建築家の大野幸さんから「知り合いの知り合いに京都でテンペラ画を描いている画家がいる」と紹介されたのはいつの頃だったでしょうか。
「どういう絵ですか」と聞くと「いやボクもまだ見ていないのでわからないのですが、共通の友人がいて、その人はとっても信用できる人なので」というまるで雲をつかむような話から今回の企画が始まりました。

大野さんは早稲田の建築出身なのですが、在学中はほとんど授業には出ず、大学のオーケストラでヴァイオリンを弾き、エジプトでひたすら遺跡を掘り返していたとか。
ものすごく秀才かそれともとびきりの異才を好む磯崎新先生に見込まれて磯崎アトリエに入ったのが1989年、運悪く(?)亭主がフランス革命200年を記念した『エッフェル塔 100年のメッセージ【建築・ファッション・絵画】』という大展覧会を手がけており、入所したばかりの大野さんは磯崎先生にメイン会場の群馬県立近代美術館(磯崎新設計)の会場構成を命じられてしまった。
磯崎アトリエでの初仕事が亭主が相手とあってお気の毒でしたが、以来長い長い付き合いになります。

そんなわけで、大野さんのご紹介とあらばまずはともかく作品を拝見しようと、社長と亭主はある日新幹線に乗って初めて木坂宏次朗さんのアトリエを訪ねたのでした。
ひっそりとしたアトリエには数点の絵が飾られていました。面相筆で細かな縦線を丹念に描き重ねる木坂さんの絵からは、静寂に満ちた光がひそやかにこちらに向ってくるようでした。

木坂は、面相筆(極めて細い筆)で、何度も何度も線を塗り重ねて、画面全体を覆い尽くす。遠くから見ると、幅広の筆で色彩の諧調を整えたかに見える場所も、近くでよく観察してみると、一筆一筆、縦方向に細い線が描かれ、その集積があって初めてその色調の変化が生まれているのが分かる。乾くのが早く、重ね塗りしても絵具が混じらないテンペラの特性を遺憾なく発揮している。
 卵テンペラによる絵画の多くは、木のパネルに綿布を張り、石膏で下地を整え、あらかじめ墨で真っ暗な闇の状態を作り、その上にセルリアン・コバルトの青色を少しずつ上塗りして、徐々に明暗の調子をつけていく。暗闇から光が生まれるようになるには、かなりの時間を要するようだ。とりわけ、暗い下地は明るい色をどれだけのせてもすぐに吸収されてしまい、なかなか明るさを確保できないものだ。

(島敦彦「静寂の光に包まれて-木坂宏次朗の世界」より)

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kisaka016月26日夕刻から木坂さんを囲んでレセプションを開催しました。

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木坂さんの友人のチェリスト、富田牧子さんがバッハなど数曲を演奏してくださいました。

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富田牧子さんははじめヴァイオリンを学んでいたのですが、ドヴォルザークのチェロ協奏曲に感動しチェロに魅かれ、中学2年生の夏、7年続けたヴァイオリンを止め、チェロに転向したそうです。
2000年より2年間、ハンガリーのブダペストに留学、バルトーク弦楽四重奏団チェロ奏者Mezo Laszlo(メズー・ラースロー)氏に学びます。夏休みはハンガリーを脱出し、日本に戻らず、イタリアや南フランスの講習会に出かけ、熱心に美術館めぐりもしたとか。

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ときの忘れものの木造の空間は狭いけれど天井高が約5mあり、音響が良いのはわかっていたのですが、今までプロの音楽家に演奏していただく機会がなく、初めてのミニコンサートとなりました。
木坂さんの絵と響き合い、豊かなこころ洗われるひとときでした。

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この日は京都から木坂さんのご家族も揃っていらっしゃいました。

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演奏終了後は近くのレストランでささやかな二次会。
右から三人目が大野幸さん。

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富田牧子さんの演奏はこの日初めて聞いたのですが、すっかりファンになってしまいました。機会があればまたミニコンサートをしたいものです。

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◆ときの忘れものは2015年6月24日[水]―7月11日[土]「木坂宏次朗展 AT THE STILL POINT」を開催しています(*会期中無休)。
木坂宏次朗展DM600京都の画家・木坂宏次朗は、T.S.エリオットの詩に触発され、土、水、空気、火の四つの象徴を経てStill Point(永遠の時間と現在の時が重なる時)を表現する作品を作り続けています。本展ではその繊細なテンペラ作品やドローイングを約15点ご覧いただきます。


●図録刊行のご案内
表紙『木坂宏次朗展 AT THE STILL POINT』図録
2015年
ときの忘れもの 発行
16ページ
25.7x18.2cm
執筆:島敦彦
掲載図版:17点
デザイン:北澤敏彦(株式会社DIX-HOUSE)
税込864円 ※送料別途250円

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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●作家在廊日のお知らせ
木坂宏次朗さんは下記の日程で在廊予定です。変更となる場合もございますので予めご了承ください。
-6月26日(金) 13:00~19:00
-6月27日(土) 12:00~19:00
-6月28日(日) 12:00~16:00
7月10日(金) 12:00~19:00
7月11日(土) 12:00~19:00