マイコレクション物語⑥
「アートフル勝山の会活動」とマイコレクション その3
荒井由泰
アートフル勝山の会にとって大切な作家である難波田先生のことも少し触れておかねばならない。1991年に油彩、水彩、版画等30点を展示して「難波田龍起:現代美術の詩人展」を開催した。同時に他の画廊と共同エディションした作品「流れ」も展示した。当時すでに八十半ばを越えられており、まさに大家というべき存在であったが、そんなそぶりは微塵も見せず、若輩であるわれわれに本当に丁重にお相手いただいた。その人柄のすばらしさに改めて感銘するとともに、現代美術の詩人と言う言葉にふさわしい詩情あふれる抽象の世界が心にやさしくそして強く届いた。このとき購入した水彩とペンで描かれた「浮遊」(難波田先生独特のブルーが美しい)を見ると、あのやさしい人柄を思い出す。かくして、このドローイングほか、手彩色した版画も含め8点がマイコレクションに納まっている。
1991
難波田ご夫妻とともに
21世紀に入ってからの作家を招待しての企画展は野田哲也(2001)、小野隆生(2003)、丹阿弥丹波子(2004)、戸村茂樹(2004)、木村利三郎(2005)、北川健次(2006)、柄澤齊(2007)である。中上邸イソザキホールの大家さんでもある中上先生が体調をくずされ、施設に入られたこともあり、「柄澤齊:木口木版の世界展」を最後にイソザキホールでの企画展が中断している。アートフル勝山の会についても、30年という節目を越え、一時休止の状態である。私自身のコレクションに対する情熱は変わっておらず、コレクションの充実をはかるとともに、別の場でコレクションの公開という新たな課題に取り組んでいる。このことについては別の紙面に譲ることにしたい。
2004年に「丹阿弥丹波子・戸村茂樹:銅版画の世界展」として、お二人の作家を同時に勝山にお招きした。戸村さんについては大阪のプチフォルムですでに何点か購入しており、私にとっては、ぜひともお会いしたい作家であった。お会いして、また不思議なご縁を確認した。一つは舟越の最初の版画(エッチング)を刷ったのは戸村であったこと。また、私がフィッチから紹介され、ドライポイントで精緻で美しい自然や静物を描くスエーデンの作家:グンナー・ノルマン(Gunnar Norrman)と彼とが交流があることも知った。私が10点近くの小品をコレクションしていることにびっくりされていた。心惹かれるものがつながっていることはうれしいことだ。また、丹阿弥さんは中上先生のご希望もありお招きしたが、駒井哲郎から版画を学ばれており、駒井先生のことを直接お聞きすることができ、心の距離が縮まった。現在、私のコレクションのなかで駒井哲郎が一番重要な位置を占めている。我が心の駒井哲郎については次の機会に述べたい。丹阿弥先生には無理をお願いしてかわいい小品を息子の結婚式の引き出物に使わせて頂いた。現在、85歳になられたかと思うが、今も精力的に美しいメゾチント制作されている姿に頭が下がる。
戸村茂樹
「自然・夏の影1」
1991
銅版画
グンナー・ノルマン
"Evening Light"
1980
また、2006年には福井出身の北川健次を招き、銅版画展を開催した。彼は1970年代から版画の世界で活躍していたが、福井県立美術館で時折見かける以外、全く縁がなかった。今までのマイコレクションの歴史を振り返ると、作品や作家との出会いはすべてご縁のような気がする。たくさんある作品の中からコレクションに納まる、また、たくさんいる作家・アーティストの中から、親しく付き合うことになるなど、まさに偶然の出会いであり、縁以外の何ものでもない。一方、心に引っかかる作品・作家については心に強く念じていると偶然が必然に変化することも経験している。北川健次についても心に引っかかる作家ではあったが、当時、写真を銅版画に使うことにはコレクターとしては受け入れがたいものがあった。(今は変わったが・・)福井県立美術館の芹川さん(現館長)のお引き合わせで、彼と会い、作品を見せてもらった。作品とともに彼の創作に対する真摯な姿勢を感じ取り、応援すべき作家であると再認識した。そして、ふるさとでの久しぶりの展覧会を企画するとともに、コレクションとしては版画集そして最近力を入れている写真も何点か購入した。北川は昨年、福井県立美術館での大規模な個展を成功させた。応援している作家が頑張る姿をみることはコレクターとして、この上ない喜びだ。
2006
北川健次
バナー前にて
2006
北川健次
記念トーク
北川健次
「ペトルス・クリストゥス頌」
2006
北川健次
「椅子のある風景」
2008
写真
2007年には「柄澤齊:木口木版の世界展」を柄澤氏を招いて開催した。実は彼は1978年に「現代版画6人展」を開催した際、プチフォルムの青柳氏とともに勝山を訪問している。このときが最初に出会いであった。それ以来、ビュランの高い技術に裏付けされた精緻で想像力あふれる作品にすっかり魅了された。肖像シリーズの全作品も含め、好みの作品を継続的コレクションしてきた。不思議なご縁である。彼がアーティストとして大きく羽ばたき、活躍していることはコレクター冥利に尽きる。
2007
柄澤斉展
2007
柄澤齊トーク
柄澤齊
「肖像Ⅶ ボードレール」
1983
閑話休題
アートフル勝山の会では必ず記念レセプションと称して作家を交えての楽しい集いの時間を持つことにしていた。そのレセプションは作家と交流する絶好の機会であり、交流が深まると展示されている作品との距離が接近し、販売にも確実につながる。レセプションの時間を楽しくするための遊び方を「小コレクターの会」等で鍛えられた先輩諸氏より伝授された。ひとつは「じゃんけん大会」である。主催者側あるいはアーティストから提供してもらった作品(高価なものはだめ)に対し、希望者を募り、じゃんけんで所有者を決めるものである。価格に応じ、100円じゃんけん、500円じゃんけんを設定して行う。100円じゃんけんは参加費が100円ということである。4~5人でそれぞれグループを作ってもらい、その中でじゃんけんを行い、勝った人が、勝ち上がって、勝利者を決めるゲームだ。一番勝った人は100円で1万円近くの作品が手に入る。場がたいへん盛り上がる。勝った人は大喜びである。じゃんけんで初めてアート作品を手に入れた人も多かった。安く作品を手に入れることでアートに対する関心が高まるとともに、参加費はアートフルの活動費となるから一石二鳥である。その二はオークション方式だ。簡易的なかたちでオークションの醍醐味を味わって頂くゲームだ。あまり高くならないうちに落札者を決めるのがよい。基本的には作品を安く手に入れてもらうための機会であり、オークションから小コレクターが育ったように思う。
アートフル勝山の会の活動とコレクションの関係については今回を最後にするが、よくも長く続けられたなと思う。もちろん使命感みたいなものが後押ししてくれたが、基本的にはアートそしてアーティストが好きだから続けられたのだと思う。時代もよかった。最近の厳しい経済情勢ではとっても難しかったと思う。過去を懐かしく思うようになったのは年齢のせいかもしれない。
次回はバルテュスとの不思議な出会いのこと、私の駒井哲郎コレクションの成り立ちについて書こうと思っている。乞うご期待だ。
(あらい よしやす)
「アートフル勝山の会活動」とマイコレクション その3
荒井由泰
アートフル勝山の会にとって大切な作家である難波田先生のことも少し触れておかねばならない。1991年に油彩、水彩、版画等30点を展示して「難波田龍起:現代美術の詩人展」を開催した。同時に他の画廊と共同エディションした作品「流れ」も展示した。当時すでに八十半ばを越えられており、まさに大家というべき存在であったが、そんなそぶりは微塵も見せず、若輩であるわれわれに本当に丁重にお相手いただいた。その人柄のすばらしさに改めて感銘するとともに、現代美術の詩人と言う言葉にふさわしい詩情あふれる抽象の世界が心にやさしくそして強く届いた。このとき購入した水彩とペンで描かれた「浮遊」(難波田先生独特のブルーが美しい)を見ると、あのやさしい人柄を思い出す。かくして、このドローイングほか、手彩色した版画も含め8点がマイコレクションに納まっている。
1991難波田ご夫妻とともに
21世紀に入ってからの作家を招待しての企画展は野田哲也(2001)、小野隆生(2003)、丹阿弥丹波子(2004)、戸村茂樹(2004)、木村利三郎(2005)、北川健次(2006)、柄澤齊(2007)である。中上邸イソザキホールの大家さんでもある中上先生が体調をくずされ、施設に入られたこともあり、「柄澤齊:木口木版の世界展」を最後にイソザキホールでの企画展が中断している。アートフル勝山の会についても、30年という節目を越え、一時休止の状態である。私自身のコレクションに対する情熱は変わっておらず、コレクションの充実をはかるとともに、別の場でコレクションの公開という新たな課題に取り組んでいる。このことについては別の紙面に譲ることにしたい。
2004年に「丹阿弥丹波子・戸村茂樹:銅版画の世界展」として、お二人の作家を同時に勝山にお招きした。戸村さんについては大阪のプチフォルムですでに何点か購入しており、私にとっては、ぜひともお会いしたい作家であった。お会いして、また不思議なご縁を確認した。一つは舟越の最初の版画(エッチング)を刷ったのは戸村であったこと。また、私がフィッチから紹介され、ドライポイントで精緻で美しい自然や静物を描くスエーデンの作家:グンナー・ノルマン(Gunnar Norrman)と彼とが交流があることも知った。私が10点近くの小品をコレクションしていることにびっくりされていた。心惹かれるものがつながっていることはうれしいことだ。また、丹阿弥さんは中上先生のご希望もありお招きしたが、駒井哲郎から版画を学ばれており、駒井先生のことを直接お聞きすることができ、心の距離が縮まった。現在、私のコレクションのなかで駒井哲郎が一番重要な位置を占めている。我が心の駒井哲郎については次の機会に述べたい。丹阿弥先生には無理をお願いしてかわいい小品を息子の結婚式の引き出物に使わせて頂いた。現在、85歳になられたかと思うが、今も精力的に美しいメゾチント制作されている姿に頭が下がる。
戸村茂樹 「自然・夏の影1」
1991
銅版画
グンナー・ノルマン"Evening Light"
1980
また、2006年には福井出身の北川健次を招き、銅版画展を開催した。彼は1970年代から版画の世界で活躍していたが、福井県立美術館で時折見かける以外、全く縁がなかった。今までのマイコレクションの歴史を振り返ると、作品や作家との出会いはすべてご縁のような気がする。たくさんある作品の中からコレクションに納まる、また、たくさんいる作家・アーティストの中から、親しく付き合うことになるなど、まさに偶然の出会いであり、縁以外の何ものでもない。一方、心に引っかかる作品・作家については心に強く念じていると偶然が必然に変化することも経験している。北川健次についても心に引っかかる作家ではあったが、当時、写真を銅版画に使うことにはコレクターとしては受け入れがたいものがあった。(今は変わったが・・)福井県立美術館の芹川さん(現館長)のお引き合わせで、彼と会い、作品を見せてもらった。作品とともに彼の創作に対する真摯な姿勢を感じ取り、応援すべき作家であると再認識した。そして、ふるさとでの久しぶりの展覧会を企画するとともに、コレクションとしては版画集そして最近力を入れている写真も何点か購入した。北川は昨年、福井県立美術館での大規模な個展を成功させた。応援している作家が頑張る姿をみることはコレクターとして、この上ない喜びだ。
2006北川健次
バナー前にて
2006北川健次
記念トーク
北川健次「ペトルス・クリストゥス頌」
2006
北川健次「椅子のある風景」
2008
写真
2007年には「柄澤齊:木口木版の世界展」を柄澤氏を招いて開催した。実は彼は1978年に「現代版画6人展」を開催した際、プチフォルムの青柳氏とともに勝山を訪問している。このときが最初に出会いであった。それ以来、ビュランの高い技術に裏付けされた精緻で想像力あふれる作品にすっかり魅了された。肖像シリーズの全作品も含め、好みの作品を継続的コレクションしてきた。不思議なご縁である。彼がアーティストとして大きく羽ばたき、活躍していることはコレクター冥利に尽きる。
2007柄澤斉展
2007柄澤齊トーク
柄澤齊「肖像Ⅶ ボードレール」
1983
閑話休題
アートフル勝山の会では必ず記念レセプションと称して作家を交えての楽しい集いの時間を持つことにしていた。そのレセプションは作家と交流する絶好の機会であり、交流が深まると展示されている作品との距離が接近し、販売にも確実につながる。レセプションの時間を楽しくするための遊び方を「小コレクターの会」等で鍛えられた先輩諸氏より伝授された。ひとつは「じゃんけん大会」である。主催者側あるいはアーティストから提供してもらった作品(高価なものはだめ)に対し、希望者を募り、じゃんけんで所有者を決めるものである。価格に応じ、100円じゃんけん、500円じゃんけんを設定して行う。100円じゃんけんは参加費が100円ということである。4~5人でそれぞれグループを作ってもらい、その中でじゃんけんを行い、勝った人が、勝ち上がって、勝利者を決めるゲームだ。一番勝った人は100円で1万円近くの作品が手に入る。場がたいへん盛り上がる。勝った人は大喜びである。じゃんけんで初めてアート作品を手に入れた人も多かった。安く作品を手に入れることでアートに対する関心が高まるとともに、参加費はアートフルの活動費となるから一石二鳥である。その二はオークション方式だ。簡易的なかたちでオークションの醍醐味を味わって頂くゲームだ。あまり高くならないうちに落札者を決めるのがよい。基本的には作品を安く手に入れてもらうための機会であり、オークションから小コレクターが育ったように思う。
アートフル勝山の会の活動とコレクションの関係については今回を最後にするが、よくも長く続けられたなと思う。もちろん使命感みたいなものが後押ししてくれたが、基本的にはアートそしてアーティストが好きだから続けられたのだと思う。時代もよかった。最近の厳しい経済情勢ではとっても難しかったと思う。過去を懐かしく思うようになったのは年齢のせいかもしれない。
次回はバルテュスとの不思議な出会いのこと、私の駒井哲郎コレクションの成り立ちについて書こうと思っている。乞うご期待だ。
(あらい よしやす)
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