10日の東京新聞朝刊で鳥居民さん(とりい・たみ=歴史研究家、本名池田民)の訃報を知り、衝撃を受けました。
2013年1月4日 心筋梗塞で死去、享年84.
このブログは植田実さんはじめ定期で連載しているエッセイがほぼ5日おきにあり、その間を画廊の案内や美術情報、そして亭主の駄文で埋めています。
なにせ毎日更新なので、目先をかえ手をかえ品をかえ、話題を探さねばならない。
出不精の亭主は業界事情にはとんと疎く、皆さんが喜ぶような話の仕入先は少ない。
活字中毒症の亭主は勢い本や雑誌からの話題を探し、四苦八苦しています。
ここ数年、アマゾンや「日本の古本屋」などネットでの書籍購入に頼りっ放しで本屋さんに行くことがめったになくなり、その反省もあり、お正月早々、青山の書店に行きました。

書店のカウンターにおいてあったのがこの小冊子。
発行:ムダの会
2012年5~10月までの本を対象に「いける本・いけない本 大アンケート」の結果を特集しています。そこで選ばれたのが以下の二冊。
大賞:斎藤貴男『「東京電力」研究 排除の論理』(講談社)
特別賞:鳥居民『昭和20年 第一部=13 さつま芋の恩恵』(草思社)
鳥居ファンの亭主としては、とても嬉しく、早速紹介しなきゃあと思って下書きを準備していたところに訃報。
この大著が未完のままになってしまったことはかえすがえすも残念でなりません。
鳥居さんの『昭和20年』については、このブログの2006年4月15日に一度紹介させていただいています。
追悼の心をこめて、再録いたします。
凄い人がいるものである。
もともと歴史書は好きで、いろいろ読んできたつもり、歴史書ではないが編集者として「資生堂ギャラリー七十五年史」なんて本もつくった。
しかし不勉強で、こんな本が出ているなんて全く知りませんでした。
知ったのは昨秋刊行された丸谷才一対談集「おっとりと論じよう」(文藝春秋)です。本読みの達人、丸谷才一と井上ひさしが、著者鳥居民を迎えて絶賛の嵐です。
慌てて「日本の古本屋」で検索したけれど揃わない。アマゾンで既刊11巻全部買い、読み出しました。
このところトリシャ・ブラウン展で忙しく、ちょっと中断したが、何とか読了。
草思社から、1985年に第一巻が刊行されてから延々20年以上かかってまだまだ続くらしい。
広告文によれば「敗戦の年の全社会の動きを1月1日から12月31日まで詳細に描き、太平洋戦争の意味を問い直す書き下ろし長編ノンフィクション。歴史の転回点にいかなる政略がうずまき、ドラマが生まれたか。膨大な資料をもとに壮大な構想で描かれたかつてない歴史読物。」です。
日本は戦後60年を経てやっと真の歴史書を生んだ、そう思います。
上は天皇をはさんで木戸、近衛のそれぞれの思惑に想像力と膨大な資料を駆使して切り込み、政治を司る人間の責任のとり方に深い洞察を加えています。よきリーダーに恵まれなかった日本の悲劇がよくわかります。
下は勤労動員の女学生たちや、疎開児童の戦時下の生活、厳しいけれどどんな中にも楽しみや感動がある、人間の切ない営みに思わず目頭が熱くなりました。
丸谷才一対談集から、少し、引用します。
丸谷:菊池寛は徳富蘇峰の「近世日本国民史」について、「文壇にこれほど刺戟を与へた歴史の本はなかった」と評価しましたけれど、利用した文筆業者はみんなそのことを口にしなかったいう噂がありますね。この「昭和二十年」についても、将来、日本の小説家や劇作家やノンフィクションライターはみなこれを源泉とし、ここから材料を得て、数多くの佳作や名品を書くことになるんじゃないでしょうか。
井上:いや、将来ではなくて、もうすでに大切な手引き本になっています。私も昭和史を扱うことが多いのですが、まず鳥居さんのこの本にあたります。そして、自分の考えがこの本とあまりにちがいすぎるような時は、もう一度立ち止まって自分の考えを再吟味します。・・・(以下略)
まだ二刷か三刷しか出てなくて、売れていないようですが、司馬さんの本とは根本的に違います。司馬さんは近代日本の明るい面ばかりを強調し、そこに私たちは救いを求めたのですが、真の救いは歴史を正確に直視しなければ得られない。
鳥居さんの悠揚迫らぬ筆致は、私たちに謙虚に歴史に向かい合うよう導いてくれるように思います。
史書として、原典を明示しているのは当然のことながら、これで完結後に「索引」ができたらすばらしいと思います。
現在出ている第一部第11巻「本土決戦への特攻準備」は6月13日までが記述されています、この日(水曜日)沖縄本島小禄地域の海軍部隊が全滅し、東京では議会閉院式があったと日録にあります。
因みに私は昭和二十年七月二日生まれです。鳥居民は私の生まれた日の日本をどのように描きだすのでしょうか。
著者の健康と長寿を祈るばかりです。
2006年4月15日

最後となってしまった第一部=13
2012年6月4日発行
装丁:平野甲賀
謹んで鳥居さんのご冥福をお祈りいたします。
2013年1月4日 心筋梗塞で死去、享年84.
このブログは植田実さんはじめ定期で連載しているエッセイがほぼ5日おきにあり、その間を画廊の案内や美術情報、そして亭主の駄文で埋めています。
なにせ毎日更新なので、目先をかえ手をかえ品をかえ、話題を探さねばならない。
出不精の亭主は業界事情にはとんと疎く、皆さんが喜ぶような話の仕入先は少ない。
活字中毒症の亭主は勢い本や雑誌からの話題を探し、四苦八苦しています。
ここ数年、アマゾンや「日本の古本屋」などネットでの書籍購入に頼りっ放しで本屋さんに行くことがめったになくなり、その反省もあり、お正月早々、青山の書店に行きました。

書店のカウンターにおいてあったのがこの小冊子。
発行:ムダの会
2012年5~10月までの本を対象に「いける本・いけない本 大アンケート」の結果を特集しています。そこで選ばれたのが以下の二冊。
大賞:斎藤貴男『「東京電力」研究 排除の論理』(講談社)
特別賞:鳥居民『昭和20年 第一部=13 さつま芋の恩恵』(草思社)
鳥居ファンの亭主としては、とても嬉しく、早速紹介しなきゃあと思って下書きを準備していたところに訃報。
この大著が未完のままになってしまったことはかえすがえすも残念でなりません。
鳥居さんの『昭和20年』については、このブログの2006年4月15日に一度紹介させていただいています。
追悼の心をこめて、再録いたします。
凄い人がいるものである。
もともと歴史書は好きで、いろいろ読んできたつもり、歴史書ではないが編集者として「資生堂ギャラリー七十五年史」なんて本もつくった。
しかし不勉強で、こんな本が出ているなんて全く知りませんでした。
知ったのは昨秋刊行された丸谷才一対談集「おっとりと論じよう」(文藝春秋)です。本読みの達人、丸谷才一と井上ひさしが、著者鳥居民を迎えて絶賛の嵐です。
慌てて「日本の古本屋」で検索したけれど揃わない。アマゾンで既刊11巻全部買い、読み出しました。
このところトリシャ・ブラウン展で忙しく、ちょっと中断したが、何とか読了。
草思社から、1985年に第一巻が刊行されてから延々20年以上かかってまだまだ続くらしい。
広告文によれば「敗戦の年の全社会の動きを1月1日から12月31日まで詳細に描き、太平洋戦争の意味を問い直す書き下ろし長編ノンフィクション。歴史の転回点にいかなる政略がうずまき、ドラマが生まれたか。膨大な資料をもとに壮大な構想で描かれたかつてない歴史読物。」です。
日本は戦後60年を経てやっと真の歴史書を生んだ、そう思います。
上は天皇をはさんで木戸、近衛のそれぞれの思惑に想像力と膨大な資料を駆使して切り込み、政治を司る人間の責任のとり方に深い洞察を加えています。よきリーダーに恵まれなかった日本の悲劇がよくわかります。
下は勤労動員の女学生たちや、疎開児童の戦時下の生活、厳しいけれどどんな中にも楽しみや感動がある、人間の切ない営みに思わず目頭が熱くなりました。
丸谷才一対談集から、少し、引用します。
丸谷:菊池寛は徳富蘇峰の「近世日本国民史」について、「文壇にこれほど刺戟を与へた歴史の本はなかった」と評価しましたけれど、利用した文筆業者はみんなそのことを口にしなかったいう噂がありますね。この「昭和二十年」についても、将来、日本の小説家や劇作家やノンフィクションライターはみなこれを源泉とし、ここから材料を得て、数多くの佳作や名品を書くことになるんじゃないでしょうか。
井上:いや、将来ではなくて、もうすでに大切な手引き本になっています。私も昭和史を扱うことが多いのですが、まず鳥居さんのこの本にあたります。そして、自分の考えがこの本とあまりにちがいすぎるような時は、もう一度立ち止まって自分の考えを再吟味します。・・・(以下略)
まだ二刷か三刷しか出てなくて、売れていないようですが、司馬さんの本とは根本的に違います。司馬さんは近代日本の明るい面ばかりを強調し、そこに私たちは救いを求めたのですが、真の救いは歴史を正確に直視しなければ得られない。
鳥居さんの悠揚迫らぬ筆致は、私たちに謙虚に歴史に向かい合うよう導いてくれるように思います。
史書として、原典を明示しているのは当然のことながら、これで完結後に「索引」ができたらすばらしいと思います。
現在出ている第一部第11巻「本土決戦への特攻準備」は6月13日までが記述されています、この日(水曜日)沖縄本島小禄地域の海軍部隊が全滅し、東京では議会閉院式があったと日録にあります。
因みに私は昭和二十年七月二日生まれです。鳥居民は私の生まれた日の日本をどのように描きだすのでしょうか。
著者の健康と長寿を祈るばかりです。
2006年4月15日

最後となってしまった第一部=13
2012年6月4日発行
装丁:平野甲賀
謹んで鳥居さんのご冥福をお祈りいたします。
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