スタッフSの植田実×降旗千賀子ギャラリートーク・レポート

読者の皆様、遅まきながら、新年明けましておめでとうございます。
「特に予定はないから、今年も正月は寝正月かなぁ」などと嘯いていたら、年末に風邪をひいてしまい、物理的に寝て正月を過ごす羽目になったスタッフSこと新澤です。東京近辺では雪も雨もないものの、寒さは益々深まるばかり。皆様もどうぞお気を付け下さい。

そんな新年早々締まらない自分とは真逆に、ときの忘れもの2015年の第一回企画展「植田実写真展―都市のインク」はいたって好調です。軍艦島の愛称で知られる端島と、東京・横浜にかつて建っていた同潤会アパートメントの写真の数々は、それらの建物を実際に見たことがある方、或いは今回の作品を通してそれらに想像を馳せる方、いずれにも好評です。

そんなご好評をいただいている企画の一環として、先週の16日金曜日に、建築評論家にして今展覧会作家の植田実先生と目黒区美術館学芸員の降旗千賀子さんをお迎えしてギャラリートークを開催しました。

DSCF4262作家の植田実先生(右)と目黒区美術館学芸員の降旗千賀子さん(左)

東京都内に美術館は数あれど、実は区立美術館ともなるとたった6つしかなく、その中でも最も新しい(とはいえ開館したのは1987年と一昔前ですが)のが目黒区美術館。降旗さんは準備室時代から一貫して目黒区美術館に席を置かれており、美術館の設計段階で作家の作業シーンも企画の一部とする構造を提案するなど、ご本人曰く「地味だけどちょっと違う」企画に関わってこられました。ちなみに目黒以降区立美術館の建設が進んでいないのは深い理由あってのことではなく、単にバブル経済が弾けてしまったからだそうで。なんとも世知辛い理由でございます。

そんな降旗さんの紹介から始まったギャラリートークですが、目黒区美術館の企画展示で軍艦島の風景が出品された所から植田先生の端島訪問についてのお話に。先生が端島を訪れたのは1974年、島が無人島化した直後だったそうですが、先日来廊されたお客様はその前に島を訪れたことがあるそうで、色々と端島という場所についてお話されていました。端島といえばその特殊な立地以外にも、意外と島民の仲が良かったというのが話としては有名ですが、人がいる時の話を聞き、またご自分で廃墟と化した居住地区を見て回った植田先生曰く、「あそこには渋谷もあれば新宿もある、青山通りがあれば銀座通りもあった。歌舞伎町のように女郎屋が軒を連ねている場所だってあった」そうで。まぁ炭鉱夫ともなれば荒くれ者、どこぞのひょうたん島のようには行きませんね。

DSCF4274端島の各所を撮影したモノクロ写真連作
複合体の名の通り、様々な構造が伺えます。

植田先生が端島を訪れたのは40年前、40歳の時で、丁度「都市住宅」の編集長を退く直前だったそうです。この時に撮影された写真はその後「都市住宅」の特別号に掲載されましたが、この時初めて撮影者として植田先生の名前が掲載されたとのこと。それまでは編集部撮影として、撮影者としての名前は出ていないそうで。それはともかくとして、この編集部撮影というのが曲者でして、ネガは全て編集部預かりとなっていた結果、ほぼ全てが処分、或いは行方が分からないという事態に。昨今はともかく当時は写真家でさえ写真が単体で作品として売れるものだとは思っておらず、結果現像された写真は雑誌用などは勿論展覧会などで現像されたものですら展示期間後は処分されていたというのですから、勿体ない以上に恐ろしい話です。今展覧会で展示されている同潤会アパートメントのプリントは、そんな状況でかろうじて植田先生の手元に残っていたネガから現像されたものです。20点で「かろうじて」という表現が出る辺り、総数はどれだけあったのか。今という時代に話で聞くからこそ好き勝手に言えることではありますが、やっぱり勿体無いなぁ…。

DSCF4275端島と逆側の壁に展示された、こちらはカラーの同潤会アパートメント

ちなみにこの手元に残っていたネガ、植田先生は「何となく」40年間保存していたらしいのですが、先日写真家の宮本隆司先生の訪問を受けたところ、「ネガの保存状態は完璧」だとお褒めの言葉を頂いたそうで。その後すぐにネガを冷蔵庫に保管するように言われたそうですが、その様子はまるで末期癌が発覚した患者が即日入院を勧められるかのようであったとか。今日日プロでもネガにカビを生やしてしまったり、ネガ同士を癒着させてしまったりということは多いそうなので、こうも鮮やかなプリントを現像できるネガとあれば、自分のものでなくとも大事にしたくなるのも分かります。絵画であれば記憶にある限り作家はいつでも昔のものとして描けますが、写真はどうやっても今を取り置くことしかできません。宮本先生は植田先生が「都市住宅」の編集長だった頃にお手伝いなされていたのですが、軍艦島の撮影には同道するタイミングを逸し、そのことを未だに悔いておられるとか。

RIMG0743降旗さんにお持ち頂いた雑誌や書籍を参照しながらの一幕。
次から次へと、話題が尽きませんでした。

この後も写真を軸に植田先生と降旗さんの間で様々な話題が行きかい、あっという間に時間が来た後も賑やかに会話が飛び交う懇親会と相成りました。以下はその様子です。

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今回のトークには定員25名をはるかに超える申し込みがあり、多くの皆さんにお断りすることになってしまいました。建築や写真の分野で活躍する方も多く、豪華な顔ぶれでした。

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降旗千賀子さんと植田実先生

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左から作家の料治幸子さん、社長、奈良原一高先生の奥様恵子さん、島根県立美術館の奈良原展を企画した蔦谷典子さん

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建築家の光嶋裕介さん
DSCF4288最後はいつもタイミングを外してしまい、あらかたお客様が帰ってしまった後に集合写真で締め。
前列左から映画監督の石山友美さん、ブログで大連載執筆中の大竹昭子さん。
後列右から二人目は日本を代表する家具デザイナーの藤江和子さん。

次回は26日のスタッフSの海外ネットサーフィンにてまたお目汚しさせていただきます。
お時間があればお付き合いください。

(しんざわ ゆう)

端島複合体_013出品No.13)
植田実
「端島複合体」(13)
1974 (Printed in 2014)
Gelatin silver print
40.4x26.9cm
Ed.5 Signed

端島複合体_014出品No.14)
植田実
「端島複合体」(14)
1974 (Printed in 2014)
Gelatin silver print
40.4x26.9cm
Ed.5 Signed

同潤会アパートメント_代官山_009出品No.22)
植田実
「同潤会アパートメント 代官山」(1)
(Printed in 2014)
Lambda print
16.3×24.4cm
Ed.7 Signed

同潤会アパートメント 代官山 2出品No.23)
植田実
「同潤会アパートメント 代官山」(2)
(Printed in 2014)
Lambda print
16.3×24.4cm
Ed.7 Signed

同潤会アパートメント_006出品No.28)
植田実
「同潤会アパートメント 柳島」(1)
(Printed in 2014)
Lambda print
16.3×24.4cm
Ed.7 Signed

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福井県立美術館では2月8日まで『福井の小コレクター運動とアートフル勝山の歩み―中上光雄・陽子コレクションによる―』が開催されています。ときの忘れものが編集を担当したカタログと、同展記念の特別頒布作品(オノサト・トシノブ、吉原英雄、靉嘔)のご案内はコチラをご覧ください。

◆ときの忘れものは2015年1月9日[金]―1月23日[金]「植田実写真展―都市のインク 端島複合体、同潤会アパートメント」を開催しています(*会期中無休)。
植田実写真展DM2003年度の日本建築学会文化賞を受賞するなど、建築評論、編集者として長年活躍し続ける植田実が、長年撮りためてきた写真作品を初めて公開したのは2010年のときの忘れものでの「植田実写真展―空地の絵葉書」でした。70歳を超えての初個展でした。二度目の個展となる本展では〈端島複合体〉〈同潤会アパートメント〉の写真と、61年に8mmフィルムで撮影した《丸の内赤煉瓦街》の映像をご覧いただきます。

作家在廊日のお知らせ
植田実さんは下記の日程で在廊予定です。
変更となる場合もございますので予めご了承ください。
1月23日(金) 15:00~17:00頃