北陸の里に現代美術の輪 その後
荒井由泰
1997年の12月に「北陸の里に現代美術の輪」というタイトルで日本経済新聞社の文化欄で書く機会を得たが、その後の活動についての問い合わせもあるので、少し書き加えたい。前回と重複するが、はじめて読まれる方のために、物語の流れをお話することとしたい。
1977年にニューヨークから、ふるさと福井県勝山市に戻り、そこでアートフル勝山の会と称するグループを作り、作家を招き展覧会を開催したり、コンサートを開くなどしてきた。また、その費用を捻出するために、作品の販売も手がけながら、勝山市(人口2万6千人)という小都市で30年にわたり活動を続けてきた。招聘してきた作家は24名にもおよぶ。主な作家を紹介すると、難波田龍起、岡本太郎、オノサトトシノブ、泉茂、吉原英雄、元永定正、磯崎新、木村利三郎、野田哲也、関根伸夫、丹阿弥丹波子、舟越桂、小野隆生、土屋公雄、柄澤齊、北川健次、戸村茂樹等、多士済々のメンバーである。オノサトトシノブ、野田哲也、元永定正、泉茂、木村利三郎、小野隆生等面々には、北陸の小都市まで複数回足を運んでいただいた。
現在は活動拠点であった中上邸イソザキホールの家主である中上氏が病気療養中ということもあり、アートフルの活動は休止中だが、私がアートフル活動でコレクションした作品を含め、40年にわたりコツコツと蒐集してきた作品(版画が中心だが)を福井市内のギャラリーで公開する形で、活動を続けさせていただいている。この点については後で述べたいと思う。
今になって思うが、よくも30年にわたり、アートフル勝山の会として現代美術を皆さんに見ていただき、関心を持っていただく、さらには作家の支援のために作品を購入してもらう活動が継続できたと思う。それは郷土の大先輩の土岡秀太郎氏が60年にわたり、北荘画会そして北美文化協会をベースに前衛美術・現代美術を紹介し、作家を育ててきたこと。さらには北美文化協会とも関わっているが、学校の先生方が創造美育運動(創美)に取り組まれ、それが小コレクターの会活動(3点の作品を持てば小コレクター)と広がった。そして、その活動のなかで創美に関わった先生達が瑛九と出会い、瑛九の芸術を全身全霊で応援することで、現代美術の歴史のなかで燦然と輝く希有な物語が創りあげられた。まさに福井の先人達の情熱や努力の力に支えられ、アートフルの活動が続けられたのではと強く感じている。
招聘した作家の数名は亡くなられている。また、創美運動・小コレクター運動を引っ張ってこられた先生方の多くも鬼籍に入られた。幸せにもそんな方々と直に交流できたこと、また情熱の一端に直接触れることができたことは私にとっては宝である。一方、地域文化の伝統として将来に伝える使命をも感じている。
アートフル活動では先輩諸氏にくらべれば地域文化への貢献はわずかであるが、この活動を通じて得たものをなんとか、ふるさとの若い人に伝えていきたいと思っている。その活動の一つがコレクションの公開だと思っている。
現在福井市に福井大学の先生方が中心に設立されたNPO法人が運営するE&Cギャラリーがある。ギャラリーがオープンして5年になる。最初の展覧会が今は亡き宇佐美先生の「宇佐美圭司展」であったことからレベルを理解してもらえると思うが、現代美術の発表の場、また普及の場として着実に活動している。
その場を活用させていただき、テーマを絞って、私のコレクション展を開催してきた。(A氏コレクションよりとしたが)2009年の「駒井哲郎版画展」をかわきりに2回の「人物博覧会」、一番最近の「恩地孝四郎と月映展」を含め5回開催した。ギャラリートークやレセプションを通じ、若い人達と交流することで自分のコレクションの中味やコレクションに対する考え方にも変化があったように思う。コレクションはあくまでも一時の預かりものでもあり、皆さんに見ていただくことで価値が出てくるものに違いない。コレクションの公開によって、蒐集する態度も変わる。皆さんに伝えたいものを意識するようになる。本年(2014)開催の「恩地孝四郎と月映展」では私が私淑している「恩地孝四郎」の先進性やその芸術、さらには幻の版画誌「月映」をとおして、当時の画学生が木版に刻み込んだ魂の叫びを皆さんに感じ取ってもらう努力をしたところである。
今回、「福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み、中上光雄・陽子コレクションより」展が福井県立美術館にて開催される運びとなったが、中上ご夫妻のコレクションを通じて、福井の小コレクター運動そして私が深く関わったアートフル勝山の活動を知っていただく機会を得たことは大きな意義があると思っている。この展覧会で先人達の現代美術に対するあふれんばかりの情熱の一端を感じ取っていただき、次世代に伝える力となることを切に願ってやまない。
かつては福井県は戦前・戦後において現代美術の先進地であった。チャレンジ精神が旺盛であったことを物語っている。しかし、現在はあまり元気がない。おかげさまで勝山市にある「福井県立恐竜博物館」は大人気でたくさんの方に来場いただいているが…。
今一度先人達の想いをしっかり受け止めて、アートの世界でも新たな光が見えることを期待している。
あらい よしやす(アートフル勝山の会代表)
*『福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み―中上光雄・陽子コレクションによる―』図録より転載

舟越桂展
1993年10月
左から中上陽子、舟越桂、中上光雄、荒井由泰
下中央から時計回りに、中上光雄、荒井由泰、荒井多恵子、中上陽子、綿貫令子、浪川和江、綿貫不二夫
1995年10月
(撮影:浪川正男)
中上邸イソザキホール
撮影:マイク・ヨコハマ 2014年
*参考
2015年1月22日ブログ「台所なんて要りませんから」
2015年1月30日ブログ「石原輝雄~現代美術と磯崎建築~北陸の冬を楽しむツアーに参加して」
2015年1月31日ブログ「浜田宏司~現代美術と磯崎建築~北陸の冬を楽しむツアーに参加して」
2015年2月2日ブログ「酒井実通男~現代美術と磯崎建築~北陸の冬を楽しむツアーに参加して」
●『福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み
―中上光雄・陽子コレクションによる―』図録
2015年 96ページ 25.7x18.3cm
発行:中上邸イソザキホール運営委員会(荒井由泰、中上光雄、中上哲雄、森下啓子)
出品作家:北川民次、難波田龍起、瑛九、岡本太郎、オノサト・トシノブ、泉茂、元永定正、 木村利三郎、丹阿弥丹波子、吉原英雄、靉嘔、磯崎新、池田満寿夫、野田哲也、関根伸夫、小野隆生、舟越桂、北川健次、土屋公雄(19作家150点)
執筆:西村直樹(福井県立美術館学芸員)、荒井由泰(アートフル勝山の会代表)、野田哲也(画家)、丹阿弥丹波子(画家)、北川健次(美術家・美術評論)、綿貫不二夫(ときの忘れもの)
編集:ときの忘れもの
価格:1,200円のところ、会期中のみ1,000円で頒布
※送料別途250円
ときの忘れもので扱っています。メールにてお申し込みください。
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
「福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み
―中上光雄・陽子コレクションによる―」
会期:2015年1月3日[土]~2月8日[日]
主催:福井県立美術館
●明日1月18日14時より、福井県立美術館にて座談会「福井の小コレクター運動について語る」が開催されます。お近くの方はぜひご参加ください。

出品作家:北川民次、難波田龍起、瑛九、岡本太郎、オノサト・トシノブ、泉茂、元永定正、 木村利三郎、丹阿弥丹波子、吉原英雄、靉嘔、磯崎新、池田満寿夫、野田哲也、関根伸夫、小野隆生、舟越桂、北川健次、土屋公雄
*展覧会開催を記念して中上邸イソザキホール運営委員会から提供されたオノサト・トシノブ、吉原英雄、靉嘔の版画作品を特別頒布しています。
荒井由泰
1997年の12月に「北陸の里に現代美術の輪」というタイトルで日本経済新聞社の文化欄で書く機会を得たが、その後の活動についての問い合わせもあるので、少し書き加えたい。前回と重複するが、はじめて読まれる方のために、物語の流れをお話することとしたい。
1977年にニューヨークから、ふるさと福井県勝山市に戻り、そこでアートフル勝山の会と称するグループを作り、作家を招き展覧会を開催したり、コンサートを開くなどしてきた。また、その費用を捻出するために、作品の販売も手がけながら、勝山市(人口2万6千人)という小都市で30年にわたり活動を続けてきた。招聘してきた作家は24名にもおよぶ。主な作家を紹介すると、難波田龍起、岡本太郎、オノサトトシノブ、泉茂、吉原英雄、元永定正、磯崎新、木村利三郎、野田哲也、関根伸夫、丹阿弥丹波子、舟越桂、小野隆生、土屋公雄、柄澤齊、北川健次、戸村茂樹等、多士済々のメンバーである。オノサトトシノブ、野田哲也、元永定正、泉茂、木村利三郎、小野隆生等面々には、北陸の小都市まで複数回足を運んでいただいた。
現在は活動拠点であった中上邸イソザキホールの家主である中上氏が病気療養中ということもあり、アートフルの活動は休止中だが、私がアートフル活動でコレクションした作品を含め、40年にわたりコツコツと蒐集してきた作品(版画が中心だが)を福井市内のギャラリーで公開する形で、活動を続けさせていただいている。この点については後で述べたいと思う。
今になって思うが、よくも30年にわたり、アートフル勝山の会として現代美術を皆さんに見ていただき、関心を持っていただく、さらには作家の支援のために作品を購入してもらう活動が継続できたと思う。それは郷土の大先輩の土岡秀太郎氏が60年にわたり、北荘画会そして北美文化協会をベースに前衛美術・現代美術を紹介し、作家を育ててきたこと。さらには北美文化協会とも関わっているが、学校の先生方が創造美育運動(創美)に取り組まれ、それが小コレクターの会活動(3点の作品を持てば小コレクター)と広がった。そして、その活動のなかで創美に関わった先生達が瑛九と出会い、瑛九の芸術を全身全霊で応援することで、現代美術の歴史のなかで燦然と輝く希有な物語が創りあげられた。まさに福井の先人達の情熱や努力の力に支えられ、アートフルの活動が続けられたのではと強く感じている。
招聘した作家の数名は亡くなられている。また、創美運動・小コレクター運動を引っ張ってこられた先生方の多くも鬼籍に入られた。幸せにもそんな方々と直に交流できたこと、また情熱の一端に直接触れることができたことは私にとっては宝である。一方、地域文化の伝統として将来に伝える使命をも感じている。
アートフル活動では先輩諸氏にくらべれば地域文化への貢献はわずかであるが、この活動を通じて得たものをなんとか、ふるさとの若い人に伝えていきたいと思っている。その活動の一つがコレクションの公開だと思っている。
現在福井市に福井大学の先生方が中心に設立されたNPO法人が運営するE&Cギャラリーがある。ギャラリーがオープンして5年になる。最初の展覧会が今は亡き宇佐美先生の「宇佐美圭司展」であったことからレベルを理解してもらえると思うが、現代美術の発表の場、また普及の場として着実に活動している。
その場を活用させていただき、テーマを絞って、私のコレクション展を開催してきた。(A氏コレクションよりとしたが)2009年の「駒井哲郎版画展」をかわきりに2回の「人物博覧会」、一番最近の「恩地孝四郎と月映展」を含め5回開催した。ギャラリートークやレセプションを通じ、若い人達と交流することで自分のコレクションの中味やコレクションに対する考え方にも変化があったように思う。コレクションはあくまでも一時の預かりものでもあり、皆さんに見ていただくことで価値が出てくるものに違いない。コレクションの公開によって、蒐集する態度も変わる。皆さんに伝えたいものを意識するようになる。本年(2014)開催の「恩地孝四郎と月映展」では私が私淑している「恩地孝四郎」の先進性やその芸術、さらには幻の版画誌「月映」をとおして、当時の画学生が木版に刻み込んだ魂の叫びを皆さんに感じ取ってもらう努力をしたところである。
今回、「福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み、中上光雄・陽子コレクションより」展が福井県立美術館にて開催される運びとなったが、中上ご夫妻のコレクションを通じて、福井の小コレクター運動そして私が深く関わったアートフル勝山の活動を知っていただく機会を得たことは大きな意義があると思っている。この展覧会で先人達の現代美術に対するあふれんばかりの情熱の一端を感じ取っていただき、次世代に伝える力となることを切に願ってやまない。
かつては福井県は戦前・戦後において現代美術の先進地であった。チャレンジ精神が旺盛であったことを物語っている。しかし、現在はあまり元気がない。おかげさまで勝山市にある「福井県立恐竜博物館」は大人気でたくさんの方に来場いただいているが…。
今一度先人達の想いをしっかり受け止めて、アートの世界でも新たな光が見えることを期待している。
あらい よしやす(アートフル勝山の会代表)
*『福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み―中上光雄・陽子コレクションによる―』図録より転載

舟越桂展
1993年10月
左から中上陽子、舟越桂、中上光雄、荒井由泰
下中央から時計回りに、中上光雄、荒井由泰、荒井多恵子、中上陽子、綿貫令子、浪川和江、綿貫不二夫1995年10月
(撮影:浪川正男)
中上邸イソザキホール撮影:マイク・ヨコハマ 2014年
*参考
2015年1月22日ブログ「台所なんて要りませんから」
2015年1月30日ブログ「石原輝雄~現代美術と磯崎建築~北陸の冬を楽しむツアーに参加して」
2015年1月31日ブログ「浜田宏司~現代美術と磯崎建築~北陸の冬を楽しむツアーに参加して」
2015年2月2日ブログ「酒井実通男~現代美術と磯崎建築~北陸の冬を楽しむツアーに参加して」
●『福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み―中上光雄・陽子コレクションによる―』図録
2015年 96ページ 25.7x18.3cm
発行:中上邸イソザキホール運営委員会(荒井由泰、中上光雄、中上哲雄、森下啓子)
出品作家:北川民次、難波田龍起、瑛九、岡本太郎、オノサト・トシノブ、泉茂、元永定正、 木村利三郎、丹阿弥丹波子、吉原英雄、靉嘔、磯崎新、池田満寿夫、野田哲也、関根伸夫、小野隆生、舟越桂、北川健次、土屋公雄(19作家150点)
執筆:西村直樹(福井県立美術館学芸員)、荒井由泰(アートフル勝山の会代表)、野田哲也(画家)、丹阿弥丹波子(画家)、北川健次(美術家・美術評論)、綿貫不二夫(ときの忘れもの)
編集:ときの忘れもの
価格:1,200円のところ、会期中のみ1,000円で頒布
※送料別途250円
ときの忘れもので扱っています。メールにてお申し込みください。
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
「福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み―中上光雄・陽子コレクションによる―」
会期:2015年1月3日[土]~2月8日[日]
主催:福井県立美術館
●明日1月18日14時より、福井県立美術館にて座談会「福井の小コレクター運動について語る」が開催されます。お近くの方はぜひご参加ください。

出品作家:北川民次、難波田龍起、瑛九、岡本太郎、オノサト・トシノブ、泉茂、元永定正、 木村利三郎、丹阿弥丹波子、吉原英雄、靉嘔、磯崎新、池田満寿夫、野田哲也、関根伸夫、小野隆生、舟越桂、北川健次、土屋公雄
*展覧会開催を記念して中上邸イソザキホール運営委員会から提供されたオノサト・トシノブ、吉原英雄、靉嘔の版画作品を特別頒布しています。
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