<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第3回

普後均「ON THE CIRCLE series #53」_1500
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ヘルメットをかぶった男たちがいる。周囲は暗い。ヘルメットの色は白? それとも黄色? KやSKの文字が読め、ラインは一本だったり、二本だったり。十字の安全マークがついているものもあるが、どのヘルメットも傷がついたり汚れていたりして、かなり使い込まれている。

ここから最初に浮かんだことばは「労働」だった。体を動かす仕事はたくさんあるが、この人々が関わるのは、頭上にいろいろな構造物や資材のある建設現場、あるいは地面の下にもぐる下水や地下鉄の工事の現場。扱うもののスケールはかなり大きい。

背後から差し込むわずかな光に、肩のラインや腕が浮き彫りになっていることも、「労働」のイメージを強めている。人が働くとき、無言の表情を持つのが肩のラインで、ときとして手足以上にその働きぶりを物語る。ヘルメットで顔が隠れて見えないために、ひたむきな印象もある。ヘルメットのちらばり具合や、傾き加減がばらばらで、整然としていないことにも注目。ひとつひとつのヘルメットの下に別々の人間のいることが感じとれる。

と、こここまで書いて、ふいに別の連想が浮かんできた。学生運動が盛んだった六十年代、闘う学生たちは一様にヘルメットをかぶっていた。デモやバリケードの写真には決まってその姿が写ったものである。ひょっとしてあれは日本の若者に限られたことだったのではないか。欧米のデモではヘルメット姿は見たことがないし、中近東でもそうだし、中国の天安門事件などでも同様だ。彼らはそれをかぶることで、労働者との連帯を示そうとしたのかもしれない。

このようにつぎつぎと連想が生まれてくるのは、この写真に説明的な要素が省かれているからだが、それだけではないようだ。ヘルメットをかぶってない人がひとりいる。これが重要だ。顔は見えず、肩と襟元だけがうっすらと浮き彫りになっている。ヘルメットの男たちに囲まれ、やや離れた場所から、彼は写真を見ているわたしたちを見ている。そのほのかな視線を感じるゆえに、私たちは対象を見ながら、同時に自分自身の内側を眺めることになるのだ。

一見、要素の少ない写真のようだが、連想を生み出すものが数多くちりばめられているのがわかるだろう。現実世界で採集したものを取捨選択し、チューニングし、響き合わせること。写真を「作る」ということは、まさにそういうことなのだ。

大竹昭子(おおたけあきこ)

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●紹介作品データ:
普後均
〈ON THE CIRCLE〉シリーズ #53
2003年撮影(2009年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:31.6x39.2cm 
シートサイズ:35.6x43.2cm
Ed.1/15
裏面にサインあり
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■普後均 Hitoshi FUGO(1947-)
1947年生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、細江英公に師事。1973年に独立。2010年伊奈信男賞受賞。国内、海外での個展、グループ展多数。主な作品に「遊泳」「暗転」「飛ぶフライパン」「ゲームオーバー」「見る人」「KAMI/解体」「ON THE CIRCLE」(様々な写真的要素、メタファーなどを駆使しながら65点のイメージをモノクロで展開し、普後個人の世界を表現したシリーズ)他がある。
主な写真集:「FLYING FRYING PAN」(写像工房)、「ON THE CIRCLE」(赤々舎)池澤夏樹との共著に「やがてヒトに与えられた時が満ちて.......」他。パブリックコレクション:東京都写真美術館、北海道立釧路芸術館、京都近代美術館、フランス国立図書館、他。

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●大竹昭子さん写真展のお知らせ
大竹昭子さんの写真エッセイ『ニューヨーク1980』(赤々舎)の出版を記念した展覧会が、福岡のカフェ&ギャラリー・キューブリックで開催されます。

大竹昭子写真展
「ニューヨーク1980」

会期:2013年4月9日(火)~5月19日(日)
時間:11:30~19:00(毎週月曜休み)
会場:カフェ&ギャラリー・キューブリック
   〒812-0053 福岡県福岡市東区箱崎1丁目5-14ベルニード箱崎2F
入場無料

大竹昭子トーク&スライドショー
日時:4月13日(土)19:00スタート(参加費1,500円/ワンドリンク付)
問合せ・申込み:ブックスキューブリック箱崎店
Tel. 092-645-0630 
Mail. hakozaki@bookskubrick.jp