スタッフSの海外ネットサーフィン No.12
「Contemporary Japanese prints Noda Tetsuya's 'Diary' series」

British Museum


五月も半ばを過ぎ、麗らかと言うにはいささか寒暖の激しかった春も終わりに近づき、ジメッとした梅雨が迫る中、皆様いかがお過ごしでしょうか、スタッフSこと新澤です。

早いもので、「スタッフSの海外ネットサーフィン」も今回で1周年。良くぞここまで続いたものです。……続いた割りに文章が上達していないという現実はさておき、このような毒にも薬にもならない文章に目を通して下さる読者の皆様には改めて御礼申し上げます。

さて、今回ご紹介させていただくイベントですが、会場は以前取り上げたことがある大英博物館です。なるべく同じ物件は避けようと思ってはいたのですが、またしてもタイムリーなイベントを開催されているので、今回の題材として選ばせていただきました。

以前の記事を読み返してみると、博物館の来歴などについては触れていなかったので、今回改めて簡単な説明を書かせていただきます。

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大英博物館の起源は、古美術収集家の医師ハンス・スローン卿(1660-1753)のコレクションにさかのぼります。
スローン卿は遺言で彼の死後、当時最大の博物学的収集品(美術品や稀覯書8万点)を一括管理し、一般に公開するよう指示しており、これを受けた管財人達はイギリス議会に働きかけ、議会はすでに国に所有されていたコットン蔵書と売りに出されていたハーレー蔵書を合わせて収容する博物館を設立することを決定しました。博物館の設立には宝くじ売り上げがあてられることになり、1759年に世界で最初の公共博物館として開館しました。
開館当初はモンタギューハウスのみでしたが、展示品が増えるにつれて手狭になり、1823年にキングズライブラリーが、1857年には現在も大英博物館を象徴する建造物となっている円形閲覧室が中庭の中央部に建設されました。
ちなみにこれでも収蔵品の増加に追いつかないため、1881年に自然史関係の収集物を独立させた自然史博物館がサウス・ケンジントンに分館として設立されています。
収蔵品には大英帝国時代の植民地から持ち込まれたものも多く、独立国家が多くなった現在では文化財保護の観点や宗教的理由から国外持ち出しが到底許可されないような貴重な遺物も少なくありません。そのせいで、イギリス人自身からも「泥棒博物館」や「強盗博物館」などとも皮肉られることもあります。まぁ英国人にとって風刺や皮肉は呼吸のようなものですから、言うほど誰も気にしてはいませんが。

この大英博物館第94展示室にて、4月5日から10月5日まで開催中の「Contemporary Japanese prints Noda Tetsuya's 'Diary' series」、先日ウチのブログでも「針生一郎「現代日本版画家群像」 第11回 島州一と野田哲也」で話題に上がり、当画廊でも取り扱っている野田哲也の作品を展示しています。入場料は無料。

1960年代後半より作家が半世紀に渡って作り続け、現在その総数は500を超える「日記」シリーズより、22点が展示されています。幾つかの作品は作家から寄贈されたもののようです。

20140526野田哲也
Diary: Aug. 22nd ’68.
1969年
カラー木版、シルクスクリーン
*作家提供作品

木版で色を捺し、撮影した画像に手を加えることでカメラに写った風景ではなく、自分の見た記憶を和紙に表現する。野田は、自分ににとってカメラはスケッチブックだと説明する。
(公式ページより)

世に木版とシルクスクリーン、個別の作品は数あれど、一つの作品で両方の技法を用いるというのは中々聞きません。それを半世紀に渡って制作し続けるという、その一貫性には正しく脱帽です。加えてその数500点以上というのですから、それらが一堂に会せばさぞかし壮観なことでしょう。……どこかやってくれないですかね?

(しんざわゆう)

The British Museum公式サイト:http://www.britishmuseum.org
展覧会紹介ページ:http://www.britishmuseum.org/whats_on/exhibitions/noda_tetsuyas_diary_series.aspx

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