昨日のブログでジャン=エミール・ラブルールの代表作「カクテル」をご紹介したら、さっそくお客様から「お前の自慢話はいいから、もっと作品の説明をせよ」とのメールをいただきました。
ごもっともで、どうもすいません。
ナントへの懐かしい旅を思い出し、昨日は陋屋の物置をガサゴソして20数年前のアルバムをひっくりかえしたのですが、ナント旅行の写真だけが見つからない。
いつもながら整理の悪いことで。
亭主がこのブログで告白しているように、若い頃から憧れたのは先ずセガンティーニ、そしてモーリス・ドニでした。
ラブルールを知ったのは遥か後年です。
その名と作品に初めて触れた海野弘先生の『一九二〇年代の画家たち』が刊行された年(1985年)に亭主は破産し、全てを失いました。

亭主がフランスへ頻繁に往来していた頃、1989年刊行されたカタログ・レゾネです。小型本ですが広辞苑並みの厚さ、編纂者はご遺族、再評価への情熱を感じます。
亭主が編集したのは下記の図録ですが、昨日は表紙のみの紹介だったので、本日は図版ページのいくつかと、海野弘先生に執筆していただいたテキストの冒頭の一節をご紹介します。

『ジャン=エミール・ラブルール版画展』図録
1989年
ギャラリーアバンギャルド発行
86ページ
執筆:海野弘
図版をクリックしてください。大きなサイズの鮮明な画像が見られます。


ジャン=エミール・ラブルール
アール・デコの風俗画家
海野弘
ラブルールとジャズ・エイジ
ジャン=エミール・ラブルールは、港、船、街角、カフェ、水夫、花売り娘、警官、おしゃべりをしている人、歩いている人、といったさりげない日常の都市風景を描いた。そのさりげなさの故に、人々に愛されたが、美術史から忘れられてしまった。<1920年代>という、モダン都市が成立した時代の魅力が再発見され、その時代のスタイル<アール・デコ>が甦ってきた時、ラブルールもその楽しげな世界を見せてくれるようになった。
ラブルールの絵は、エリック・サティ、ジャン・コクトー、ココ・シャネルといった人々と同時代の精神を呼吸している。それは<20年代>のモダンでシックな精神である。自動車が走り、人々は豪華列車や豪華船、そして飛行機で世界中を旅行してまわるようになる。モダンなホテルやレストラン、そしてモダンなファッションの女たちが、現代都市の生活スタイルと風景をつくりあげるのだ。
<20年代>はジャズ・エイジともいわれた。ジャズに象徴されるアメリカ文化がヨーロッパにも流れこんできて、ブームとなった時代であった。ラブルールも<アメリカ>に熱狂した。たとえば、「カクテル」という絵がある。カクテルもジャズとともにアメリカからやってきたものである。ワインやビールに代って、カクテルは<20年代>のはやりの飲物になる。シェーカーで混ぜて、泡の消えないうちに飲むといったスピーディな感覚がこの時代にふさわしかった。ラブルールはそのような時代感覚、モダン風俗の記録者として、あらためて評価されつつある。
ラブルールが忘れられていたのには、いくつかの理由があるだろう。一つには、彼が版画や本の挿絵を主な舞台としてきたために、タブローを中心とする美術史であつかわれなかったからである。もう一つには、イズムやコンセプトによってモダン・アートの展開がとらえられてきたため、イズムやエコールの表現に影響はされてはきたが、特定なエコールに属さず、あくまで具体的な都市のディテールにこだわったラブルールは美術史に入らなかったのである。
(後略 『ジャン=エミール・ラブルール版画展』図録2頁より)
*******************

ジャン=エミール・ラブルール
「カクテル」
1931年 銅版(エングレービング)
20.0×19.2cm
Ed.51 signed
カクテル
この作品はラブルールの20年代から30年代への微妙な転換を示している。グラビュール・オー・ビュランであるが、エッチング的な微妙な陰影が加えられている。背景の影のぼかしなどを見ればわかるように、線はわずかではあるがにじんでいる。またレモンなどの肌の描写もビュランでは珍しいものだ。20年代のビュランの明澄性をのこしながら、エッチング的な密度があらためてとりあげられている。20年代に抽象化され、様式化された形は、ここでふたたび写実性をとりもどし、奥行をもっている。
カクテルは20年代のテーマであるが、ここで問題なのは、グラス、シェーカー、ボトル、レモンといった物(オブジェ)とその集積である。カウンターに並んだこれらのオブジェの向うに女と二人の男の顔が見える。人間的なものへの興味より、オブジェへの興味が前面にあらわれる。バーの上にひしめいているオブジェの表現は、シュルレアリスムとの関わりをほのめかしている。
(『ジャン=エミール・ラブルール版画展』図録60頁より)
もう一点、ときの忘れもののコレクションからラブルールの木版をご紹介します。

ジャン=エミール・ラブルール Jean=Emile LABOUREUR
《軍隊の通過》
1900年
木版
22.9x30.0cm
Ed.60 signed
上掲の2点は見つかったのですが、「百貨店」シリーズなどどこへ消えたか・・・
ラブルールを全貌を知りたい方はぜひ練馬区美術館の鹿島コレクション展へ。
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
ごもっともで、どうもすいません。
ナントへの懐かしい旅を思い出し、昨日は陋屋の物置をガサゴソして20数年前のアルバムをひっくりかえしたのですが、ナント旅行の写真だけが見つからない。
いつもながら整理の悪いことで。
亭主がこのブログで告白しているように、若い頃から憧れたのは先ずセガンティーニ、そしてモーリス・ドニでした。
ラブルールを知ったのは遥か後年です。
その名と作品に初めて触れた海野弘先生の『一九二〇年代の画家たち』が刊行された年(1985年)に亭主は破産し、全てを失いました。

亭主がフランスへ頻繁に往来していた頃、1989年刊行されたカタログ・レゾネです。小型本ですが広辞苑並みの厚さ、編纂者はご遺族、再評価への情熱を感じます。
亭主が編集したのは下記の図録ですが、昨日は表紙のみの紹介だったので、本日は図版ページのいくつかと、海野弘先生に執筆していただいたテキストの冒頭の一節をご紹介します。

『ジャン=エミール・ラブルール版画展』図録
1989年
ギャラリーアバンギャルド発行
86ページ
執筆:海野弘
図版をクリックしてください。大きなサイズの鮮明な画像が見られます。

ジャン=エミール・ラブルール
アール・デコの風俗画家
海野弘
ラブルールとジャズ・エイジ
ジャン=エミール・ラブルールは、港、船、街角、カフェ、水夫、花売り娘、警官、おしゃべりをしている人、歩いている人、といったさりげない日常の都市風景を描いた。そのさりげなさの故に、人々に愛されたが、美術史から忘れられてしまった。<1920年代>という、モダン都市が成立した時代の魅力が再発見され、その時代のスタイル<アール・デコ>が甦ってきた時、ラブルールもその楽しげな世界を見せてくれるようになった。
ラブルールの絵は、エリック・サティ、ジャン・コクトー、ココ・シャネルといった人々と同時代の精神を呼吸している。それは<20年代>のモダンでシックな精神である。自動車が走り、人々は豪華列車や豪華船、そして飛行機で世界中を旅行してまわるようになる。モダンなホテルやレストラン、そしてモダンなファッションの女たちが、現代都市の生活スタイルと風景をつくりあげるのだ。
<20年代>はジャズ・エイジともいわれた。ジャズに象徴されるアメリカ文化がヨーロッパにも流れこんできて、ブームとなった時代であった。ラブルールも<アメリカ>に熱狂した。たとえば、「カクテル」という絵がある。カクテルもジャズとともにアメリカからやってきたものである。ワインやビールに代って、カクテルは<20年代>のはやりの飲物になる。シェーカーで混ぜて、泡の消えないうちに飲むといったスピーディな感覚がこの時代にふさわしかった。ラブルールはそのような時代感覚、モダン風俗の記録者として、あらためて評価されつつある。
ラブルールが忘れられていたのには、いくつかの理由があるだろう。一つには、彼が版画や本の挿絵を主な舞台としてきたために、タブローを中心とする美術史であつかわれなかったからである。もう一つには、イズムやコンセプトによってモダン・アートの展開がとらえられてきたため、イズムやエコールの表現に影響はされてはきたが、特定なエコールに属さず、あくまで具体的な都市のディテールにこだわったラブルールは美術史に入らなかったのである。
(後略 『ジャン=エミール・ラブルール版画展』図録2頁より)
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ジャン=エミール・ラブルール
「カクテル」
1931年 銅版(エングレービング)
20.0×19.2cm
Ed.51 signed
カクテル
この作品はラブルールの20年代から30年代への微妙な転換を示している。グラビュール・オー・ビュランであるが、エッチング的な微妙な陰影が加えられている。背景の影のぼかしなどを見ればわかるように、線はわずかではあるがにじんでいる。またレモンなどの肌の描写もビュランでは珍しいものだ。20年代のビュランの明澄性をのこしながら、エッチング的な密度があらためてとりあげられている。20年代に抽象化され、様式化された形は、ここでふたたび写実性をとりもどし、奥行をもっている。
カクテルは20年代のテーマであるが、ここで問題なのは、グラス、シェーカー、ボトル、レモンといった物(オブジェ)とその集積である。カウンターに並んだこれらのオブジェの向うに女と二人の男の顔が見える。人間的なものへの興味より、オブジェへの興味が前面にあらわれる。バーの上にひしめいているオブジェの表現は、シュルレアリスムとの関わりをほのめかしている。
(『ジャン=エミール・ラブルール版画展』図録60頁より)
もう一点、ときの忘れもののコレクションからラブルールの木版をご紹介します。

ジャン=エミール・ラブルール Jean=Emile LABOUREUR
《軍隊の通過》
1900年
木版
22.9x30.0cm
Ed.60 signed
上掲の2点は見つかったのですが、「百貨店」シリーズなどどこへ消えたか・・・
ラブルールを全貌を知りたい方はぜひ練馬区美術館の鹿島コレクション展へ。
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