小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第26回
各所で話題になっている『文藝 夏号』。4月に発売されてから売り切れ店続出で、なんと86年ぶりの3刷だそう。雑誌の重版自体まずありえない話なのに、重版のみならず3刷。ものすごい注目度だったことがわかります。しかも、普段は見向きもされない文芸誌・・・。大事件です。
その特集は「韓国・フェミニズム・日本」。こちらも大ベストセラーになっている『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者、チョ・ナムジュや国際ブッカー賞アジア初の受賞者、ハン・ガンの作品、日本の作家も小山田浩子、高山羽根子、深緑野分、西加奈子ら文学界で活躍中の女性作家の書き下ろしが掲載され、力の入れ方が尋常じゃありません。
当店でも入荷を繰り返していますが、何度も売切れが発生しています。
今回この特集がここまで広がりを見せている背景には、昨今の「フェミニズム」への再(?)注目があるのでしょう。女性の権利(といっても当たり前のような権利)を獲得しようとしてきた道のりは、長いものがあります。今はSNSでの運動や連帯が欠かせないものとなっていますが、戦後まもなく始まった「女自身の民主化」(佐多稲子)として欠かせなかったものは、新聞でした。
戦後まもなく宮本百合子、佐多稲子、加藤シヅエらによって結成された「婦人民主クラブ」。その機関紙として、「婦民の責任編集による一般紙」として、『婦人民主新聞』が発刊されました。今回入荷したものは、その35周年を記念して作られた縮刷版です。

特徴は、団体の広報的なものに終始せず、時事的な視点もありながら女性・労働者の地位向上を訴えていることです。具体的にいくつか見ていきたいと思います。


創刊時の紙面です。
まず一面に「食糧メーデー」の話題。そして「はじめて下さい学校給食」という提言や、「食べられる野草」の紹介など、切迫感の伝わる内容です。そんな中でもスポーツ(六大学野球)の結果や佐多稲子の小説、童話・四コマ漫画など多彩な紙面にもなっています。

グッと時代は進んで1967年。テレビに対する権力の「介入」を報じる紙面です。この時代も「偏向」報道という言葉が使われ、番組規制に乗り出しています。すごいですね。いつの新聞を読んでいるのか、わからなくなる内容です。

「本ぎらいになった子供たち」この記事中に「マンガを1万円分燃やしました。」というお母さんが美談として書かれていて、恐ろしくなりました。
他にも、さすがに35年分の新聞とあって、読みごたえしかないのですが、読んでいるとキリがないので、そろそろ仕事に戻りたいと思います。
しかし、この縮刷版を読んでいると、ハイヒールを現代の纏足と書いている記事があったり、現代の問題点と同じことが繰り返し話題になっています。つまり、われわれは前進しているのか?ということ。もちろん、解決されている、もしくは確実に解決に向かっている問題もたくさんあります。が、それでもまだ不十分。こうした資料を通して、歴史を振り返る作業と、我々がその結果を共有していくことが大切だと、改めて思いました。
(おくに たかし)
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
●本日のお勧め作品はエルンスト・ハースです。
エルンスト・ハース Ernst HAAS
《Sea Foam》
ゼラチンシルバープリント
Image size: 34.4x50.7cm
Sheet size: 37.3x50.8cm
Ed. 99
裏にサイン・エディションあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
各所で話題になっている『文藝 夏号』。4月に発売されてから売り切れ店続出で、なんと86年ぶりの3刷だそう。雑誌の重版自体まずありえない話なのに、重版のみならず3刷。ものすごい注目度だったことがわかります。しかも、普段は見向きもされない文芸誌・・・。大事件です。
その特集は「韓国・フェミニズム・日本」。こちらも大ベストセラーになっている『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者、チョ・ナムジュや国際ブッカー賞アジア初の受賞者、ハン・ガンの作品、日本の作家も小山田浩子、高山羽根子、深緑野分、西加奈子ら文学界で活躍中の女性作家の書き下ろしが掲載され、力の入れ方が尋常じゃありません。
当店でも入荷を繰り返していますが、何度も売切れが発生しています。
今回この特集がここまで広がりを見せている背景には、昨今の「フェミニズム」への再(?)注目があるのでしょう。女性の権利(といっても当たり前のような権利)を獲得しようとしてきた道のりは、長いものがあります。今はSNSでの運動や連帯が欠かせないものとなっていますが、戦後まもなく始まった「女自身の民主化」(佐多稲子)として欠かせなかったものは、新聞でした。
戦後まもなく宮本百合子、佐多稲子、加藤シヅエらによって結成された「婦人民主クラブ」。その機関紙として、「婦民の責任編集による一般紙」として、『婦人民主新聞』が発刊されました。今回入荷したものは、その35周年を記念して作られた縮刷版です。

特徴は、団体の広報的なものに終始せず、時事的な視点もありながら女性・労働者の地位向上を訴えていることです。具体的にいくつか見ていきたいと思います。


創刊時の紙面です。
まず一面に「食糧メーデー」の話題。そして「はじめて下さい学校給食」という提言や、「食べられる野草」の紹介など、切迫感の伝わる内容です。そんな中でもスポーツ(六大学野球)の結果や佐多稲子の小説、童話・四コマ漫画など多彩な紙面にもなっています。

グッと時代は進んで1967年。テレビに対する権力の「介入」を報じる紙面です。この時代も「偏向」報道という言葉が使われ、番組規制に乗り出しています。すごいですね。いつの新聞を読んでいるのか、わからなくなる内容です。

「本ぎらいになった子供たち」この記事中に「マンガを1万円分燃やしました。」というお母さんが美談として書かれていて、恐ろしくなりました。
他にも、さすがに35年分の新聞とあって、読みごたえしかないのですが、読んでいるとキリがないので、そろそろ仕事に戻りたいと思います。
しかし、この縮刷版を読んでいると、ハイヒールを現代の纏足と書いている記事があったり、現代の問題点と同じことが繰り返し話題になっています。つまり、われわれは前進しているのか?ということ。もちろん、解決されている、もしくは確実に解決に向かっている問題もたくさんあります。が、それでもまだ不十分。こうした資料を通して、歴史を振り返る作業と、我々がその結果を共有していくことが大切だと、改めて思いました。
(おくに たかし)
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
●本日のお勧め作品はエルンスト・ハースです。
エルンスト・ハース Ernst HAAS《Sea Foam》
ゼラチンシルバープリント
Image size: 34.4x50.7cm
Sheet size: 37.3x50.8cm
Ed. 99
裏にサイン・エディションあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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