<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第78回
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一目見て、いいなあ、と思った。
なにがいいのかうまく言えないが、先に言葉が出てしまった。
いいと感じるときはたいがいそうである。
いいなあ、という感情が先で、理由はあとからついてくる。
改めて、なにがいいのだろうか。
ふたりは岩を背にして足を投げ出して座っている。
この座り方がまずいい。
洋式の暮らしになってから、床にぺったりお尻を付けて座ることが少なくなった。
座るなら椅子かソファーの上である。
戸外ならばなおさらあり得ない。
いや、ハイキングのときはこうやって座るかもしれない。
山頂で岩によっかかって、足を投げ出し、遠くを眺める、なんてことをしそうな気がする。
もしかしたら、そんな記憶が浮上してきて、いいなと思ったような気もする。
ふたりは民俗衣装を着ている。
裏に毛皮がついたぶかっとした上着は、膝が隠れるほど丈が長い。
長いと言えば袖も手先が中に隠れて見えないほど長い。
からだ全体が衣服に包まれている感じが動物じみている。
この格好で足を投げ出して座ると「クマのプーさん」である。
でも、われわれが山頂で足を投げ出して座ってもプーさんにはならないだろう。
アウトドアショップで買いそろえた色とりどりのアウターとシューズと帽子、
そばにはこれも色鮮やかなリュックが置かれている。
自然環境にまるで馴染まない、動物とは真逆の雰囲気を放ってしまう。
右の男は耳たぶにイヤリングが光っていて、透いた前歯を見せて笑っている。
左の男は頬は緩んでいるけれど、笑うところまでは至っていない。
からだも右の男ほど傾いておらず、足も片方しか出ていなくて、背筋が立っている。
ふたりも歩いている途中で休むことにしたのだろう。
おい、ちょっと休もうぜ、と言ったのはたぶん右のイヤリングの男だ。
うん、と左の男が言葉少なに答える。
提案したのは右の男だ、と思うのは、彼のほうが「プーさん度」が高いからである。
がんばらない。深く考えない。気立てがよくて、やることがおおざっぱ。
一緒にいても肩が凝らない相手だ、と左の男は思っている。
彼はどちらかといえばがんばるほうなのだ。
プーさんと書いたけれど、実はこの写真を見たとき先に思い浮かべたのは別のことだった。
寒山拾得である。中国唐代にいた寒山と拾得という隠者である。禅画によく描かれるので、見たことがあるかもしれない。芥川龍之介も小説に書いている。伝説の存在とも言われるが、蓬髪で、にやにやした表情で描かれることが多く、この写真を見たとき、本当にそういう人がいたのだ、と思ったのだ。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●掲載写真のクレジット、タイトル
有元伸也「TIBET 」#105, 1996 ©Shinya Arimoto
●作家紹介
有元 伸也(ありもと・しんや)
1971年大阪府生まれ。1994年ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業。1998年「西藏より肖像」にて第35回太陽賞を受賞し、翌年ビジュアルアーツより同名写真集を刊行した。2008年にTOTEM POLE PHOTO GALLERYを設立。2016年に『TOKYO CIRCULATION』を禅フォトギャラリーより刊行し、第26回林忠彦賞と2017年日本写真協会作家賞を受賞。その他の主な著作に『ariphoto selection』No.1~10 (TOTEM POLE PHOTO GALLERY)、『TIBET』(2019年、禅フォトギャラリー)がある。
●写真集のご紹介
有元伸也 『TIBET』
刊行日: 2019年4月5日
サイズ: H290 x W220mm
176頁 | モノクロ118点
ハードカバー
日本語、英語 | 6,780(税込)
1000部限定
お問い合わせ:info@zen-foto.jp, www.shashasha.co
●大竹昭子さんからのお知らせ
7月のカタリココのご案内をいたします。
ゲストは今春、東京都写真美術館で「ヒューマン・スプリング」展をおこなった志賀理江子さんです。
従来の写真展示とは大きく異なり、写真作品を貼った立方体の箱が広い会場に並べられました。
会期が終わって3カ月ほどたったいま、その写真展の体験をどのように振り返っているかを伺いたいと思います。
志賀さんはいつだって「いま、なにを、考えているの?」と聞きたい作家なのです!
予約はすでにはじまっていますので、ご参加いただく方は電話かメールでお申し込みください。
日時 7月13日(土)14時30分開場 15時00分開演
予約 電話かメール 03-3294-3300/natsume@natsume-books.com
会場 ボヘミアンズ・ギャラリー 千代田区神田神保町1-25 神保町会館3F
詳細はhttp://katarikoko.blog40.fc2.com/
●本日のお勧め作品は、植田正治です。
植田正治 Shoji UEDA
無題
1977
Type-Cプリント, 木製パネル
27.0×40.0cm
『植田正治作品集』(2016年、河出書房新社) P132参照
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
(画像をクリックすると拡大します)一目見て、いいなあ、と思った。
なにがいいのかうまく言えないが、先に言葉が出てしまった。
いいと感じるときはたいがいそうである。
いいなあ、という感情が先で、理由はあとからついてくる。
改めて、なにがいいのだろうか。
ふたりは岩を背にして足を投げ出して座っている。
この座り方がまずいい。
洋式の暮らしになってから、床にぺったりお尻を付けて座ることが少なくなった。
座るなら椅子かソファーの上である。
戸外ならばなおさらあり得ない。
いや、ハイキングのときはこうやって座るかもしれない。
山頂で岩によっかかって、足を投げ出し、遠くを眺める、なんてことをしそうな気がする。
もしかしたら、そんな記憶が浮上してきて、いいなと思ったような気もする。
ふたりは民俗衣装を着ている。
裏に毛皮がついたぶかっとした上着は、膝が隠れるほど丈が長い。
長いと言えば袖も手先が中に隠れて見えないほど長い。
からだ全体が衣服に包まれている感じが動物じみている。
この格好で足を投げ出して座ると「クマのプーさん」である。
でも、われわれが山頂で足を投げ出して座ってもプーさんにはならないだろう。
アウトドアショップで買いそろえた色とりどりのアウターとシューズと帽子、
そばにはこれも色鮮やかなリュックが置かれている。
自然環境にまるで馴染まない、動物とは真逆の雰囲気を放ってしまう。
右の男は耳たぶにイヤリングが光っていて、透いた前歯を見せて笑っている。
左の男は頬は緩んでいるけれど、笑うところまでは至っていない。
からだも右の男ほど傾いておらず、足も片方しか出ていなくて、背筋が立っている。
ふたりも歩いている途中で休むことにしたのだろう。
おい、ちょっと休もうぜ、と言ったのはたぶん右のイヤリングの男だ。
うん、と左の男が言葉少なに答える。
提案したのは右の男だ、と思うのは、彼のほうが「プーさん度」が高いからである。
がんばらない。深く考えない。気立てがよくて、やることがおおざっぱ。
一緒にいても肩が凝らない相手だ、と左の男は思っている。
彼はどちらかといえばがんばるほうなのだ。
プーさんと書いたけれど、実はこの写真を見たとき先に思い浮かべたのは別のことだった。
寒山拾得である。中国唐代にいた寒山と拾得という隠者である。禅画によく描かれるので、見たことがあるかもしれない。芥川龍之介も小説に書いている。伝説の存在とも言われるが、蓬髪で、にやにやした表情で描かれることが多く、この写真を見たとき、本当にそういう人がいたのだ、と思ったのだ。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●掲載写真のクレジット、タイトル
有元伸也「TIBET 」#105, 1996 ©Shinya Arimoto
●作家紹介
有元 伸也(ありもと・しんや)
1971年大阪府生まれ。1994年ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業。1998年「西藏より肖像」にて第35回太陽賞を受賞し、翌年ビジュアルアーツより同名写真集を刊行した。2008年にTOTEM POLE PHOTO GALLERYを設立。2016年に『TOKYO CIRCULATION』を禅フォトギャラリーより刊行し、第26回林忠彦賞と2017年日本写真協会作家賞を受賞。その他の主な著作に『ariphoto selection』No.1~10 (TOTEM POLE PHOTO GALLERY)、『TIBET』(2019年、禅フォトギャラリー)がある。
●写真集のご紹介
有元伸也 『TIBET』刊行日: 2019年4月5日
サイズ: H290 x W220mm
176頁 | モノクロ118点
ハードカバー
日本語、英語 | 6,780(税込)
1000部限定
お問い合わせ:info@zen-foto.jp, www.shashasha.co
●大竹昭子さんからのお知らせ
7月のカタリココのご案内をいたします。
ゲストは今春、東京都写真美術館で「ヒューマン・スプリング」展をおこなった志賀理江子さんです。
従来の写真展示とは大きく異なり、写真作品を貼った立方体の箱が広い会場に並べられました。
会期が終わって3カ月ほどたったいま、その写真展の体験をどのように振り返っているかを伺いたいと思います。
志賀さんはいつだって「いま、なにを、考えているの?」と聞きたい作家なのです!
予約はすでにはじまっていますので、ご参加いただく方は電話かメールでお申し込みください。
日時 7月13日(土)14時30分開場 15時00分開演
予約 電話かメール 03-3294-3300/natsume@natsume-books.com
会場 ボヘミアンズ・ギャラリー 千代田区神田神保町1-25 神保町会館3F
詳細はhttp://katarikoko.blog40.fc2.com/
●本日のお勧め作品は、植田正治です。
植田正治 Shoji UEDA無題
1977
Type-Cプリント, 木製パネル
27.0×40.0cm
『植田正治作品集』(2016年、河出書房新社) P132参照
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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