佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第21回

ときの忘れものでの個展「囲いこみとお節介」の構想について5


 「のんのんのんのん」は宮沢賢治の話の中で出てくる機械の音だ。オツベルは16人の百姓と6台の稲扱機械を使ってその音を鳴らし、入っている小屋を震わせている。どうやら東北の方言にもあり、いきおいよく押し寄せてくる様を表す言葉であるらしい。オツベルのそれはまるでオルゴールのようだ。ハコの中でのんのん、が鳴り響く。そこへ白い象が森からやってくる。最後には大量の黒い象が押し寄せてくる。どうやらハコの内外を巡る振動の話でもあるらしい。

 昨年頃から、何某かを嵌め込み、隠し、包み、囲うハコを制作している。共にインドへ出かけたり、東北は福島の中山間へ持ち込みもした。家具程度のスケールであるが、家の原形のようでもあり、世界を眺めるための模型でもあるかもしれない。そして、そんなハコ達が勝手きままに外へと歩き、群動し、時折こちらへ「おーい」と呼びかけてくるような、不可視の小芝居を見てみたくなった。

 芝居では町村の関係、都会と農村の間の往還方法が主題でもある。両者を二分することなく考えたいのが本意ではあるが、それぞれから向かう矢印の方向、交錯状況を自分の体の内に取りこまんとするためにあえて引き離す。どちらがどちらを取りこむのか。はたまたいかなる相補的なせめぎ合い(それを交易とも呼ぶ)を繰り広げるのか。実地としてのそれぞれのフィールドを行き来しながらも、展示というハコ=隠れミノの中に入ってじっくりと考えてみる。

2018年 佐藤研吾



今年の12月13日(木)から12月22日(土)にかけて、ギャラリー・ときの忘れもので開催する個展「囲いこみとお節介」に向けたステートメントである。ちかごろ東京と福島、そしてしばしばインドを行ったり来たりしている筆者自身の居場所の揺れ動きかたと、その遊動の中でポッ、ポーッ、ポッと制作をしているハコの造形群を中心に表現を試みる。(ポッ、ポーッ、ポッは日常生活中の制作リズムを表してみたかった。)

前回の投稿(第20回佐藤連載)で制作途中を実況したハコはひとまず組み上がった。(下写真)ハコは実は針穴写真機の構造になっていて、クリ材でできた外形300mm立方のハコに小さな針穴を空け、光を通し、ハコの中で対面の内壁に装着した250mm平方の印画紙に外の風景を写し出す、取り込む仕掛けになっている。ハコを支持する脚部はいくつかの部品に分解可能で、移動の便も良くしている。

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(Photo: comuramai)
“囲い込むためのハコ1”
“Box for Enclosure 1”
2018年
クリ、ナラ、アルミ、柿渋
H80cm

こんなハコを備えた家具スケールの造形をいくつか引き続き作っている。12月のときの忘れものでそれらが一同に会することになっている。筆者が東京と福島を往還する際には、制作途中のハコ、制作し終えたハコのいくつかを車に同乗させ、道中を共にしている。そして向かった先、滞在(制作)場所あたりで写真撮影会をゲリラ的に催したりもしている。複数のハコたちを旅中に同行させるのは、彼らには時折、被写体として写り込んでもらうからだ。あるハコが取り込もうとする風景に、別のハコがインターフェアする。都市あるいは農村の風景の中で、何かを演じてもらう。

300mm立方のハコでできた針穴写真の露光時間は晴れの日だとおよそ15分。行き交う人たち、あたりを飛ぶトリやうろつくネコたちも確実に撮影される写真の中には写り込んでいるはずであるが、露光時間が長すぎて動くモノはほとんどその像を結ばないのである。そんなうごめく周囲とともに動かないハコが、まるで術をかけられて石と化した何某かのように、写真の中に像として現れる。そして、ほぼ唯一の動かない被写体としてのハコは、都市あるいは農村の幅のある時間、気流(あるいは気配か)を取り込むための額縁=フレームとして、印画された写真の中にセットされる。

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“家に帰ってきた”
2018年
印画紙
25.0×25.0cm


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“距離を考える”
2018年
印画紙
25.0×25.0cm

そんなハコ群のそれぞれのかたちと役作りは現場の中で決まりもするが、その前後において作成しているドローイングの中で併せて検討中である。
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“横槍を入れる”
2018年
紙、鉛筆、色鉛筆
32.0×32.0cm


紙と鉛筆でモノとモノの取り合い、対峙関係を考え、木材を手でイジってハコを作り、ハコを使って撮影した写真の時折の意外な出来上がりにハッとし、また紙の上のドローイングでその驚きを描画する。そんないくつかの次元の行ったり来たりを、自分の身体の移動体験の中でとりくんでいる。
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

12月にときの忘れものでは佐藤研吾さんの初めての個展を開催します。どうぞご期待ください。

●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
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佐藤研吾 Kengo SATO
《ハコを対峙させてみる》  
2017年
紙、鉛筆、色鉛筆
54.5×32.0cm
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◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

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阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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