小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第28回
ノーベル文学賞が発表されました。
みなさまもニュースでご覧になったかと思いますが、昨年度はポーランドの作家オルガ・トカルチュク、今年度はオーストリアのペーター・ハントケがそれぞれ受賞。特にハントケの受賞は、ハントケのNATOのユーゴ空爆への批判とユーゴによる「虐殺」の正当化への支持という政治的発言が問題視されていただけに、受賞後も批判が噴出。かなり論争になっているノーベル文学賞となりました。
今月ご紹介したいのは、ひょっとしたら何十年後かのノーベル文学賞で名前が上がっても不思議ではない作家の新刊をご紹介したいと思います。
ジョナサン・サフラン・フォアの『ヒア・アイ・アム』という作品です。

フォアが前作『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を発表してから11年ぶりの長編小説です。
前作は、9.11で父親を失った11歳の少年の孤独と回復を、親子三世代に渡る「喪失」の物語に落とし込んだ素晴らしい物語でした。映画化もされたのでご存知の方も多いはず。
今回は、前作のようなヴィジュアルライティングの手法(これは本じゃなきゃ味わえない!)は使わず、自伝的要素も入った作品となっています。
建築家の妻と脚本家の夫。その長男はユダヤ教の成人式を目前に学校でトラブルを起こします。脚本家の父は、ヘイト発言で著名なブロガー。祖父は老人ホームに入るか自死するかで悩み、愛犬は死の間際。そこに自身の離婚問題も噴出し、まさに家族は崩壊をする寸前です。そしてさらに中東で未曾有の災害が起き、「祖国」イスラエルが崩壊していく、というフォアの面目躍如的なストーリー展開。その語り口も、視点の入れ替わりや、一見無意味な文章の挿入など、文学を読ませるたくらみ(たのしさ)に満ちています。
フォアの描く少年のリアリティは前作でも証明されていますが、今回はそこに前作を上回るストーリーテリングが加わった感じ。四世代に及ぶ圧倒的な844ページのボリュームを感じさせない一冊となっています。
問題はひとつだけ。重たいので電車ではたぶん読めません。
たまには机に座って読書をする。秋らしい趣味を楽しんでみませんか?
(おくに たかし)
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
●本日のお勧め作品は元永定正です。
元永定正 Sadamasa MOTONAGA
《ノーベル賞オマージュかわばた》
1983年
スクリーンプリント
イメージサイズ:46.0x66.0cm
シートサイズ:56.0x76.0cm
Ed.100
サインあり
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
ノーベル文学賞が発表されました。
みなさまもニュースでご覧になったかと思いますが、昨年度はポーランドの作家オルガ・トカルチュク、今年度はオーストリアのペーター・ハントケがそれぞれ受賞。特にハントケの受賞は、ハントケのNATOのユーゴ空爆への批判とユーゴによる「虐殺」の正当化への支持という政治的発言が問題視されていただけに、受賞後も批判が噴出。かなり論争になっているノーベル文学賞となりました。
今月ご紹介したいのは、ひょっとしたら何十年後かのノーベル文学賞で名前が上がっても不思議ではない作家の新刊をご紹介したいと思います。
ジョナサン・サフラン・フォアの『ヒア・アイ・アム』という作品です。

フォアが前作『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を発表してから11年ぶりの長編小説です。
前作は、9.11で父親を失った11歳の少年の孤独と回復を、親子三世代に渡る「喪失」の物語に落とし込んだ素晴らしい物語でした。映画化もされたのでご存知の方も多いはず。
今回は、前作のようなヴィジュアルライティングの手法(これは本じゃなきゃ味わえない!)は使わず、自伝的要素も入った作品となっています。
建築家の妻と脚本家の夫。その長男はユダヤ教の成人式を目前に学校でトラブルを起こします。脚本家の父は、ヘイト発言で著名なブロガー。祖父は老人ホームに入るか自死するかで悩み、愛犬は死の間際。そこに自身の離婚問題も噴出し、まさに家族は崩壊をする寸前です。そしてさらに中東で未曾有の災害が起き、「祖国」イスラエルが崩壊していく、というフォアの面目躍如的なストーリー展開。その語り口も、視点の入れ替わりや、一見無意味な文章の挿入など、文学を読ませるたくらみ(たのしさ)に満ちています。
フォアの描く少年のリアリティは前作でも証明されていますが、今回はそこに前作を上回るストーリーテリングが加わった感じ。四世代に及ぶ圧倒的な844ページのボリュームを感じさせない一冊となっています。
問題はひとつだけ。重たいので電車ではたぶん読めません。
たまには机に座って読書をする。秋らしい趣味を楽しんでみませんか?
(おくに たかし)
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
●本日のお勧め作品は元永定正です。
元永定正 Sadamasa MOTONAGA《ノーベル賞オマージュかわばた》
1983年
スクリーンプリント
イメージサイズ:46.0x66.0cm
シートサイズ:56.0x76.0cm
Ed.100
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