飯沢耕太郎「日本の写真家たち」第10回

都市観察者の眼差し 平嶋彰彦(1946~)

飯沢耕太郎(写真評論家)


 平嶋彰彦は1946年、千葉県館山市生まれ。1969年に早稲田大学政経学部を卒業後、毎日新聞社に入社し、西部本社写真部をへて、のちに出版写真部に所属。同期に『カメラ毎日』の最後の編集長となった西井一夫、「ときの忘れもの」を主宰する綿貫不二夫がいた。早稲田時代には学生写真界の名門である早稲田大学写真部に属しており、毎日新聞社入社後も雑誌の取材現場などで腕を磨いていった。
 出版写真部時代の代表作といえる作品に『毎日グラフ』(1985年10月27日号~1986年1月26日号)に12回に分けて連載された『昭和二十年東京地図』がある。西井一夫が文章を担当し、1986年に筑摩書房から単行本化されたこの連載で、平嶋は浅草、麻布・三田・芝、目黒・品川、本郷・谷中・上野など、戦後40年を経た東京の周縁部を歩き回り、「都市の記憶」を写真で辿り直そうとした。1987年には、亀戸・木下川・小岩から東村山・立川まで、さらに東京の近郊地域に足を伸ばした『続・昭和二十年東京地図』(筑摩書房)も刊行されている。
 世田谷美術館で開催された「東京スケイプ(Tokyoscape: Into the City)」展(2018年7月21日~10月21日)にも出品されたこのシリーズをあらためて見ると、都市観察者としての平嶋の眼差しのあり方が浮かび上がってくる。写真に写っているのは、バブル経済が大きく膨張しつつあった1980年代半ばの東京とその近郊の眺めであり、戦前からの古い街並みは「開発」という名の下の「街殺し」によって軒並み取り壊され、消失しつつあった。平嶋はその光景を、ことさらに感情移入するわけではなく、広角気味のレンズで平静に距離を保って撮影していく。とりわけ彼の関心を惹きつけているのは、街のディテールであり、視覚的情報だけでなく触覚的情報を取り込んでいることで、あたかも平嶋や西井に同行して東京を彷徨っているような気分になってくる。黒白のコントラストをやや強めて、どちらかといえば闇(影)の領域に寄り添うように撮影しているのも、平嶋の写真術の特徴といえるだろう。
 平嶋は2000年代以後に写真から編集へと活動の場を移し、『宮本常一 写真・日記集成』(毎日新聞社、2004年)、『私的昭和史 桑原甲子雄写真集』(同、2013年)といった注目すべき著作を刊行した。民俗学者の宮本常一が撮影した膨大な量の写真を構成した『宮本常一 写真・日記集成』(全2巻・別巻1)は、2005年に第17回写真の会賞を受賞している。これらの著作においても、写真家として鍛え上げた、画像の細部から情報を引き出してくる細やかな観察力が活かされているのは言うまでもない。
(いいざわ・こうたろう)

ミュージアム コレクションII「東京スケイプ Into the City」出品作品のご紹介re_hirashima
平嶋彰彦
"池袋二丁目・百軒店の取り壊し"
1985年
ゼラチン・シルバー・プリント
19.0 × 29.0(cm)
≪所蔵 世田谷美術館≫

■平嶋彰彦 ひらしまあきひこ
写真家、編集者
1946年千葉県生まれ。1969年毎日新聞社に入社。『毎日グラフ』『サンデー毎日』の写真取材に携わる。のち編集に転じ『宮本常一 写真日記集成』『グレートジャーニー全記録』などを手がける。2009年退社。共著に『昭和二十年東京地図』など。

●展覧会のご案内
「東京スケイプ Into the City」
会期: 2018年7月21日(土)~10月21日(日)
開館時間: 10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日: 毎週月曜日(ただし9月17日(月・祝)、9月24日(月・振替休日)、10月8日(月・祝)は開館、9月18日(火)、9月25日(火)、10月9日(火)は休館)
会場: 世田谷美術館 2階展示室
東京という街のすがた、そこを行き交う人々がつくりだす景色。当館の写真コレクションにより、1930年代以降の東京を、時の経過とともに展望します。
出品作家は桑原甲子雄、師岡宏次、濱谷浩、高梨豊、荒木経惟、平嶋彰彦、宮本隆司、勝又公仁彦、萱原里砂 
HPには詳細がないのでチラシをご覧ください。

●飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」英文版とともに不定期連載でしたが、今回から奇数月の18日に隔月更新しますので、ご愛読ください。次回は11月18日に掲載します。
ちょうど昨日17日から銀座で飯沢さんの個展が始まりましたので、併せてご紹介します。
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「飯沢 耕太郎展」月読み
会期:2018年9月17日(月)~9月22日(土)
開館時間:12:00 - 19:00 / final day 17:00
会場:ギャラリー巷房 (〒104-0061 東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル 03-3567-8727(tel.))
巷房2・階段下にても同時開催中

飯沢さんが昨年と、今年の夏休みに集中して描いた月の絵のオンパレード。10メートルという絵巻物の大作もあります。ぜひ足をお運びください。
また絵とことばの本『月読み』(三月兎社/2500円)も同時刊行することになりました。展覧会場で購入できます。こちらもぜひお求めください。

●今日のお勧めは西井一夫(著)と平嶋彰彦(写真)による『新編「昭和二十年」東京地図』です。
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新編「昭和二十年」東京地図
西井 一夫 著 , 平嶋 彰彦 写真
シリーズ:ちくま文庫
定価:本体900円+税
刊行日: 1992/07/23
判型:文庫判
ページ数:352
昭和20年8月15日を境として分かたれた戦前と戦後。その境を越えて失われたものと残されたものとを、現在の東京のなかに訪ね歩く。

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●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
ただし9月20日[木]―9月29日[土]開催の野口琢郎展は特別に会期中無休です
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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