野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」 第49回

制作をしていて思うこと

制作を通して感じた事を少し書こうと思います。
箔画と名付けた技法で作家活動を始めて17年程、初めの数年はこの技法で自分に何が作れるのか、作りたいか、とにかく試行錯誤の日々、形が少し見えてきてからも迷いは多かったですが、その中でLandscapeシリーズや海や空といった代表的な題材ができました。

初期のLandscape#1初期のLandscape#1


曲線の増えていた時期のLandscape#11曲線の増えていた時期のLandscape#11


始めて波をスクラッチで描いた海空の最近「Infinite#1」始めて波をスクラッチで描いた海空の最近「Infinite#1」


そして10年経ってやっと絵の具を使うように自然に箔を使えるようになったように思います。
ずっと続けているLandscapeシリーズは徐々に構成要素が増えたり、複雑になったり曲線が増えたり、そしてまた直線的に戻ったりと少しずつ変化していて、海や空の作品は細密になりつつ、空を一色だけで埋め尽くしたりシンプルになってきている所もあります。
ただ、やはりそれ以外にも何か真新しいものを作りたいとずっと思っているのですが、そんな簡単に思い付くものではなくて、日頃の制作の中で湧く欲求が単純に形になったものが凸凹や穴ボコ、ごちゃごちゃした系統の半立体作品です。
普段平面ばかり作っていると何か半立体的なものが作りたくなるもので、楽しいのですが、木工作業がなかなかの手間で大きな作品はまだ作れていないので、重くなりそうですが一度30号以上位の大きな作品も作ってみたいと思います。

凸凹半立体作品「conflict」凸凹半立体作品「conflict」

最近のLandscape#43最近のLandscape#43


あと、日頃のメンタル面も制作には大きく影響します。
辛い時には良いものができるとよく言いますが、それは確かで、昨年夏前頃プライベートでとても辛い出来事があって、しばらく落ち込んで行きつけのバーのカウンターで飲んで号泣するような(笑)日々だったのですが、その時期はやはり良くて強い作品はいくつかできました。
いわゆるネガティブエンジンというものですね、単純に作品に感情が籠もるからだろうと思うのですが、過去にもそういう辛い時期は数回あって、わかりやすくその時期は強い作品がよくできていました。
ま、ただ強ければ良いわけでもないのですが、最近はもう穏やかな日常は取り戻して平和に制作しています。
先日友人のフォトグラファーに会い、その友人はモデルさんや芸能人を使ったコマーシャルフォトなどの仕事を本業としつつ創作として自分の写真も撮っているのですが、最近スランプだというので話を聞いてみると、
「俺、今幸せ過ぎるねん、嫁さん大好きやし、子供3人の世話も楽しくて、、若い頃は色々なコンプレックスなんかをモチベーションにしてたけど、今、幸せで自分の写真を撮る気がせんのやわ」との事でした。
なるほどなと、僕も平和で幸せな時期に良い作品はできても何か強さが足りないという事はありました。
なのでその友人には、
「自分も経験があるからよく解るけど、きっとネガティブエンジンだけが作品に強さを与える要素では無いと思うし、幸せな時やからこそ作れるものもあると思うから、お互い大切なものを守っていく為にも、どんな時でももがいて作り続けような」と伝えました。

なんだかよくわからない文章になってしまいましたが、これからも制作がんばります。

9月20日~9月29日開催のときの忘れものさんのでの個展の準備は、今カタログやDM制作を着々と進めて頂いている最中です。早いものでもう来月、皆様どうぞよろしくお願い致します。

波の表現がより細密になった「I wish」波の表現がより細密になった「I wish」
のぐち たくろう

野口琢郎 Takuro NOGUCHI(1975-)
1975年京都府生まれ。1997年京都造形芸術大学洋画科卒業。2000年長崎市にて写真家・東松照明の助手に就く。2001年京都西陣の生家に戻り、家業である箔屋野口の五代目を継ぐため修行に入る。その後も精力的に創作活動を続け、2004年の初個展以来毎年個展を開催している。
来月9月20日(木)~9月29(土)にときの忘れもので新作個展を開催します(*会期中無休)。

●今日のお勧め作品は、野口琢郎です。
おすすめnoguchi_37_ls39野口琢郎 Takuro NOGUCHI
Landscape #39
2016年
箔画(木パネル、漆、金・銀・プラチナ箔、石炭、樹脂、アクリル絵具)
91.0×65.2cm
Signed

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◆野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。