小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第31回

逆説的ですが、「本が売れない」と言われている今の世の中ほど、本屋開業者にとって恵まれている時代は無いと思います。開業に役立つ本は、ここ数年で大きく増え、どれから読めばいいのか!と迷うほど。内沼晋太郎『これからの本屋読本』辻山良雄『本屋、はじめました』久禮亮太『スリップの技法』などなど。では、開業した後は?いや、開業なんて考えてないけど、本屋さんの本を売る技術を知りたい!という人々にうってつけの一冊が出ました。

小国貴司_写真1矢部潤子『本を売る技術』

著者は、芳林堂書店を皮切りに、パルコブックセンター、そしてリブロ(2000年にパルコブックセンターと合併)の現場第一線で活躍し続けた方です。そして、店主の大先輩であり、店主が最も影響を受けた書店員の一人です。

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矢部さんとは、池袋本店の最後の二年間、一緒に「仕入れ」を担当しました。矢部さんが休みもしくは遅番の時は私が、私が休みもしくは遅番の時は矢部さんが、池袋店に入ってくる新刊を全てチェックして、どの本をどの売り場で売るのか、入荷量は適正か、見落としていた新刊はすぐに追加するなどを、夏は暑く、冬は寒い荷捌き所の「最高の」環境で行なっておりました。これが、しかし、とても楽しかった。そして勉強になりました。池袋は大きな店でしたので、日本で出た本がほぼ全て入荷します。矢部さんの持っている本を見る眼はその本の発行部数をピタッと当てるほどで、この技術は私にとって憧れでした。しかし、矢部さんが本当にすごいのはそんなものでは無いのです。そんなことよりも売り場を作る技術。まさにこの本に理論化されている技術そのものです。
あれだけの選書眼を持っていたら、それだけで書店の世界で生きていけるはずなのに、そんなものはどうでもいいと本人は思っています。大事なのは、この十箇条。

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理論化できないと凡百の書店人は言う(私もよく言っています)書店の技術を、ここまで細かく理論化し、伝えている本。きっとこの本が読まれなくなった時こそ、本当に本が売れない時代がやってくるに違いありません。

※この本に載っていない矢部さんの名言は、直接店主に尋ねてくださればこっそりお教えします。
おくに たかし

■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。


●本日のお勧め作品は、福田勝治です。
fukuda_01_hikari-kaigara福田勝治 Katsuji FUKUDA
「光りの貝殻(ヌード)」
1949年
ゼラチンシルバープリント
33.3×40.2cm
サインあり
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2018年12月18日|佐藤研吾のエッセイ 「北千住BUoY –ヒトビトとモノモノが重なりある新拠点-」
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阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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