三上豊・編「ギャラリー葉 GALLERY YO 1980-1988」

宇佐美圭司さんが亡くなった。
「南画廊の画家」がまた一人去っていく。
画廊の企画展というのは、ある一定期間、画廊空間を作家の表現で埋め尽くすことであり、展覧会が終了すれば、ただのガランとした箱に戻ります。
公立美術館と違って街の画廊(ギャラリー)は他の商売と同じくオーナーの才覚と情熱(経営手腕)で運営され、長く続くものもあれば短命に終わるものもある。
ほとんどが個人経営で、そこで開催された展覧会の記録は作家の創作の軌跡として重要なものですが、画廊が閉じられればそれで終わり。

南画廊は志水楠男さん亡き後、ご遺族や関係者の尽力で立派な画廊史がまとめられていますが、ほとんどの場合は時間とともに記録は散逸し、忘れられて行く。

世の中には頼まれもしないのに無償の情熱を傾けて紙の碑(アーカイブ)をつくる人がいる。

和光大学教授、というより私たち美術業界では名編集者として有名な三上豊さんが5冊目となる街の画廊史を届けてくださいました。
非売品ですが、希望者にはわけてくださるようです。
この記録集がいかなるものか、三上さんの編集後記をそのまま再録させていただきます。

少し蛇足を加えると三上さんは亭主が編集に携わった『資生堂ギャラリー七十五年史 1919~1994』の中心スタッフで、足掛け6年という長期にわたった調査・編集の全工程の最初から最後まで、亭主のわがままにも耐え参加してくれた、ただ一人のメンバーでした。
ギャラリー葉
ギャラリー葉 1980-1988
2012年10月10日発行
編集・発行;三上豊
18.2x12.8cm
151ページ
制作部数500部
(非売品)

ギャラリー葉 中1ギャラリー葉 中2

◆『ギャラリー葉 1980-1988』後記
 先の画廊史刊行から5年もたってしまった。アナログの私がデジタルの制作行程について行けなくなったことが主な原因である。思い起こせば、最初の『ときわ画廊』のときは、紙焼きにトレペをかけてトリミング指定をしていたが、今日では、スキャナーでありインデザインである。ギャラリー葉の望月良枝さんや作家の方から資料をお借りし、そのまま時が過ぎていくことに申し訳ない思いが続き、なんとも動きが取れない自分がなさけなくなるときもあった。
 ギャラリー葉については再録したインタヴューを参照していただきたい。こぼれ話をいくつかあげておく。第1校ができて、望月さん宅へうかがって打ち合わせをしていると、彼女のさまざまな思い出話を聞くことができた。87年、アフリカの作家ジャフリーさんが本物の動物を見たことがないというので上野動物園へ連れて行ったこと。86年の3人展のとき、廬万喜さんがキムチを持ってきたが、はじめてみるキムチを食べられなかったこと。アフリカの文化の理解者でありコレクターであった白石顕二さん(1900-2000)に関連した展覧会が、2011年多摩美術大学美術館で開催されたこと。松井智恵さんの個展では賛否両論がおこったこと。望月さんは筋金入りの松井サポーターである。本来ならば、こうしたさまざまなエピソードも含めた画廊史が生きた資料となるのだろうと、ふと思う。
 また、1984年の中村英樹氏企画「鮮烈なる断片」展のテキストは、中村英樹著『鮮烈なる断片―日本の深層と創作現場の接点』(杉山書店 1984)に収載されている。浜松で開催された野外美術展については、今回、望月さんから記録集が和光大学図書情報館に寄贈された。写真撮影は2回展から山本糾氏が行っている。
 冊子のささやかな試みは、近現代美術史が作品・作家中心であることに対して、マージナルな視点をつくることとしてある。次回は前回も予告しているが、画廊史ではない。ある作家のもとにあった1960年代末からのエフェメラによる現代美術史を構想しているが、どうなることか。しかし、急がねばならない。

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 今回も多くの方にお世話になりました。以下の方々に感謝いたします。
望月良枝さん、本当にお待たせしました。閉廊時に展覧会一覧のパンフを作成した上山剛さん、上山さんがつくったリストがなかったら、この冊子はできませんでした。リストの冒頭には、望月さんが選んだ、スーザン・ソンタグのエピグラム「作品を解釈するために人生を使うことはできない。しかし、人生を解釈するために作品を使うことはできる。」があります。このリストの存在を教えてくれた池上ちかこさん。整理がにがてだという望月さんにかわって、作品の写真ファイルをつくっていたとお聞きした狐塚静子さんと遠藤真琴さん、お二人のマメな作業の一端がこの冊子です。
制作にあたっては、ゼミの卒業生村山春香さん、ひたすらスキャンごくろうさまでした。続いてきた冊子の基本フォーマットをつくった池脇りらさん。レイアウト、デザインをしていただいたあおい書房の太田藍生さん。ありがとうございました。
 なお、既刊の『ときわ画廊』は品切れ、『秋山画廊』、『日辰画廊』、『靭画廊』は残部があります。ご一報いただければ発送します。
          2012年9月   三上豊

●冊子発送所:和光大学芸術学科 三上研究室
  〒195-8585 東京都町田市金井町2160
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三上さんの本とは関係ありませんが、亭主と社長の大好きなベン・ニコルソンの銅版画をご紹介します。
ニコルソンLucca
ベン・ニコルソン
「Lucca(small version)」
1967年
銅版
18.0x22.5cm
Ed.50 サインあり
※レゾネNo.49

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