<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第14回

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まず目がいくのは、ふたりの女性の断髪頭である。ボブカットというのか、うなじのすっきりしたヘアスタイルがそっくりだ。しかも右の女性が扇状の模様の入ったラグラン袖のセータを着ているために、うなじから肩にかけてのラインがより際立っている。
つぎに目が移るのは彼女らのズボンだ。ばっさり切られた髪と同様、パンツの裾もくるぶしが露出するほど短い。きっと短い丈がはやっていたのだろう。右隣の女性は裾をたくしあげているし、左側の人もそうだ。腰に手をやったスタイルといい、流行に敏感な乙女という雰囲気がにじみでている。
わたしの記憶ではこの写真にいる女性は三人だった。今回見直していちばん左にもうひとりパーマ頭の女性がいるのに気がついた。パーマの女性の存在感は薄い、というか若い三人の発するものが強くて霞んでいる。川には舟が浮かんでいてそこに三人の人影があることも、「三」が印象づいた理由かもしれない。
この写真の構図的なおもしろさはこれだけでも充分に伝わってくるが、さらにおもしろくしているのは、少年の連れている犬である。大口を開けてあくびしている。たまたま眠気をもよおしただけかもしれないが、完全にお尻をむけたこの構図においては、このあくびは彼女たちにむけられていると考えずにはいられない。
犬は退屈し、あきれている。人間たちはなにがおもしろくて川なんぞ眺めているのか。背中をむけてあくびをすることで彼は表明しているのだ。オレには関係ない、どうでもいいことだと。
犬を連れている毬栗坊主の少年には”貧しい田舎の子”という風情が漂う。モダンガールがいなければ別段そうは思わないだろうが、対照するこの関係ではそう感じてしまう。少年はあくびする犬と若い女性たちの中間くらいの立場にいる。両方の言い分を理解する通訳者のようだ。
大竹昭子(おおたけあきこ)
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●紹介作品データ:
井上孝治
〈こどものいた街〉より
「大分県日田市 三隈川」
1955年
ゼラチンシルバープリント
27.9x35.5cm
■井上孝治 Koji INOUE(1919-1993)
1919年福岡市生まれ。福岡県立福岡聾学校中等部卒業。3歳の時事故で聴力と言葉を失い、一級障害者の認定を受ける。
戦前より写真を撮り始め各種コンテスト入選。1989年岩田屋デパートのキャンペーンに写真が採用され、同年福岡市で写真展を開催。1990年パリ写真月間に出品。1993年アルル国際写真フェスティバルに招待され、アルル名誉市民賞を受賞。
写真集に『想い出の街』『あの頃』『こどものいた街』『音のない記憶』がある。東京、京都、沖縄、スイス、アメリカ・ロサンゼルス、などで写真展が開かれた。
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●井上孝治写真館のご案内

海の見える丘の上という絶景のロケーションにある個人ギャラリーです。企画展ごとに井上孝治の写真作品約30点が展示されています。
〒819-1303 福岡県糸島市志摩野北1497-73 スコーレヒル内
Tel. 090-4996-6132
Fax. 092-521-3587
入館料:一般800円、小・中・高・大学生500円(10歳以下のお子さんはお断りします)
開館日:3月~6月、9月~12月 (土、日のみ)
開館時間:12:00~17:00(入館は16:30まで)
ご予約・お問い合わせ先:ブルックスタジオ
〒810-0014 福岡県福岡市中央区平尾3-17-27
Tel. 090-4996-6132
Fax. 092-521-3587
※お問い合わせフォーム、お電話、ファックスのいずれかより必ず予約をしておこしください。
●展覧会のお知らせ
JCIIフォトサロンで、井上孝治作品展「おとうさん」が開催されます。
会期:2014年6月3日[火]~6月29日[日]
会場:JCIIフォトサロン
時間:10:00~17:00
休館日:月曜日
入場無料
6月の「父の日」にちなみ、お父さんのいる昭和の情景をとらえた井上作品をご覧いただきます。広い背中に子どもをおんぶし、あるいは、自転車に乗せて、公園や海で子どもを遊ばせるお父さん。子どもと漁を共にし、牛の世話を手伝わせ、メーデーにも参加させるお父さん。家族を愛し仕事に励む、地に足の着いた昭和のお父さんたちの姿が、井上氏の温かな視線でとらえられています。
井上氏は、カメラ雑誌の月例や年鑑、国際写真サロンなど、各種コンテストで名をはせた福岡のアマチュアカメラマンでした。晩年には、身辺日常をやわらかに見つめた「想い出の街」シリーズが認められて、内外で多数の展覧会が開催されました。幼い頃の事故で聴力と言葉を失った井上氏にとって、見ること、見せることがコミュニケーション手段でした。自己表現である写真は明るく温かい作風で、その人柄が偲ばれます。
本展では、昭和30年代撮影作品のニュープリントを中心に、初公開のオリジナルプリントも展示します。また、ご子息の書き下ろしエッセイ「父・井上孝治の事」を図録に収録します。井上作品を通じて、すべてのお父さんにエールを送る展示です。(同展HPより転載)
◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。----------------------------------
●本日のウォーホル語録
「誰かと連絡をとるには早過ぎるほど、早起きしてしまったときは、テレビを見ながら、下着を洗って時間をつぶす。たぶん、ぼくのもの覚えがこんなにもひどいのは、きっといつも一度に最低2つのことをしているからだと思う。
―アンディ・ウォーホル」
ときの忘れものでは4月19日~5月6日の会期で「わが友ウォーホル」展を開催しますが、それに向けて、1988年に全国を巡回した『ポップ・アートの神話 アンディ・ウォーホル展』図録から“ウォーホル語録”をご紹介して行きます。
『ポップ・アートの神話 アンディ・ウォーホル展』図録
1988年
30.0x30.0cm
56ページ
図版:114点収録
価格:3,150円(税込)※送料別途250円
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから

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まず目がいくのは、ふたりの女性の断髪頭である。ボブカットというのか、うなじのすっきりしたヘアスタイルがそっくりだ。しかも右の女性が扇状の模様の入ったラグラン袖のセータを着ているために、うなじから肩にかけてのラインがより際立っている。
つぎに目が移るのは彼女らのズボンだ。ばっさり切られた髪と同様、パンツの裾もくるぶしが露出するほど短い。きっと短い丈がはやっていたのだろう。右隣の女性は裾をたくしあげているし、左側の人もそうだ。腰に手をやったスタイルといい、流行に敏感な乙女という雰囲気がにじみでている。
わたしの記憶ではこの写真にいる女性は三人だった。今回見直していちばん左にもうひとりパーマ頭の女性がいるのに気がついた。パーマの女性の存在感は薄い、というか若い三人の発するものが強くて霞んでいる。川には舟が浮かんでいてそこに三人の人影があることも、「三」が印象づいた理由かもしれない。
この写真の構図的なおもしろさはこれだけでも充分に伝わってくるが、さらにおもしろくしているのは、少年の連れている犬である。大口を開けてあくびしている。たまたま眠気をもよおしただけかもしれないが、完全にお尻をむけたこの構図においては、このあくびは彼女たちにむけられていると考えずにはいられない。
犬は退屈し、あきれている。人間たちはなにがおもしろくて川なんぞ眺めているのか。背中をむけてあくびをすることで彼は表明しているのだ。オレには関係ない、どうでもいいことだと。
犬を連れている毬栗坊主の少年には”貧しい田舎の子”という風情が漂う。モダンガールがいなければ別段そうは思わないだろうが、対照するこの関係ではそう感じてしまう。少年はあくびする犬と若い女性たちの中間くらいの立場にいる。両方の言い分を理解する通訳者のようだ。
大竹昭子(おおたけあきこ)
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●紹介作品データ:
井上孝治
〈こどものいた街〉より
「大分県日田市 三隈川」
1955年
ゼラチンシルバープリント
27.9x35.5cm
■井上孝治 Koji INOUE(1919-1993)
1919年福岡市生まれ。福岡県立福岡聾学校中等部卒業。3歳の時事故で聴力と言葉を失い、一級障害者の認定を受ける。
戦前より写真を撮り始め各種コンテスト入選。1989年岩田屋デパートのキャンペーンに写真が採用され、同年福岡市で写真展を開催。1990年パリ写真月間に出品。1993年アルル国際写真フェスティバルに招待され、アルル名誉市民賞を受賞。
写真集に『想い出の街』『あの頃』『こどものいた街』『音のない記憶』がある。東京、京都、沖縄、スイス、アメリカ・ロサンゼルス、などで写真展が開かれた。
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●井上孝治写真館のご案内

海の見える丘の上という絶景のロケーションにある個人ギャラリーです。企画展ごとに井上孝治の写真作品約30点が展示されています。
〒819-1303 福岡県糸島市志摩野北1497-73 スコーレヒル内
Tel. 090-4996-6132
Fax. 092-521-3587
入館料:一般800円、小・中・高・大学生500円(10歳以下のお子さんはお断りします)
開館日:3月~6月、9月~12月 (土、日のみ)
開館時間:12:00~17:00(入館は16:30まで)
ご予約・お問い合わせ先:ブルックスタジオ
〒810-0014 福岡県福岡市中央区平尾3-17-27
Tel. 090-4996-6132
Fax. 092-521-3587
※お問い合わせフォーム、お電話、ファックスのいずれかより必ず予約をしておこしください。
●展覧会のお知らせ
JCIIフォトサロンで、井上孝治作品展「おとうさん」が開催されます。
会期:2014年6月3日[火]~6月29日[日]
会場:JCIIフォトサロン
時間:10:00~17:00
休館日:月曜日
入場無料
6月の「父の日」にちなみ、お父さんのいる昭和の情景をとらえた井上作品をご覧いただきます。広い背中に子どもをおんぶし、あるいは、自転車に乗せて、公園や海で子どもを遊ばせるお父さん。子どもと漁を共にし、牛の世話を手伝わせ、メーデーにも参加させるお父さん。家族を愛し仕事に励む、地に足の着いた昭和のお父さんたちの姿が、井上氏の温かな視線でとらえられています。
井上氏は、カメラ雑誌の月例や年鑑、国際写真サロンなど、各種コンテストで名をはせた福岡のアマチュアカメラマンでした。晩年には、身辺日常をやわらかに見つめた「想い出の街」シリーズが認められて、内外で多数の展覧会が開催されました。幼い頃の事故で聴力と言葉を失った井上氏にとって、見ること、見せることがコミュニケーション手段でした。自己表現である写真は明るく温かい作風で、その人柄が偲ばれます。
本展では、昭和30年代撮影作品のニュープリントを中心に、初公開のオリジナルプリントも展示します。また、ご子息の書き下ろしエッセイ「父・井上孝治の事」を図録に収録します。井上作品を通じて、すべてのお父さんにエールを送る展示です。(同展HPより転載)
◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。----------------------------------
●本日のウォーホル語録
「誰かと連絡をとるには早過ぎるほど、早起きしてしまったときは、テレビを見ながら、下着を洗って時間をつぶす。たぶん、ぼくのもの覚えがこんなにもひどいのは、きっといつも一度に最低2つのことをしているからだと思う。
―アンディ・ウォーホル」
ときの忘れものでは4月19日~5月6日の会期で「わが友ウォーホル」展を開催しますが、それに向けて、1988年に全国を巡回した『ポップ・アートの神話 アンディ・ウォーホル展』図録から“ウォーホル語録”をご紹介して行きます。
『ポップ・アートの神話 アンディ・ウォーホル展』図録1988年
30.0x30.0cm
56ページ
図版:114点収録
価格:3,150円(税込)※送料別途250円
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