光嶋裕介のエッセイ「幻想都市風景の正体」
05-異物との遭遇
~金箔と奥行き~
人はなぜ旅に出るのだろうか?
そこに、未知なる世界が広がっていることに
胸をときめかせ、自分の知らない、
経験したことのない世界との遭遇によって
人はまったく新しい自分を発見することがある。
幻想都市風景を描いているときもまた、
この未知との遭遇に対して、
できるだけ自覚的であるように心がけている。
つまり、
世界に一枚しかない敷地としての和紙の上に
ペンを走らせながら、さまざまな素材を
融合しようと私は、常々考えている。
白と黒の深い和紙の陰影に
空と大地を感じたり、
ときに、浮遊する雲を感じたりしながら、
自然の石を描き、レンガの壁を立ち上げて、
軽やかな屋根を架けてみる。
階段や橋によって、それぞれの建築が接続し、
木造、鉄骨、コンクリートといった異質な素材の
建築群がゆっくりと統合されていく。
排除に基づいた統一感ではなく、
多様な建築が変幻自在に接続していく複雑な世界。
敬愛する建築家の吉坂隆正は、
それを「不連続統一体」と呼んだ。
一見わかりにくいものかもしれない。
がしかし、
そこには、異物をも自らの一部として
取り込むような生命体として強度が宿る。
雑多なモノがいきいきと同居した空間。
大きな自然石に鮮やかな木造建築が差し掛けられ、
鉄骨の柱に茅葺の屋根が架かったり、
隆起した砂場に豪快な石の建築が積み上げられる。
こうした文脈は、
和紙そのものからインスピレーションを受け、
描かれた対象がそれぞれに響き合った結果
奏でられるハーモニーといえる。
今年からまた新しいことに挑戦がはじまった。
それは「金箔」という新たな異物との遭遇だ。
京都在住の箔画家の野口琢郎氏とは、
共に海外アートフェアでときの忘れもの画廊より
作品を出展している作家仲間である。
彼の煌びやかな作品に私は惹かれていった。
そこで、
「コラボしませんか?」という大胆な提案に
「やりましょう!」と二つ返事をいただいた。
そもそも、金箔といえば、
「金屏風」がまず最初に脳裏に浮かぶ。
そして、
金箔という素材について考えていくと、
絵画における「奥行き」というテーマに収束する。
この圧倒的な輝きを放ち、
画面より前面に飛び出してくる金箔には、
奥行きがない。つまり、描いた対象が
あたかも金箔によって隠されている
ようにさえ感じられるのだ。
そこが、面白い。
和紙の陰影を頼りに描かれた幻想都市風景が
金箔という光り輝く新たな道標を得て
これまでとはいささか違った
化学反応が起きはじめている。
奥行きのある建築群とフラットな金箔が
立体的な世界を構築しはじめている。
こうして未知なるものとの遭遇を繰り返し、
進化していくことで、
描くという行為そのものが常にフレッシュで
発見に満ちたものとなる。
そこには、終わりはない。
だから、やっぱり、面白い。
京都の工房にて、光嶋の和紙に箔押しをする野口琢郎さん


(こうしま ゆうすけ)
■光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA(1979-)
建築家。一級建築士。1979年米国ニュージャージー州生。1987年に日本に帰国。以降、カナダ(トロント)、イギリス(マンチェスター)、東京で育ち、最終的に早稲田大学大学院修士課程建築学を2004年に卒業。同年にザウアブルッフ・ハットン・アーキテクツ(ベルリン)に就職。2008年にドイツより帰国し、光嶋裕介建築設計事務所を主宰。
神戸大学で客員准教授。早稲田大学などで非常勤講師。内田樹先生の凱風館を設計し、完成と同時に合気道入門(二段)。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの全国ツアーの舞台デザインを担当。著作に『幻想都市風景』、『みんなの家。』、『建築武者修行』、『これからの建築』など最新刊は『建築という対話』。
今秋11月8日~18日にときの忘れもので新作個展を開催します。
公式サイト:http://www.ykas.jp/
◆光嶋裕介のエッセイ「幻想都市風景の正体」は毎月13日の更新です。
●本日のお勧め作品は、光嶋裕介です。

光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA
"幻想都市風景2016-02" ※画像をクリックすると拡大します。
2016年 和紙にインク
45.0×90.0cm Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
ただし9月20日[木]―9月29日[土]開催の野口琢郎展は特別に会期中無休です。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

05-異物との遭遇
~金箔と奥行き~
人はなぜ旅に出るのだろうか?
そこに、未知なる世界が広がっていることに
胸をときめかせ、自分の知らない、
経験したことのない世界との遭遇によって
人はまったく新しい自分を発見することがある。
幻想都市風景を描いているときもまた、
この未知との遭遇に対して、
できるだけ自覚的であるように心がけている。
つまり、
世界に一枚しかない敷地としての和紙の上に
ペンを走らせながら、さまざまな素材を
融合しようと私は、常々考えている。
白と黒の深い和紙の陰影に
空と大地を感じたり、
ときに、浮遊する雲を感じたりしながら、
自然の石を描き、レンガの壁を立ち上げて、
軽やかな屋根を架けてみる。
階段や橋によって、それぞれの建築が接続し、
木造、鉄骨、コンクリートといった異質な素材の
建築群がゆっくりと統合されていく。
排除に基づいた統一感ではなく、
多様な建築が変幻自在に接続していく複雑な世界。
敬愛する建築家の吉坂隆正は、
それを「不連続統一体」と呼んだ。
一見わかりにくいものかもしれない。
がしかし、
そこには、異物をも自らの一部として
取り込むような生命体として強度が宿る。
雑多なモノがいきいきと同居した空間。
大きな自然石に鮮やかな木造建築が差し掛けられ、
鉄骨の柱に茅葺の屋根が架かったり、
隆起した砂場に豪快な石の建築が積み上げられる。
こうした文脈は、
和紙そのものからインスピレーションを受け、
描かれた対象がそれぞれに響き合った結果
奏でられるハーモニーといえる。
今年からまた新しいことに挑戦がはじまった。
それは「金箔」という新たな異物との遭遇だ。
京都在住の箔画家の野口琢郎氏とは、
共に海外アートフェアでときの忘れもの画廊より
作品を出展している作家仲間である。
彼の煌びやかな作品に私は惹かれていった。
そこで、
「コラボしませんか?」という大胆な提案に
「やりましょう!」と二つ返事をいただいた。
そもそも、金箔といえば、
「金屏風」がまず最初に脳裏に浮かぶ。
そして、
金箔という素材について考えていくと、
絵画における「奥行き」というテーマに収束する。
この圧倒的な輝きを放ち、
画面より前面に飛び出してくる金箔には、
奥行きがない。つまり、描いた対象が
あたかも金箔によって隠されている
ようにさえ感じられるのだ。
そこが、面白い。
和紙の陰影を頼りに描かれた幻想都市風景が
金箔という光り輝く新たな道標を得て
これまでとはいささか違った
化学反応が起きはじめている。
奥行きのある建築群とフラットな金箔が
立体的な世界を構築しはじめている。
こうして未知なるものとの遭遇を繰り返し、
進化していくことで、
描くという行為そのものが常にフレッシュで
発見に満ちたものとなる。
そこには、終わりはない。
だから、やっぱり、面白い。
京都の工房にて、光嶋の和紙に箔押しをする野口琢郎さん

(こうしま ゆうすけ)
■光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA(1979-)
建築家。一級建築士。1979年米国ニュージャージー州生。1987年に日本に帰国。以降、カナダ(トロント)、イギリス(マンチェスター)、東京で育ち、最終的に早稲田大学大学院修士課程建築学を2004年に卒業。同年にザウアブルッフ・ハットン・アーキテクツ(ベルリン)に就職。2008年にドイツより帰国し、光嶋裕介建築設計事務所を主宰。
神戸大学で客員准教授。早稲田大学などで非常勤講師。内田樹先生の凱風館を設計し、完成と同時に合気道入門(二段)。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの全国ツアーの舞台デザインを担当。著作に『幻想都市風景』、『みんなの家。』、『建築武者修行』、『これからの建築』など最新刊は『建築という対話』。
今秋11月8日~18日にときの忘れもので新作個展を開催します。
公式サイト:http://www.ykas.jp/
◆光嶋裕介のエッセイ「幻想都市風景の正体」は毎月13日の更新です。
●本日のお勧め作品は、光嶋裕介です。

光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA
"幻想都市風景2016-02" ※画像をクリックすると拡大します。
2016年 和紙にインク
45.0×90.0cm Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
ただし9月20日[木]―9月29日[土]開催の野口琢郎展は特別に会期中無休です。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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