藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」第14回
筆者が勤務する近現代建築資料館にて、10月26日(水)より、展覧会「建築と社会を結ぶ―大髙正人の方法」が始まります。京都工芸繊維大学の松隈洋教授と東京大学の中島直人准教授が、大髙が残した膨大な資料から、大高正人初の包括的な展覧会を企画してくださいました。
建築と社会を結ぶ―、建築とはそもそも社会的なものだったのではないのか? という疑問の声が聞こえてきそうです。まさに、本来社会との繋がりの中で考えられなければならない建築が、その結びつきを失ってしまった状況を憂い、本来あるべき姿を求めて格闘したのが大髙正人だった、そのように言うことができると思います。
大髙正人という建築家は、一般的に見て知名度が高いとはいえません。建築界ですら、そうかもしれません。30代半ばで参加したメタボリズム・グループの一員としての認識はあっても、特に後期の仕事については、すぐに思い浮かぶ人は少ないでしょう。実際、80年代以降は建築雑誌で名前を見ることはかなり少なかったはずです。その理由は、大髙が次第に単体の建築デザインだけではなく、都市デザインの領域に闘いの場を拡げていったためだと言えそうです。同じくメタボリズム・グループに参加していた建築評論家の川添登は、それを「大高正人の全面戦争」と表現していました*。闘いの場が拡がったために、単体建築のデザインが減り、建築雑誌等での個人名を冠しての作品発表の機会は少なくなっていきました。しかし、その間に大髙が継続的に手がけていた仕事は、多摩ニュータウンや横浜みなとみらい21といった、大規模な都市デザインでした。筆者はこの2年間大髙資料の整理を担当し、都市計画関係の図面を広げる機会も幾度となくありましたが、見たこともないような大きな図面がたくさんありました。そしてそこにはいわゆるデザインの図面だけではなく、デザインの前の段階の現状分析や調査も多く含まれていました。都市に向き合うということ、それはまさに「闘い」と称するのがふさわしい、困難な仕事であったことでしょう。
今回の展覧会では、大髙が掲げた3つの理想の融合をキーワードとしています。3つとはすなわち、P = Prefabrication、A = Art & Architecture、U = Urbanismで、大高はその頭文字をとって「PAU」とし、大髙事務所が手がけた仕事の件名番号の頭にもこの文字をつけました。主に初期に試みた工業化への取り組みと、大髙独特の造形へのこだわり、そして都市への取り組み。この「PAU」は生涯を通じて大髙の仕事のテーマとなっていたと思われます。その根底には、常に建築を社会的な存在として捉える大髙の姿勢があったといえます。それは、現代においてこそ意識的に考えていかなければならないことではないでしょうか。この展覧会については、来月以降も継続してお伝えしたいと思います。
大髙正人の仕事は膨大で範囲も広く、その全貌を知ること・伝えることはとても難しく感じられます。しかし、残された資料を通じて、少しでも多くの方と、大髙の足跡とそのメッセージを共有したいと思っています。
是非、ご来館ください。お待ちしています。
*『メタボリズムとメタボリストたち』(大髙正人・川添登編、2005、美術出版社)

《建築と社会を結ぶ―大髙正人の方法》展、国立近現代建築資料館
2016年10月26日(水)~2017年2月5日(日)
http://nama.bunka.go.jp/kikak/
イベントのチェックはこちらから↓
http://nama.bunka.go.jp/kikak/kikak/1609/notice.html
(ふじもと たかこ)
■藤本貴子 Takako FUJIMOTO
磯崎新アトリエ勤務のち、文化庁新進芸術家海外研修員として建築アーカイブの研修・調査を行う。2014年10月より国立近現代建築資料館研究補佐員。
●今日のお勧め作品は、ルイーズ・ニーヴェルスンです。
ルイーズ・ニーヴェルスン
「7508」
1975年
シルクスクリーン
70.8×85.4cm
Ed.40
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は毎月11日の更新です。
・藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は毎月22日の更新です。
・八束はじめ・彦坂裕のエッセイ「建築家のドローイング」(再録)は毎月24日の更新です。
・光嶋裕介のエッセイ「和紙に挑む」は毎月30日の更新です。
・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」と合わせお読みください。
「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
筆者が勤務する近現代建築資料館にて、10月26日(水)より、展覧会「建築と社会を結ぶ―大髙正人の方法」が始まります。京都工芸繊維大学の松隈洋教授と東京大学の中島直人准教授が、大髙が残した膨大な資料から、大高正人初の包括的な展覧会を企画してくださいました。
建築と社会を結ぶ―、建築とはそもそも社会的なものだったのではないのか? という疑問の声が聞こえてきそうです。まさに、本来社会との繋がりの中で考えられなければならない建築が、その結びつきを失ってしまった状況を憂い、本来あるべき姿を求めて格闘したのが大髙正人だった、そのように言うことができると思います。
大髙正人という建築家は、一般的に見て知名度が高いとはいえません。建築界ですら、そうかもしれません。30代半ばで参加したメタボリズム・グループの一員としての認識はあっても、特に後期の仕事については、すぐに思い浮かぶ人は少ないでしょう。実際、80年代以降は建築雑誌で名前を見ることはかなり少なかったはずです。その理由は、大髙が次第に単体の建築デザインだけではなく、都市デザインの領域に闘いの場を拡げていったためだと言えそうです。同じくメタボリズム・グループに参加していた建築評論家の川添登は、それを「大高正人の全面戦争」と表現していました*。闘いの場が拡がったために、単体建築のデザインが減り、建築雑誌等での個人名を冠しての作品発表の機会は少なくなっていきました。しかし、その間に大髙が継続的に手がけていた仕事は、多摩ニュータウンや横浜みなとみらい21といった、大規模な都市デザインでした。筆者はこの2年間大髙資料の整理を担当し、都市計画関係の図面を広げる機会も幾度となくありましたが、見たこともないような大きな図面がたくさんありました。そしてそこにはいわゆるデザインの図面だけではなく、デザインの前の段階の現状分析や調査も多く含まれていました。都市に向き合うということ、それはまさに「闘い」と称するのがふさわしい、困難な仕事であったことでしょう。
今回の展覧会では、大髙が掲げた3つの理想の融合をキーワードとしています。3つとはすなわち、P = Prefabrication、A = Art & Architecture、U = Urbanismで、大高はその頭文字をとって「PAU」とし、大髙事務所が手がけた仕事の件名番号の頭にもこの文字をつけました。主に初期に試みた工業化への取り組みと、大髙独特の造形へのこだわり、そして都市への取り組み。この「PAU」は生涯を通じて大髙の仕事のテーマとなっていたと思われます。その根底には、常に建築を社会的な存在として捉える大髙の姿勢があったといえます。それは、現代においてこそ意識的に考えていかなければならないことではないでしょうか。この展覧会については、来月以降も継続してお伝えしたいと思います。
大髙正人の仕事は膨大で範囲も広く、その全貌を知ること・伝えることはとても難しく感じられます。しかし、残された資料を通じて、少しでも多くの方と、大髙の足跡とそのメッセージを共有したいと思っています。
是非、ご来館ください。お待ちしています。
*『メタボリズムとメタボリストたち』(大髙正人・川添登編、2005、美術出版社)

《建築と社会を結ぶ―大髙正人の方法》展、国立近現代建築資料館
2016年10月26日(水)~2017年2月5日(日)
http://nama.bunka.go.jp/kikak/
イベントのチェックはこちらから↓
http://nama.bunka.go.jp/kikak/kikak/1609/notice.html
(ふじもと たかこ)
■藤本貴子 Takako FUJIMOTO
磯崎新アトリエ勤務のち、文化庁新進芸術家海外研修員として建築アーカイブの研修・調査を行う。2014年10月より国立近現代建築資料館研究補佐員。
●今日のお勧め作品は、ルイーズ・ニーヴェルスンです。
ルイーズ・ニーヴェルスン「7508」
1975年
シルクスクリーン
70.8×85.4cm
Ed.40
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は毎月11日の更新です。
・藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は毎月22日の更新です。
・八束はじめ・彦坂裕のエッセイ「建築家のドローイング」(再録)は毎月24日の更新です。
・光嶋裕介のエッセイ「和紙に挑む」は毎月30日の更新です。
・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」と合わせお読みください。
「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
コメント