国立国際美術館、東京国立近代美術館を巡回した「あなたの肖像―工藤哲巳回顧展」が青森県立美術館で6月8日(日)まで開催されています。

自分は恥ずかしながらこの工藤哲巳という作家のことを全く知りませんでした。チラシを見る限り得た「なんか、すごそう。」という印象だけを持って、前情報無しに見に行きました(東京会場)。
入ってすぐに展示されている、工藤が渡仏する前に制作していた作品は、縄の結び目がしつこく集合・整列していたり、アメーバのような細胞分裂のようなものが張りめぐらされた立体があったり、男性器が連続して登場するような作品があったりと、個人的な趣味からは程遠く、早くも観るのがなかなか辛くなってしまいました…。
パリに渡ってからのサイコロを模した箱に巨大な目玉や唇を閉じ込めたり、医療用アンプルをくっつけたり、赤ん坊の人形が瓶詰めのまま並んでいたり、相変わらず男性器がくりかえし登場したり…、このエネルギーは確かにすごい、と思いました。

今でこそ、インスタレーションやパフォーマンス的な「美術作品」が多いですが、数十年前、はたしてこれらの作品がどのように受け入れられたのだろうか、と。
日本では?海外では?また画商さんたちは、これらの作品をどのように扱っていたのだろうか。

一体どうなることやらと思いつつ、会場を進んでいくと、だんだんとこの一見グロテスクな作品群が、癖になるというか美しく見えてくるのはなぜなんだろう、と思いました。
美術館という空間に並べられているから?
作品が作られて何十年も経っているから?
考えても良く分かりませんが、ただ、この人が作った作品の多さ(展示された作品の多さ)から立ち現れてくるものがそう感じさせるような気がしました。
会場を出る頃には、それらに共通するエネルギーに向き合うことができるようになってきました。
酒に溺れ、自分の寿命を察してからの晩年の作品は、初期のころよりいささか大人しくも見えましたが、「工藤哲巳ここに在り」という魂は、一貫していたように思いました。
あとは、この展覧会の図録を見れば分かるとおり、この展覧会に対する企画者の愛というか執念というか、ここにも工藤のようなしつこさを感じざるを得ません。
あきば めぐみ
kudo_catalogue工藤哲巳展図録

20140412工藤哲巳展 表20140412工藤哲巳展 裏

会期:2014年4月12日[土]─6月8日[日]
会場:青森県立美術館
休館日:4/14、4/28、5/12、5/26
特設サイト:http://www.tetsumi-kudo-ex.com/

大阪の国立国際美術館、東京国立近代美術館との共同企画による本展は、国内の主要美術館や個人が所蔵する作品に加え、アムステルダム市立美術館、ゲント現代美術館、ポンピドゥ・センター、ニューヨーク近代美術館などの海外の美術館・コレクターの所蔵する作品を集め、日本初公開を含む約200点の作品と記録写真をはじめとする豊富な資料で工藤哲巳の全貌を包括的に紹介する大回顧展です。日本では20年ぶり、東京では初めての回顧展開催となりました。
20131102国立国際美術館(終了)
2013年11月2日~2014年1月19日

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東京国立近代美術館(終了)
2014年2月4日~3月30日

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工藤哲巳
1935年、大阪生まれ。父の出身地である青森で少年時代を過ごし、父の早世後、母の郷里の岡山で高校時代を過ごしました。東京藝術大学に進学。大学在学中から、「読売アンデパンダン」展を中心に作品の発表を開始。篠原有司男や荒川修作たちが結成した「ネオ・ダダ」とともに、「反芸術」の代表格として注目されました。
1962年、渡仏。以来、日本を行き来するようになる80年代半ばまで、欧州を中心に活躍。ヨーロッパでは、「あなたの肖像」のシリーズに代表されるように、同地の「良識」を挑発する作品やパフォーマンスを次々と展開。1972年には、アムステルダム市立美術館で個展が開催されました。
1970年代後半頃から、徐々に内省的な雰囲気を湛えた作品へと変化していきます。1987年には、母校の東京藝術大学の教授に就任。1990年11月12日、55歳の若さで他界しました。彼の作品は一見するとグロテスクですが、それらは物理学や数学、文明社会への関心を踏まえ、「社会評論のモデル」として、見る者の既成概念を揺るがすことを目的に作られています。
1994年には国立国際美術館で回顧展。2007年にはメゾン・ルージュ(パリ)、2008年にはウォーカー・アート・センター(ミネアポリス)で回顧展が開かれるなど、世界的に再評価の機運が高まっています。

◆今日のお勧め作品
草間百合草間彌生 Yayoi KUSAMA
FLOWERS 花(ユリ)
1985年
シルクスクリーン
45.5×53.0cm
Ed.100 サインあり
※レゾネNo.83(阿部出版 2005年新版)
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