佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第33回

型について、現場と設計の関係について

 9月前半、福島県大玉村で開催した「荒れ地のなかスタジオ/ In-Field Studio 2019 in Otama」は、幾日かの延長をもってひとまず終了した。
 鋳造をするための炉作りから始まったこのスタジオは、火という初源的な存在を、そのエネルギーをどのように操るかを一つ一つ試してみなければならなかった。空気の流れ、炉の口の隙間、薪とコークスの高さ関係といった諸々の所作を、耐火レンガを何度も積み直しながら試した。

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 初日に行ったイントロダクションの内容である。なぜ鋳造をやるのか?の問いから、考えていることを話した。
 人間の技術の成り立ちを考えるにあたって、金属を扱う歴史から考えてみると、大雑把に3つの段階を見いだすことができる。まず、1-掘り出された金属塊(貴金属)を叩いたり伸ばしたりして加工、造形する技術。つまり石と同じように金属を扱っていた。そして、2-ふいご(送風機)の発明によってできるようになった鋳造の技術(紀元前2-3000年にはすでにエジプトで鋳造がなされていたらしい)。この頃の粘土を用いて型をつくる真土型、砂型などの鋳造は、同じ型を何度も使うことができないので原理的に一品生産として作られていたが、原型作りなどでの量産への工夫はあったと思われる。銅、青銅の精錬や鋳造が始まったあと、鉄の使用が始まり、鍛造技術も合わさって、農具などの部品として広く流通していく。そして、次にくるのが(時代的には5000年くらいは飛ぶが)、3-大量生産を想定した近代以降の機械産業(鋳造、鍛造ともに)となる。こうした技術段階の推移は、生産可能なロット数の増大を伴った。2-の初期鋳造とよぶべき技術は、ある種の中・小規模生産型の技術と言えるだろう。
 今回の「荒れ地のなかスタジオ」ではそんな、決して大規模ではない、初期鋳造を試みた。
 そして、鋳造作業を通じて「型」を考える場になった。鋳物を作るには、金属を流し込むための器、型がいる。その型のかたちが反転して、金属が鋳込まれる。反転するかたちを想像し、どのように金属が流れ込むかを考えて、型を作る。そこに何らかの計画性、設計が必要になる。素材に向き合うことと、頭の中のイメージがそこで衝突するのだ。
 そして、型を作っても、その中身が果たしてうまく出来るかはわからない。 
スタジオが終わってからも鋳造作業を続けているが、まだまだ失敗ばかりだ。注ぎ込む湯口が小さかったり、中の空気が出て行く隙間が足らずに金属を注ぎ込む途中で爆発してしまったり、途中で固まってつまってしまったり。けれどももちろん、失敗によって、だんだんと次どうするべきかが定まってくる。失敗を重ねることで、型と中身それぞれの形が少しずつ結びつき、素材とイメージは少しずつ近づき、その距離感が定まってもくる。

2(鋳造作業)

3(鋳型作り)

4(鋳込まれた造形物群)

 素材とイメージとの拮抗関係は、建築においては、現場と設計の関係に通じるだろう。現場と設計の距離をどのように設定するか(距離をゼロにして、一体にしようとまでは言っていない)は、出来上がる建築、モノにとってもっとも重要なことだと思っている。
 そんな現場と設計の距離を設定する一つの方策として、金物という建築の部品、プレファブリケーション(既製品)の一部を、設計者をはじめとする建築を構想する者が自ら制作することを考え、そこに可能性を見てみる。
 昨今の建築における現場と設計の隔たりは、もちろん契約や保証、法規に関する問題からくるものでもあるだろうが、やはり建築を構成する部品のほぼ全てがプレファブリケーション、現場外での工場生産によってなされるようになったことがその問題を大きくしているのではないか。工場生産された部品群の現場での組み合わせはほとんどガンジがらめのルールにしたがってやらなければいけない。既製品の組み合わせの工夫自体が昨今の建築設計の内実となってしまっている状況があり、設計が選んだ既製品の組み合わせ作業が現場の仕事となっている。

5(建築部品の制作試行)

 そんな現況の中で、プレファブリケーションの一部の制作を、設計が実践することから、工業化の次なる形式に足を進めてみたいと思う。

 今月の10月18日から大阪で開催される「Under 35 Architects exhibition」に出展する。
 《「工作」、あるいは”わざわざ”と読んでみる「技術」》という題で、インドのコルカタ・シャンティニケタンでの新たな計画について展示をする予定だが、先月の「荒れ地のなかスタジオ」で試みた鋳造物のいくつかを現場に「支給品」の形で持ち込むつもりである。こんな小さな実践を続けていきたい。

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Under 35 Architects exhibition 2019
35歳以下の若手建築家による建築の展覧会(2019)
【会期】
2019年10月18日(金)~28日(月) 12:00~20:00 ※最終日は18:00閉館
【展覧会場】
大阪駅・中央北口前 うめきたシップホール(〒530-0011大阪市北区大深町4-1うめきた広場)

10月21日(月)夜18:30から、佐藤研吾によるレクチャーが同会場内で開催されます。ぜひお越しください。
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●本日のお勧め作品は、佐藤研吾 です。
sato-01佐藤研吾 Kengo SATO
《囲い込むためのハコ1》
2018年
クリ、ナラ、アルミ、柿渋
H80cm  Signed
Photo by comuramai
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