<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第4回

鬼海弘雄「22羽のアヒルと冬の気球」
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まず目に入るのはアヒルの群れである。
だれに先導されることなく、一群となって、どこかにむかっている。
道はゆるやかな上り坂だ。

アヒルの視線になり、その先を追っていくと、一台の車が道の右手に停まっている。
くすんだ色の小型車で、走りはさほどよくない、かもしれない。

さらに視線をのばすと、男がいる。
柄模様のセーターを着て、毛髪を風になびかせ歩いている。

男のいる場所から道は下っている。
建物の屋根の低さでわかる。
つまり男は坂道の頂点にいるわけだが、
その横に尖塔のあることが、ここがてっぺんだ!
という感じをより強めているように思う。

ここで、もうひとつの事実に気がつく。
アヒルも、車も、歩いている男も、こちらにお尻をむけている、ということに。
なにかにむかえば、背後にものにお尻をむけずにいられない、ということに
この写真を凝視している「わたし」とて例外ではなく、だれかにお尻をむけているはずだ。

だが尖塔はちがう。円柱なのでそもそもお尻がない。
そしてその円柱の先には、おなじようにお尻のない気球が浮いている。
まさに「ぽっ」という感じで浮かんでいる。

お尻を見せている連中は、そのお尻のないものを追って坂をのぼっていく。
むかうべきところがなく、ただ大空に浮かんでいるだけの球形の物体は、
お尻のある我々を、魅了してやまない。

大竹昭子(おおたけあきこ)

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●紹介作品データ:
鬼海弘雄
〈アナトリア〉シリーズ
「22羽のアヒルと冬の気球(トルコ)」
2009年撮影(2010年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:29.1x43.6cm 
シートサイズ:40.5x50.5cm
Ed.1/20
裏面にサインあり
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■鬼海弘雄 Hiroh KIKAI(1945-)
1945年山形県生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。山形県職員を辞して、トラック運転手、造船所工員、遠洋マグロ漁船乗組員など様々な職業を経て写真家になる。主な写真集やフォトエッセーに『王たちの肖像』(1989年 矢立出版)、『INDIA』(1992年 みすず書房)、『や・ちまた』(1996年みすず書房)、『東京迷路』(1999年 小学館)、『印度や月山』(1999年 白水社)、『しあわせ』(2001年 福音館書店)、『PERSONA』(2003年 草思社)、『東京夢譚』(2007年 草思社)、『ASAKUSA portaites』(2008年 STIDL.ICP)、『目と風の記憶』(2012年 岩波書店)などがある。
2004年に写真集『PERSONA』で第23回土門拳賞を受賞。

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