない宇宙の真理を表現しようとした長谷川芸術の代表作です。
44長谷川潔「プロヴァンスの古市」
44 長谷川潔 《プロヴァンスの古市》
1925  銅版 20x28cm Ed.25  Signed
(レゾネNo.167)

45長谷川潔#347
45 長谷川潔 《ジロスコープのある静物》
1966 銅版 35.6x26.4cm Ed.70 Signed
(レゾネNo.347)

長谷川潔「林檎と葡萄]
46 長谷川潔 《林檎と葡萄》
1931 銅版 16.4x28.2cm Ed.35 Signed
(レゾネNo.223)


■メゾチント(マニエール・ノワール)技法を復興し禁欲的なまでに黒の世界にこだわった長谷川潔に対して、色版を重ねて刷るカラーメゾチント技法を開拓して成功したのが浜口陽三です。
東京美術学校(現・東京藝術大学)では彫刻専攻でしたが、2年で退学し渡仏。パリ滞在中は油彩制作と1937年頃からはドライポイントの制作を試みますが、戦時色の濃くなる1939年に帰国します。自由美術家協会には創立会員として参加。本格的に銅版画(カラーメゾチント)の制作を始めるのは、戦後の1950年前後、40歳を過ぎてからでした。1953年に再度渡仏し、1957年にはサンパウロ国際版画ビエンナーレの版画大賞と東京国際版画ビエンナーレにおける国立近代美術館賞をダブル受賞し、国際的評価を確立します。1981年サンフランシスコに移住しますが、晩年は帰国し、2000年12月に日本で91歳で亡くなりました。
浜口陽三「二つのさくらんぼ」
38 浜口陽三 《2つのさくらんぼ》
1964 銅版 6.6x6.6cm Ed.50 Signed
(レゾネNo.105)

浜口陽三「三匹の蝶」
39 浜口陽三 《三匹の蝶》
1985-91 銅版 11.5x11.5cm Ed.25 Signed
(レゾネNo.176-7)

浜口陽三「緑のぶどう」
40 浜口陽三 《緑のぶどう》
1958 銅版  24.4x19.3cm Ed.50 Signed
(レゾネNo.67)


■4月9日から町田市立国際版画美術館をスタートして全国6美術館で大規模な回顧展が開催される駒井哲郎は、長谷川、浜口の二人が海外を拠点に制作を続けたのに対して、生涯を日本の版画家として過ごし、文字通り版画界のプリンスとして多くのファンに囲まれながら先達の二人よりも早く、1976年に56歳の若さで亡くなります。
長谷川、浜口が駆使したメゾチント(マニエール・ノワール)技法ではなく、最も基本的な銅版技法であるエッチング(腐蝕銅版画)技法にこだわり、「白と黒の造形」を追求するとともに、モノタイプによる華麗な色彩世界を創造していたことが近年になって評価され始めました。没後35年を経てようやく駒井哲郎の全貌が見渡せる回顧展が開催されるのは駒井ファンとして嬉しい限りです。
50_駒井哲郎
50 駒井哲郎 《顔》
1973 銅版 23.5x21cm Ed.250 Signed
(レゾネNo.294)

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