<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第84回
(画像をクリックすると拡大します)
どういう状況なのか、ちょっと想像のつかない写真である。
部屋ぜんたいが暗くて、そこのごく一部分だけに光が当たっている。
天井灯ではなさそうだ。スポットライトかもしれない。
しかもそれが当たっているソファーが、ふつうの家庭にあるようなものではない。
派手で、これみよがしで、大袈裟で、空気で膨らませてボタンで無理やり押し付けたようないやらしい膨張感を漂わせている。
こういうソファやスポットライトが似合う場所として思い浮かぶのは、
キャバレーや高級クラブである。
ケバい化粧のミニドレスの女性が、脂ぎった男と手をとりあって座る。
ふたりは身をよじって笑い、そのたびに弾力あるソファーに身をゆすられ、距離が近づく。
トランポリンにのっているような不安定さに我を忘れて興奮し、
ばか騒ぎに拍車がかかる。
もっとも、ソファーがこのような効果を発揮するのは、
人がふたり以上座っているときである。ひとりだけならまるで意味をなさないばかりか、空疎ですらある。
いまそこに座っているのは幼い少年だ。
たったひとりでしおれた花のようにくたっと腰かけている。
当然、足は床に届かず、身が軽すぎてスプリングはびくともしない。
彼はソファーの不敵で傲慢な気配を感じ取り、両足を投げ出し、クッションの縁に腕をついてかよわき身を支えている。
意志が感じられるのはその腕のラインだけで、ほかの部分は傾いた首といい、開いた股といい、頼りなく所在なげだ。
ここがどこなのか少年にはわからないし、どうしてここにいるかも理解できない。
とにかく自分がいるべき場所にいないことだけは確かで、
最初は彼もそれに苛立ち、身をよじって抵抗していただろう。このまま置き去りにされる不安に奇声を発したかもしれない。
でもその動きも次第に弱まり、いまや無反応である。彼の弾けるような生命力は後退し、その反対にソファーが闇を味方につけ弾力を帯びてきた。
まもなくそれが爆発寸前までいきそうな気配すらある。
よく見ると、少年の頬がそのクッションの膨らみと似ている。どちらもよく張っているが、頬のほうはむき出しで、無防備だ。危ないアナロジー。凝視するうちに、プスと刺してしまいそうな衝動が頭をもたげて恐くなる。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●掲載写真のタイトル
写真集 『野村佐紀子 “GO WEST”』より
●クレジット
photo by Sakiko Nomura
●作家紹介
野村佐紀子(のむら・さきこ)
写真家。1967年山口県下関生まれ。東京都在住。
1990年九州産業大学芸術学部写真学科卒業。1991年より写真家・荒木経惟に師事。1993年より国内外写真展、写真集多数。おもな写真集に「裸ノ時間」(平凡社)、「愛ノ時間」(BPM)、「黒闇」(Akio Nagasawa Publishing)、「夜間飛行」(リトルモア)、「NUDE / A ROOM / FLOWERS」(MATCH and Company)、「Flower」(リブロアルテ)、「Ango/Sakiko」(bookshop M)、「愛について」(ASAMI OKADA PUBLISHING)など。
ホームページ:http://sakikonomura.com
●写真展のお知らせ
野村佐紀子 写真展 “GO WEST”
会期:2019年12月21日(土)~2020年2月24日(月・祝)
開館時間:10時~18時(入場は17時30分まで)
休館日:月曜日(12月29日-2020年1月3日は臨時休館、2020年1月13日、2月24日[月・祝]は開館し、1月14日[火]に休館)
主催:碧南市藤井達吉現代美術館 碧南市 碧南市教育委員会
協力:NHKプラネット中部 AKIO NAGASAWA GALLERY artspace AM the amana collection/株式会社アマナ 九州産業大学美術館 写真弘社 女子美術大学 親鸞仏教センター 名古屋ビジュアルアーツ B GALLERY
観覧無料
野村佐紀子(1967- )は、人物や男性ヌードなどを撮影した、静謐な表現で知られる写真家です。漆黒のモノトーンの色彩を基調とする中、近年は夜と朝のあわいを想像させる作品や、寝室に横たわるモデルの肢体によって、死と隣り合う人の生の儚さを暗示する写真などが発表されています。野村の作品の魅力は、深度ある写真表現を通して人間と愛の本質を静かに伝える点にあるといえます。
本展のタイトル“GO WEST”は、野村の写真に導かれ、西へと旅する展覧会の構成を伝えるものです。会場では、故郷・山口を起点に、台湾、中国・ハルピン、インド、パリ、スペイン・グラナダなど、旅先で撮影された写真や、展覧会のために碧南で取材した新作を巡っていただきます。
野村の写真は、闇の奥に、言葉も音も届かない遠い世界を想像させるような特徴を持っています。眼を閉じて感覚を研ぎ澄まし、彼方の見えない光に想いを馳せること。そのような意識の中の旅が、人生を振り返るために必要になることがあります。本展の会場で野村佐紀子の写真と向き合い、今、此処にある私たちの生の実相について再考いただければ幸いです。(プレスリリースより)
●写真集発売のお知らせ(予定)
写真集 『野村佐紀子 “GO WEST”』
展覧会に合わせて野村の新作を収録した写真集が出版されます。
判型:H21.0☓14.8cm(A5サイズ)
頁数:128頁
製本:ソフトカバー、袋とじ
編集:野村佐紀子、一花義広、藤木洋介ほか
デザイン:中島浩
言語:和英
発行:2019.12/21予定
出版:リブロアルテ
定価:2,600円(税別)
※詳しくは、リブロアルテ ホームページをご覧ください。
●大竹昭子さんからのお知らせ
1月のトークイベントのお知らせ
日時:2020年1月24日(金)19:00開場/19:30開演
出演:宮里千里 (録音する人、宮里小書店店長、文筆家)、大竹昭子 (文筆家)
会場:古書ほうろう(東京都台東区池之端2-1-45-104/03-3824-3388)
料金:1,500円(+1drink)
予約・お問合せ:古書ほうろう様へ。
(大竹さんからのメッセージ)
新年最初のトークイベントは、沖縄から音の採集家・宮里千里さんをお迎えして「アッチャーアッチャーじゃらんじゃらん part 2」@古書ほうろうを行います。
テーマは「沖縄の神さま、スージグヮー(細道、路地)を行く」。
スージグヮーとは沖縄のことばで細道や路地のこと。
いまでは実施されていない宮古島狩俣のお祭り「ウヤガン」をはじめ、千里さんが長年録り溜めてきた貴重な音源を披露していただき、耳で沖縄を旅します!
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2019年03月30日|瑛九 海外への夢
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●今日のお勧め作品は、オノサト・トシノブです。
オノサト・トシノブ Toshinobu ONOSATO
《A.S.-22の原画》
1986年
キャンバスに油彩
14.0x18.0cmm
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは2019年12月29日(日)から新春2020年1月6日(月)まで冬季休廊いたします。
新年の営業は1月7日(火)からです。
◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
(画像をクリックすると拡大します)どういう状況なのか、ちょっと想像のつかない写真である。
部屋ぜんたいが暗くて、そこのごく一部分だけに光が当たっている。
天井灯ではなさそうだ。スポットライトかもしれない。
しかもそれが当たっているソファーが、ふつうの家庭にあるようなものではない。
派手で、これみよがしで、大袈裟で、空気で膨らませてボタンで無理やり押し付けたようないやらしい膨張感を漂わせている。
こういうソファやスポットライトが似合う場所として思い浮かぶのは、
キャバレーや高級クラブである。
ケバい化粧のミニドレスの女性が、脂ぎった男と手をとりあって座る。
ふたりは身をよじって笑い、そのたびに弾力あるソファーに身をゆすられ、距離が近づく。
トランポリンにのっているような不安定さに我を忘れて興奮し、
ばか騒ぎに拍車がかかる。
もっとも、ソファーがこのような効果を発揮するのは、
人がふたり以上座っているときである。ひとりだけならまるで意味をなさないばかりか、空疎ですらある。
いまそこに座っているのは幼い少年だ。
たったひとりでしおれた花のようにくたっと腰かけている。
当然、足は床に届かず、身が軽すぎてスプリングはびくともしない。
彼はソファーの不敵で傲慢な気配を感じ取り、両足を投げ出し、クッションの縁に腕をついてかよわき身を支えている。
意志が感じられるのはその腕のラインだけで、ほかの部分は傾いた首といい、開いた股といい、頼りなく所在なげだ。
ここがどこなのか少年にはわからないし、どうしてここにいるかも理解できない。
とにかく自分がいるべき場所にいないことだけは確かで、
最初は彼もそれに苛立ち、身をよじって抵抗していただろう。このまま置き去りにされる不安に奇声を発したかもしれない。
でもその動きも次第に弱まり、いまや無反応である。彼の弾けるような生命力は後退し、その反対にソファーが闇を味方につけ弾力を帯びてきた。
まもなくそれが爆発寸前までいきそうな気配すらある。
よく見ると、少年の頬がそのクッションの膨らみと似ている。どちらもよく張っているが、頬のほうはむき出しで、無防備だ。危ないアナロジー。凝視するうちに、プスと刺してしまいそうな衝動が頭をもたげて恐くなる。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●掲載写真のタイトル
写真集 『野村佐紀子 “GO WEST”』より
●クレジット
photo by Sakiko Nomura
●作家紹介
野村佐紀子(のむら・さきこ)
写真家。1967年山口県下関生まれ。東京都在住。
1990年九州産業大学芸術学部写真学科卒業。1991年より写真家・荒木経惟に師事。1993年より国内外写真展、写真集多数。おもな写真集に「裸ノ時間」(平凡社)、「愛ノ時間」(BPM)、「黒闇」(Akio Nagasawa Publishing)、「夜間飛行」(リトルモア)、「NUDE / A ROOM / FLOWERS」(MATCH and Company)、「Flower」(リブロアルテ)、「Ango/Sakiko」(bookshop M)、「愛について」(ASAMI OKADA PUBLISHING)など。
ホームページ:http://sakikonomura.com
●写真展のお知らせ
野村佐紀子 写真展 “GO WEST”会期:2019年12月21日(土)~2020年2月24日(月・祝)
開館時間:10時~18時(入場は17時30分まで)
休館日:月曜日(12月29日-2020年1月3日は臨時休館、2020年1月13日、2月24日[月・祝]は開館し、1月14日[火]に休館)
主催:碧南市藤井達吉現代美術館 碧南市 碧南市教育委員会
協力:NHKプラネット中部 AKIO NAGASAWA GALLERY artspace AM the amana collection/株式会社アマナ 九州産業大学美術館 写真弘社 女子美術大学 親鸞仏教センター 名古屋ビジュアルアーツ B GALLERY
観覧無料
野村佐紀子(1967- )は、人物や男性ヌードなどを撮影した、静謐な表現で知られる写真家です。漆黒のモノトーンの色彩を基調とする中、近年は夜と朝のあわいを想像させる作品や、寝室に横たわるモデルの肢体によって、死と隣り合う人の生の儚さを暗示する写真などが発表されています。野村の作品の魅力は、深度ある写真表現を通して人間と愛の本質を静かに伝える点にあるといえます。
本展のタイトル“GO WEST”は、野村の写真に導かれ、西へと旅する展覧会の構成を伝えるものです。会場では、故郷・山口を起点に、台湾、中国・ハルピン、インド、パリ、スペイン・グラナダなど、旅先で撮影された写真や、展覧会のために碧南で取材した新作を巡っていただきます。
野村の写真は、闇の奥に、言葉も音も届かない遠い世界を想像させるような特徴を持っています。眼を閉じて感覚を研ぎ澄まし、彼方の見えない光に想いを馳せること。そのような意識の中の旅が、人生を振り返るために必要になることがあります。本展の会場で野村佐紀子の写真と向き合い、今、此処にある私たちの生の実相について再考いただければ幸いです。(プレスリリースより)
●写真集発売のお知らせ(予定)
写真集 『野村佐紀子 “GO WEST”』
展覧会に合わせて野村の新作を収録した写真集が出版されます。
判型:H21.0☓14.8cm(A5サイズ)
頁数:128頁
製本:ソフトカバー、袋とじ
編集:野村佐紀子、一花義広、藤木洋介ほか
デザイン:中島浩
言語:和英
発行:2019.12/21予定
出版:リブロアルテ
定価:2,600円(税別)
※詳しくは、リブロアルテ ホームページをご覧ください。
●大竹昭子さんからのお知らせ
1月のトークイベントのお知らせ日時:2020年1月24日(金)19:00開場/19:30開演
出演:宮里千里 (録音する人、宮里小書店店長、文筆家)、大竹昭子 (文筆家)
会場:古書ほうろう(東京都台東区池之端2-1-45-104/03-3824-3388)
料金:1,500円(+1drink)
予約・お問合せ:古書ほうろう様へ。
(大竹さんからのメッセージ)
新年最初のトークイベントは、沖縄から音の採集家・宮里千里さんをお迎えして「アッチャーアッチャーじゃらんじゃらん part 2」@古書ほうろうを行います。
テーマは「沖縄の神さま、スージグヮー(細道、路地)を行く」。
スージグヮーとは沖縄のことばで細道や路地のこと。
いまでは実施されていない宮古島狩俣のお祭り「ウヤガン」をはじめ、千里さんが長年録り溜めてきた貴重な音源を披露していただき、耳で沖縄を旅します!
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2019年03月30日|瑛九 海外への夢
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●今日のお勧め作品は、オノサト・トシノブです。
オノサト・トシノブ Toshinobu ONOSATO《A.S.-22の原画》
1986年
キャンバスに油彩
14.0x18.0cmm
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは2019年12月29日(日)から新春2020年1月6日(月)まで冬季休廊いたします。
新年の営業は1月7日(火)からです。
◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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