佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第24回

「展示が終わり、次の展開を考えるための覚書」

この原稿を書いている今は、当方の展示がようやく終了したところであるが、Webに公開されるのは来年1月で、おそらくこの展示の次なる展開のぼんやりとしたイメージが膨れているような気もしている。
いかんせん今は、訪れた人からの反応、トークイベントによるゲストとのやりとり、そして毎日この展示を眺めている自分自身の感触というものを取り込んで若干の食傷気味であり、むしろやりたいことが溢れてしまっていて整理がついていない。
毎日在廊して、展示を見に来てくれる人一人一人に、作業の有様と作ったときに考えていたことを長々と説明する。同じような説明の文言になるかと思えば、存外出てくる言葉は違ってきて、話す内容はだんだんと更新されていっているのも分かる。来てくれた人への挨拶と作品説明というだけでなく、自分自身の理解を深めて行くための得がたい時間であるらしい。

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そんな繰り返し試みる説明の中で、途中からポロっと出て来たのが、「モノのケハイ」という言葉である。
ケハイ、あるいはケという言葉についてはおそらく、折口信夫とか柳田民俗学とかでいろいろ言及されてそうだし、あるいは日本中世史、文学研究あたりでも考察が繰り出されているだろうが、なんとなく、気になる言葉として、登場した。
民俗学と建築学をどのように結びつけるのか。これは目下、自分の興味が向っている先である。ケハイというある泡沫な触覚と、もともとの物質文化への傾倒が、百鬼夜行絵巻のような妖怪の在り方あるいはそれらを生み出すヒトの想像力と、民具という物体群が持つ技術体系の可能性への注目につながっている。そんな一連の思考も、画廊で話し続けた成果の一つである。このあたりから次に展開させてみたい。

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とはいえ今、気になってしょうがないことが他にもいくつかあるので、下に列挙してみる。

・群への興味、群体、群造形への志向
・民具の技術、組み立てられ方という細部への注目
・民具が持つ技術、とその限界、という独自の体系
・百鬼夜行、付喪神絵巻から見れるモノへ向けられたヒトの想像力
・モノに気配をどう帯びさせるか。時間とは異なるアプローチとして、カタチの問題、可能性として引き受ける。
・作業の媒体を変えること。ドローイングは木工のための準備であり、紙の中でのカタチの取り合いの試行。木工は写真のための道具作りであり、立体としてのカタチの取り合いの試行。そして写真はその中でのカタチ(濃淡と幾何学)の取り合いの試行。
・次の媒体のための準備であり、それ自体が実験場でもある。複数の意図を同時に並走させると新しいカタチが出てくることがある。
・なので、写真の次にくる媒体が何か。重要。
・順番に作ること。順番に書くこと。有限なモノから生まれていくモノのカタチの連鎖
・複数の場所(この場合は複数の媒体の意味でもある)において、複数のカタチが群れをなす。群れをなすことで場所を組み立てる(これが空間である言う)。
・モノの世界をヒトの世界と同等に扱う危険性に配慮しながら、そのときのヒトモノの距離(取り合い方)を考える。そこにフェティシズムとフェミニズムが多分関わってくる。
・構築と構成を併せ持つ言葉として、とりあえず「取り合い」を使ってみることにする。

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(All photo by comuramai)

「佐藤研吾展 囲いこみとお節介」にお越しいただいた皆さま、どうもありがとうございました。
次に向けて頑張りたいと思います。


1月は、再びインド・シャンティニケタンに行ってきます。
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●本日のお勧め作品は佐藤研吾です。
sato-03佐藤研吾 Kengo SATO
《日本からシャンティニケタンへ送る家具2》
2017年
木、柿渋、アクリル
H110cm
Photo by comuramai
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