野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」 第4回

箔画について

韓国でのアートフェア、KIAFから帰ってからはずっと次の目標、11月末のシンガポールでのアートフェアと、12月のときの忘れものさんでの個展(12月16日ー12月27日)に向けて、ひたすらに作品制作をしていました。
それで、いつも作品の展示をしていて、お客様に最も質問頂く事は箔画の技術についてなので、簡単ではありますが、今回は最近制作した作品の制作風景を混じえながら、少し技術についてご紹介したいと思います。
箔画という技法も自ら名付けたものであり、技術は元々の家業であった京都の西陣の箔屋の技術を応用したものです。
まずベースとなる木パネルに何度か漆を塗り重ねる事によって漆器のような滑らかな下地を作ります。
そしてまた漆を塗り、漆の粘着力によって金・銀・プラチナ箔を接着する事で様々なイメージを表現しています。
青や赤などの色部分は銀箔の化学変化(硫化)によって色を変化させたものであり、その上から透明の絵具で色を強調する場合もあります。
黒色部分は自ら石臼でひいた石炭の粉末を使用し、部分的な盛り上げには錆漆や樹脂を使用、木パネル自体を彫る場合もあり、立体感を表現しています。

作品の構想はスケッチブックの上で考えます。
これは新作「Landscape#31」15号Fの構想、間取り図みたいです。

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その後原寸の下描きをして地漆を塗ってあるパネルに転写し、箔押しを開始します。

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Landscapeを制作するのは10ヶ月ぶりだったのでまだ作業が遅く、感覚も鈍く、固いです。
毎日部分ごとに、コツコツと箔押しを進めます、これで20%位終了、まだスピードは上がらないものの、良い感じにはなってきました。
市松模様など、予め作った型紙を使う場合もあり、箔を押した後に針などで引っ掻いて模様を描く事もあります。

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不思議なもので、Landscapeなど細かく多くの色の箔を押し分ける時、ここは金箔、ここは銀、青、赤、黒、光らすのか、マットに砂子(箔の粉末)にするのか、小石や野毛(箔を細く切ったものや、四角く切ったもの)を混ぜるのか、そういう判断のスピード、合わせ方の良し悪しはその日の頭のキレ具合で全然違います。
頭がキレている時は本当に瞬時に判断できる上に色合せも良いのに、ダメな時は何十秒も考えてしまったり、色合わせがイマイチだったりで、同じ人間とは思えない程で、それが調子というものなのかと思いますが、瞬時に判断できる時は、将棋の名人だった祖父のDNAが時々働いてくれるのかなとか思ったりします。

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というわけで新作「Landscape#31」15号F (652×530mm)、箔押し期間は一週間、漆の硬化を一週間程待って、細部を仕上げて完成です。

画像5野口琢郎
「Landscape#31」
2014年
箔画(木パネル、漆、金・銀・プラチナ箔、石炭、樹脂、アクリル絵具)
652×530mm(15号F)
サインあり

あえて固い感じにしたくて、初期の 「Landscape#1」を参考に制作しました。
進化した所もあったのでこれはこれで良いのですが、出来てみるとやっぱりちょっと固いなと、そう作ったので当たり前なんですが…
で、個展のメインになる大作もこの感じで作ろうと構想していたものの、固いの作ると柔らかくしたくなったので、急遽構想をやり直して何とかまとまり、パネル下描き、やっぱり150号M (227.3 × 145.5 cm)は大きいです、きっと迫力ある作品になります。

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この「Landscape#31」も150号の大作も12月のときの忘れものさんの個展で展示致しますので、ぜひご高覧くださいませ。

のぐち たくろう

野口琢郎 Takuro NOGUCHI(1975-)
1975年京都府生まれ。1997年京都造形芸術大学洋画科卒業。2000年長崎市にて写真家・東松照明の助手に就く。2001年京都西陣の生家に戻り、家業である箔屋野口の五代目を継ぐため修行に入る。その後も精力的に創作活動を続け、2004年の初個展以来毎年個展を開催している。12月にはときの忘れもので新作個展を開催します。

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●今日のお勧め作品は野口琢郎です。
noguchi_19_kotodama野口琢郎
「kotodama」
2013年
箔画(木パネル、漆、金・銀・プラチナ箔、石炭、樹脂)
53.0×33.3cm
サインあり


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