柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」第15回

アルマンの展覧会案内オブジェ


 前回は、アルマンの「サーディン缶」を模した展覧会案内を紹介しましたが、サインと限定ナンバーも入ったこのオブジェが、実際に、どの程度案内として使われたかは判りません。しかし、作家からファンへの破格のサービスであったことは確かでしょう。

 実はアルマン、この缶以外にも、展覧会の案内としてオブジェを作っています。その全体像は、すいません、調べることが出来ませんでした。が、少なくとも前記の缶に加えて、3種類がつくられました。と自信をもって言えるのは、私の手元にその3種類があるからです。

 まず紹介したいのは、1965年にパリでの展覧会のために作られた小さなアクリルのオブジェです。4×5×3.5㎝の塊の内部に、ギャラリー名とオープニングの日時がプリントされた透明板とともに、金属の小パーツが封じ込められています。完全な直方体ではなく、下にいくほど若干小さくなっているので、おそらく、冷蔵庫で氷をつくるための製氷皿を型としてつかったのだと思われます。内部に入っている金属パーツも、釘、ワッシャー、ボールベアリングなどと多彩で・・・多分、スタジオにあった小パーツを使ったのでしょう。この展覧会案内オブジェは、おそらくアルマンにとって最小のアキュムレーション(集積)作品になると思いますが、手元にあるもう二つは、アルマンのもう一つのスタイルである、オブジェをスライスカットする手法を使ったものです。

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 1991年9月にやはりパリで開かれた展覧会のための案内は、6㎝×9㎝、厚さ1㎝のボール紙製の小箱です。オープニングの日時などが記されたラベルが貼られた蓋をあけると、中にはブロンズ製のミニチュア・バイオリンを4つにカットしたものが、セメントに埋められています。91年には、アルマンは現代美術の大家の一人でしたから、この案内を受け取り、蓋をあけた人は、まさに「作品」が展覧会案内として送られてきたことに驚いたでしょう。

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 もう一つのスライスカットは、1995年5月にやはりパリで開かれた展覧会のものでした。こちらは、ルノーのミニカーを真っ二つにしたもので、セメントではなく、透明なアクリルに封じ込まれています。大きさは4㎝×10㎝、厚さが2㎝で、上の面に画廊と展覧会のタイトル、下の面に住所と期日がプリントしてあるので、しっかりと案内状の役割も果たしています。

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 オブジェのような案内が、これ以外にもつくられたかは判りませんが、アルマンがサービス精神旺盛なアーティストであったことは、これら4つの、まさに「作品」である、案内だけでも十分に感じていただけるでしょう。

 最後にもう一つ、小さなオブジェも紹介させて貰います。4.5×3.5㎝、厚さ1.5㎝のアキュムレーション(集積)です。このオブジェもオープンのお披露目のために用意されたものです。が、アルマンの展覧会のものではありませんでした。アクリルの中に入っているのが、LVと印刷された、鍵の形をした金色の紙であることから、想像出来るかもしれませんが、実は、ルイ・ヴィトンのために作られたものでした。
 1989年にパリ・モンテーニュ通りの、ルイ・ヴィトン本店がリニューアルオープンした際に、顧客へのプレゼントとして限定850個で制作されたものです。アルマンに加えて、ベン・ヴォティエ、セザールも同等のサイズの小さなオブジェを制作し、3作品が一緒にルイ・ヴィトンのトランクを模した段ボール箱入れられていたようですが、残念ながら、ベン、セザールの作品を目にしたことはありません。

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 今回は、靉嘔、ヨーコ・オノのオブジェのような展覧会案内についても書きたかったのですが、次号(かそれ以降)に回させていただきます。
やなぎ まさひこ

柳正彦 Masahiko YANAGI
東京都出身。大学卒業後、1981年よりニューヨーク在住。ニュー・スクール・フォー・ソシアル・リサーチ大学院修士課程終了。在学中より、美術・デザイン関係誌への執筆、展覧会企画、コーディネートを行う。1980年代中頃から、クリストとジャンヌ=クロードのスタッフとして「アンブレラ」「包まれたライヒスターク」「ゲート」「オーバー・ザ・リバー」「マスタバ」の準備、実現に深くかかわっている。また二人の日本での展覧会、講演会のコーディネート、メディア対応の窓口も勤めている。
2016年秋、水戸芸術館で開催された「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」も柳さんがスタッフとして尽力されました。

●柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」は毎月20日の更新です。

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◎昨日読まれたブログ(archive)/2015年08月07日|オノサト・トシノブのタペストリー
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