佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第28回

「ある小ぶりの机から始まる椅子作り」

 最近、興味深いプロジェクトを始めている。ある小ぶりの机を持っている方からの依頼で、その机に向かい合う新たな椅子を作ってほしいというもの。昨年末の個展「囲い込みとお節介」を見にきていただいたことがきっかけで、個展で取り組んでいた「立体を一つ一つ順々に作る」を家具のデザインにも応用できないか、というものだった。個展では、木製写真機を一体づつ作り、それぞれの造形的な取り合いや集合した際に群としてどんな形になるかをその都度探してきた。なお、来月の投稿では、そんなモノの複数性について、半ば行くところまで行って話した、劇作家・岸井大輔さんとのトークの記録を載せたいと考えている。
 机に対するのは、椅子。これは半ば広く知られたことだろう。今取り組もうとしている机の高さはおよそ60センチくらいのもので、なんとも微妙な高さである。その机の上で何を人間がするかにも依るが、いわゆる仕事机としては低いし、ティーテーブルなどのくつろぐ場所での机としては少し背が高い。持ち主は昔どこかの古道具屋、アンティークショップで見つけて来たらしく、その机の来歴、生まれ育ちは不明なのである。天板は円形の4本足で、中段を備え、足元へいくほど部材は細くなっていく。複雑な作りはしていないが、部材の断面寸法を絞り出す部分や、足と繋ぎ材の仕口付近にはアールの加工を施し無理ない荷重の伝え方の工夫をしている。制作者がその机を作るときに一体なにを考えていたのか、何者かの頭の中身を少しばかりは伺い知ることができる。

DSCN6682(対応すべき机のスケッチ)

 昨年末の個展では、立体群を筆者1人で作った。モノを作るということは、作る人と作られるモノとの相補な関係の総体であるわけだから、いくらモノの点数を重ねようとも、1人で作る限りは、何らかの有限の枠の中での営みなのであった。もちろんその有限な枠もまた広大であるし、なかなかその枠の境界までたどり着けるものでもないので、続けていかなければいけないことではある。けれども、そこに異なる他の制作者が入ってくればもちろん、創作は何らか別の形に変容して行く気もしている。さらに今回の机について言えば、「後は頼んだぞ」とその制作者は机のみを遺して何処かに去ってしまったので、遺された机というカタチに直接向き合いながら、遠い何者かに手紙を出すような気分である。

 当然のことであるが、紙の上で次なる形を考えてたり試作を作る分にはほとんど金がかからないし、誰にも迷惑をかけることもない。そうしているうちに、少しずつ浮かんでは消えての明滅するカタチがいくつか生まれてくるので、どうにかそれを記録に留めていくスベをかんがえてみたい。具体的には、試作品自体はもちろん未完とすべきものだが、ひとまずカタチに留めておくモノとして扱い、「ミカンチェアー」というような名前でもって何らかの市場(たぶんそれは極小になる)に投げ込みたい。最終形が一品生産であるから、おそらくは試作品ごとに対応する順序がまた生まれていくだろう。それはまた、試作すること自体を継続させていく工夫でもある。

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さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

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20
囲い込むためのハコ4 Box for Enclosure 4
2018年  クリ、クワ、アルミ、柿渋、藍
H.80cm  Signed
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◆ときの忘れものでは「第311回企画◆葉栗剛展 」を開催します。
会期:2019年5月24日[金]―6月8日[土]11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
葉栗展
ときの忘れものは毎年アジアやアメリカのアートフェアに出展し、木彫作家・葉栗剛の作品をメインに出品しています。今回は、2014年以来二回目となる個展を開催し、国内未公開作品11点をご覧いただきます。
初日5月24日[金]17時よりオープニングを開催します。

●『DEAR JONAS MEKAS 僕たちのすきなジョナス・メカス
会期:2019年5月11日(土)~6月13日(木)
会場:OUR FAVOURITE SHOP 内 OFS gallery
〒108-0072 東京都港区白金5-12-21 TEL.03-6677-0575
OPEN 12:00-19:00(ただし展示最終日は17:00まで)
CLOSE: 月・火(祝日を除く)

●『光嶋裕介展~光のランドスケープ
会期:2019年4月20日(土)~5月19日(日)
会場:アンフォルメル中川村美術館
[開館時間]火・木・土・日曜日 祝日 9時~16時(連休中は全日開館しています

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。
*日・月・祝日は休廊。