佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第32回
現場支給品を作ることについて
来週明けの9月10日から大玉村で始まる「荒れ地のなかスタジオ/In-Field Studio」に向けて、いくつか考えたことをポツポツとまとめている。
そのためにあれこれ、家にある買ったはいいもののあまり読み込んでいない本を引っ張り出して乱読をしている。”買ったはいいもののあまり読み込んでいない本”とは、実はその購入時の自分自身の関心や興味が反映されている。なのでそれらの本の乱読は、自分のいくばくかの思考の軌跡をたどることができる。
荒れ地のなかスタジオのウェブサイトに載せている開催告知文は、少々息が揚がった筆致で抽象的だが、ここにはいくつか自分にとって考えなければならない事柄がとりあえず詰め込まれている。
おおよそを以下に列挙すると、
・モノの本源的意味の応用、民俗学とどう建築を接続させるか
・モノを作ること=技術が向かう先を考える
(福島でやる意味、告知文で書いたように、大玉村で開催するのはこれが目標にある。)
・場所、ある領域の扱い方の工夫(コンテクスチャリズムを少し先へ進めたい。筆者が複数地を拠点として活動するのには、そんな考えがあるから。)
・現代においてある種の周縁的な世界を保つための、規模の小ささの可能性
・”ヒューマニティ”のあり方を、人間中心主義ではなく考えること
・計画と現場(即物)のあいだの展開
・小・中規模の部品生産を、計画により近い位置におくための試行
そのいくつかの事柄を考え、実践を始めるための手段としてやろうとしているのが、鋳造のトライアルである。鋳造を考えるきっかけとなったのは、第29回の投稿でも紹介した、ネパールでの鋳物工場を見学したことがある。
しかし、考えてみれば、自分にとってある意味馴染み深い技術である、高山建築学校で知った鉄筋コンクリート、大玉村の歓藍社でやっている藍染め、そして金属鋳造はどれも「型」を用いる。型を作って、そこに素材を流し込み、挟み込んで、その型と反転した形が生まれる。こうした技術が持ち得る、生産体系、特に型の中でも、一品生産、少量多品種を作り出す型の在り方、ある種、極小のプレファブリケーションに改めて興味が向かっている。
建築の話で言えば、そうした少量多品種を生み出す生産の仕組みを、自分自身が、あるいは自分にとって身近な所に持っておきたい。それは自分自身の建築への関与についての問題でもある。基本的に設計の立場で関わる自分がどのくらい建築を作る現場に近づけることができるかは、プロジェクトによってその距離感が異なる。インドでのプロジェクトなどはなおさらだ。たとえ現場に関わることが難しいプロジェクトであっても、何かを作って現場に運び、現場への支給品として納めることもできる。設計図面の納品、および現場監理という仕事とは他の形で、その建築の質なるもの一端へ関与することができる。ここで重要としたいのは、建築にいかに工作という言葉が意味する小さな技術、「ワザワザ」と読んでしまうべき技術を持ち込むことができるかということだ。
ともすれば社会の大勢とともに高度化していく生産技術によって、建築はどんどん重装備化していく。そこに、部材部材の目地のように、あるいはどこかの隙間(物理的な隙間、産業の中の隙間、設計-施工-施主というような関係主体間の隙間、ヒトとモノとの隙間)に「ワザワザ」を挟み込んでみようと思う。
以下は、そのワザワザに関する最近のドローイングである。
歓藍社の渡辺未来さんにも協力してもらいながら、東京の墨田区吾妻橋につくる「野ざらし」という喫茶店の内部を考えているところだ。福島の拠点から、藍を素材に含んだいくつかの制作物を東京の現場へ納品する予定だ。



喫茶 野ざらし:
2019年12月OPEN予定(住所:東京都墨田区吾妻橋2-11-5)
佐藤もまた運営に関わっています。(キュレーター青木彬さん、アーティスト中島晴矢さんとの共同運営。中島さんとは昨年の個展でトークイベントを開きました。そこでの都市についての共通の関心がこの喫茶店立ち上げのきっかけの一端にもなっています。)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は、佐藤研吾 です。
佐藤研吾 Kengo SATO
《囲い込むための距離》
2018年
紙、鉛筆、色鉛筆
32.0×54.5cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
現場支給品を作ることについて
来週明けの9月10日から大玉村で始まる「荒れ地のなかスタジオ/In-Field Studio」に向けて、いくつか考えたことをポツポツとまとめている。
そのためにあれこれ、家にある買ったはいいもののあまり読み込んでいない本を引っ張り出して乱読をしている。”買ったはいいもののあまり読み込んでいない本”とは、実はその購入時の自分自身の関心や興味が反映されている。なのでそれらの本の乱読は、自分のいくばくかの思考の軌跡をたどることができる。
荒れ地のなかスタジオのウェブサイトに載せている開催告知文は、少々息が揚がった筆致で抽象的だが、ここにはいくつか自分にとって考えなければならない事柄がとりあえず詰め込まれている。
おおよそを以下に列挙すると、
・モノの本源的意味の応用、民俗学とどう建築を接続させるか
・モノを作ること=技術が向かう先を考える
(福島でやる意味、告知文で書いたように、大玉村で開催するのはこれが目標にある。)
・場所、ある領域の扱い方の工夫(コンテクスチャリズムを少し先へ進めたい。筆者が複数地を拠点として活動するのには、そんな考えがあるから。)
・現代においてある種の周縁的な世界を保つための、規模の小ささの可能性
・”ヒューマニティ”のあり方を、人間中心主義ではなく考えること
・計画と現場(即物)のあいだの展開
・小・中規模の部品生産を、計画により近い位置におくための試行
そのいくつかの事柄を考え、実践を始めるための手段としてやろうとしているのが、鋳造のトライアルである。鋳造を考えるきっかけとなったのは、第29回の投稿でも紹介した、ネパールでの鋳物工場を見学したことがある。
しかし、考えてみれば、自分にとってある意味馴染み深い技術である、高山建築学校で知った鉄筋コンクリート、大玉村の歓藍社でやっている藍染め、そして金属鋳造はどれも「型」を用いる。型を作って、そこに素材を流し込み、挟み込んで、その型と反転した形が生まれる。こうした技術が持ち得る、生産体系、特に型の中でも、一品生産、少量多品種を作り出す型の在り方、ある種、極小のプレファブリケーションに改めて興味が向かっている。
建築の話で言えば、そうした少量多品種を生み出す生産の仕組みを、自分自身が、あるいは自分にとって身近な所に持っておきたい。それは自分自身の建築への関与についての問題でもある。基本的に設計の立場で関わる自分がどのくらい建築を作る現場に近づけることができるかは、プロジェクトによってその距離感が異なる。インドでのプロジェクトなどはなおさらだ。たとえ現場に関わることが難しいプロジェクトであっても、何かを作って現場に運び、現場への支給品として納めることもできる。設計図面の納品、および現場監理という仕事とは他の形で、その建築の質なるもの一端へ関与することができる。ここで重要としたいのは、建築にいかに工作という言葉が意味する小さな技術、「ワザワザ」と読んでしまうべき技術を持ち込むことができるかということだ。
ともすれば社会の大勢とともに高度化していく生産技術によって、建築はどんどん重装備化していく。そこに、部材部材の目地のように、あるいはどこかの隙間(物理的な隙間、産業の中の隙間、設計-施工-施主というような関係主体間の隙間、ヒトとモノとの隙間)に「ワザワザ」を挟み込んでみようと思う。
以下は、そのワザワザに関する最近のドローイングである。
歓藍社の渡辺未来さんにも協力してもらいながら、東京の墨田区吾妻橋につくる「野ざらし」という喫茶店の内部を考えているところだ。福島の拠点から、藍を素材に含んだいくつかの制作物を東京の現場へ納品する予定だ。



喫茶 野ざらし:
2019年12月OPEN予定(住所:東京都墨田区吾妻橋2-11-5)
佐藤もまた運営に関わっています。(キュレーター青木彬さん、アーティスト中島晴矢さんとの共同運営。中島さんとは昨年の個展でトークイベントを開きました。そこでの都市についての共通の関心がこの喫茶店立ち上げのきっかけの一端にもなっています。)
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧め作品は、佐藤研吾 です。
佐藤研吾 Kengo SATO《囲い込むための距離》
2018年
紙、鉛筆、色鉛筆
32.0×54.5cm
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●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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