飯沢耕太郎「日本の写真家たち」第14回

風間健介―—「炭鉱遺産」の輝き

飯沢耕太郎(写真評論家)


 風間健介は1960年、三重県津市に生まれた。三重県亀山高等学校卒業後、1978年に上京し、ミュージシャンを専門に撮影するカメラマンになる。だが、与えられた被写体を求められるままに撮るような写真のあり方に疑問を覚え、カメラを手に全国各地を訪ね歩く放浪の旅に出た。そんな時にたまたま出会った北海道夕張の炭鉱の建造物に強く惹かれ、1987年、北海道南幌町に、89年には夕張市に移住して住みついた。
 炭鉱で栄えた夕張は、当時閉山が相次ぎ、衰退しつつあった。だが、風間は「炭鉱イコール暗い」というイメージに追随するのではなく、風化しつつある建造物や、発電所の巨大な鉄製の機械群、取り壊されていく鉱夫たちの住宅などの「炭鉱遺産」が発する、猛々しいほどのエネルギー、その生命力の輝きを写真で捉えようとした。6×7判のカメラにモノクロームのフィルムを詰め、画像のコントラストを強めるフィルターをつけて、長時間露光で撮影する。結果として風間の夕張の写真は、滅びゆくものへの哀惜の念とともに、そこに映し出された風景の独特の美しさをも定着するものとなった。
 風間は北海道東川町で開催される東川町国際写真フェスティバルで、毎年夏に野外写真展を開催し、2002年に第18回東川賞特別賞を受賞した。2005年には、それまでの写真を集成した写真集『夕張』(寿郎社)を刊行し、翌2006年に日本写真協会賞新人賞と「写真の会」賞を受賞する。写真家の大西みつぐは『夕張』に寄せた文章で、「風間の目に映る風景は、単に過ぎ去った時間やものヘの郷愁ではなく、強烈な存在感を放ち、ある時代の精神、人々の生き方をそこに痕跡として留めているという事実そのものである」と評している。この写真集の出版と受賞によって、風間の仕事は多くの写真関係者の注目を集めるようになった。
 風間は飛躍を期して、2006年に埼玉県狭山市に自宅とアトリエを建造して移転する。この頃、写真のほかにドローイングなども精力的に試みた。さらに2015年には千葉県館山市の空き家に転居し、「ギャラリー風間」をオープンさせた。だが体調が急速に悪化し、2017年6月に自宅で死去した。生前の唯一のまとまった写真集である『夕張』をあらためて見直すと、自分自身を強く触発してくれる被写体に巡りあった歓びと、それを形にしていくことの手応えを感じることができる。もし彼が、次のテーマを見つけたならば、さらに充実した作品を生み出すことができたのではないだろうか。
いいざわ こうたろう

kazama_01_yuubari-hatudensyo-1「夕張 清水沢発電所(1)」
1991年
ゼラチンシルバープリント
23.6x30.0cm
サインあり

kazama_02_yuubari-hatudensyo-2「夕張 清水沢発電所(2)」
1991年
ゼラチンシルバープリント
23.7x29.8cm
サインあり

kazama_03「夜想曲(4)」
1982年
ゼラチンシルバープリント
23.7x29.9cm
サインあり

kazama_04「夜想曲(6)」
1982年
ゼラチンシルバープリント
29.7x23.8cm
サインあり

kazama_05「夕張物語(12)」
ゼラチンシルバープリント
23.8x29.7cm
サインあり

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●飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」は英文版とともに不定期連載でしたが、奇数月の18日に隔月更新しますので、ご愛読ください。次回は7月18日に掲載します。

●飯沢耕太郎先生からお知らせです
飯沢耕太郎の写真集を読む44 「結成60周年! VIVOの写真集を再読する」
日時:5月26日 (日), 10:00 ~ 11:30
場所:写真集食堂 めぐたま, 日本、〒150-0011 東京都渋谷区東3丁目2-7

1959年、東松照明、奈良原一高、川田喜久治、細江英公、佐藤明、丹野章という1930年前後に生まれた写真家たち6人が、エスペラント語で「生命」を意味するVIVOという名前のグループを結成しました。 今年(2019年)は、まさにその60周年の記念すべき年になります。VIVOの写真家たちが日本の写真史に印した大きな足跡はいうまでもありませんが、写真集という観点から見ても彼らの活動は画期的なものです。 今回は、東松照明『〈11時02分〉NAGASAKI』、奈良原一高『ヨーロッパ・静止した時間』、『スペイン・偉大なる午後』、川田喜久治『地図』、細江英公『鎌鼬』といった写真集を読み解きながら、写真家とデザイナーとの輝かしい共同制作が開始されたVIVOの時代をふり返ります。ぜひ足をお運びください。(飯沢耕太郎)
参加費:2500円(三年番茶付き) 学生割引 1500円(三年番茶付き)
* お申し込み megutamatokyo@gmail.com
*たまにメールが届かないことがあります。3日以内に返信がない場合、お手数ですが再度メールくださいませ。

◆ときの忘れものでは「第311回企画◆葉栗剛展 」を開催します。
会期:2019年5月24日[金]―6月8日[土]11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
葉栗展
ときの忘れものは毎年アジアやアメリカのアートフェアに出展し、木彫作家・葉栗剛の作品をメインに出品しています。今回は、2014年以来二回目となる個展を開催し、国内未公開作品11点をご覧いただきます。
初日5月24日[金]17時よりオープニングを開催します。

●『DEAR JONAS MEKAS 僕たちのすきなジョナス・メカス
会期:2019年5月11日(土)~6月13日(木)
会場:OUR FAVOURITE SHOP 内 OFS gallery
〒108-0072 東京都港区白金5-12-21 TEL.03-6677-0575
OPEN 12:00-19:00(ただし展示最終日は17:00まで)
CLOSE: 月・火(祝日を除く)

●『光嶋裕介展~光のランドスケープ
会期:2019年4月20日(土)~5月19日(日)
会場:アンフォルメル中川村美術館
[開館時間]火・木・土・日曜日 祝日 9時~16時

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。
*日・月・祝日は休廊。