<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第89回
(画像をクリックすると拡大します)
店内のいたるところに「TOKYO1964」のポスターが貼られている。
GINZAの文字もみえる。
1964年のオリンピックを迎えようとしている銀座のデパートの入口である。
「決算後」と書いた看板が見えるから、時期は3月くらいか。
入口にはたくさんの人がいるが、正面をむいて写っているのはふたりだけだ。
ほかの人たちはたまたま入ったにすぎない。
撮りたかったのはこの若い男女だったのだ。
彼らは新婚カップルであろう。
そう想像するのはふたりの佇まいである。
女性は毛皮のコートを着ている。
フェイクかもしれないけれど、ともかく見かけの豪勢なコートに身を包み、
共布でできた帽子を頭に載せている。
男のほうは手に注目。白い手袋をしている。
帽子と手袋。
この頃の新婚旅行に欠かせないアイテムである。
ふたりはだれかと待ち合わせをしているような様子だ。
彼らだけでなく、入口の左横にいる男たちもそう。
ポケットに手を突っ込んだり、腕組みしたりして、人待ち顔に立っている。
銀座四丁目の角のデパートといえば、知らない人はいないから、
待ち合わせの場所として重宝したのだろう。
現代ならばデパートの入口にこれほどの人数が集まっていれば、
なかにひとりくらいこの店の紙袋を提げている人がいてもおかしくないが、
ひとりもいない。
ドアから出てくる初老の男性を見ると、手に風呂敷包みを抱えている。
中にはきっとこの店の包装紙に包まれた品物が入っているのだろう。
この頃、紙袋というものはまだ出回っていなかった。
品物は包装紙に包むだけで、あとは持参の風呂敷に包んで持ち帰った。
そう思って改めて見回すと、通行人の眼鏡の女性の手にも風呂敷包みが提げられている。
どの家にも風呂敷がごろごろしていた時代だった。
とはいえ、新婚カップルの手荷物には風呂敷包みは見当たらないのである。
男が提げているのは真新しそうなスーツケースで、女の方はネット状の袋だ。
もしもこのデパートで買い物をしたのなら、ネットのあいだから包装紙の包みが覗いていてもおかしくないが、見えないようだ。
やはりデパートは待ち合わせの場所として指定されたのだろう。
必ず行くからなにがあっても動かないようにと念を押され、
オリンピックに湧く都会を物珍しそうに眺めながら、
親戚の人が到着するのを待っている。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●作品情報
『GINZA TOKYO 1964』より
●作家紹介
伊藤昊(いとう・こう)
1943年大阪府生まれ。生後まもなく、両親と共に父親の実家のある宮城県涌谷町に疎開。6年生のときに、京都太秦の小学校に単身で転校。1955年に東京の明治学院中学校に入学。1961年に東京綜合写真専門学校に入学。1963年に卒業後、同校の教務部に就職。この頃に写真展を2度開催する。1968年に同校を退職し、フリーのカメラマンとなる。1978年に益子に移住し、塚本製陶所の研修生となる。1981年に築窯し陶芸家として独立。その後は晩年まで陶芸家として活動する。2015年に逝去。
2020年5月5日に写真集『GINZA TOKYO 1964』が森岡書店より刊行された。 販売は以下のサイトにて。
https://soken.moriokashoten.com/items/2dabee933141
●写真集について
『GINZA TOKYO 1964』
発売日:2020年5月11日 著:伊藤昊
企画・編集・解説:森岡督行 発行・発売:森岡書店
印刷・製本:株式会社山田写真製版所
編集・デザインディレクション:吉田知哉
プリンティングディレクション:熊倉桂三
ページ数:144ページ
仕様:B5判(横)、上製
本体価格:¥5500(税抜き)
以下のサイトにて販売しております。
https://soken.moriokashoten.com/items/2dabee933141
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2018年09月21日|島敦彦のエッセイ「静謐な輝きー野口琢郎の箔画」
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◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
(画像をクリックすると拡大します)店内のいたるところに「TOKYO1964」のポスターが貼られている。
GINZAの文字もみえる。
1964年のオリンピックを迎えようとしている銀座のデパートの入口である。
「決算後」と書いた看板が見えるから、時期は3月くらいか。
入口にはたくさんの人がいるが、正面をむいて写っているのはふたりだけだ。
ほかの人たちはたまたま入ったにすぎない。
撮りたかったのはこの若い男女だったのだ。
彼らは新婚カップルであろう。
そう想像するのはふたりの佇まいである。
女性は毛皮のコートを着ている。
フェイクかもしれないけれど、ともかく見かけの豪勢なコートに身を包み、
共布でできた帽子を頭に載せている。
男のほうは手に注目。白い手袋をしている。
帽子と手袋。
この頃の新婚旅行に欠かせないアイテムである。
ふたりはだれかと待ち合わせをしているような様子だ。
彼らだけでなく、入口の左横にいる男たちもそう。
ポケットに手を突っ込んだり、腕組みしたりして、人待ち顔に立っている。
銀座四丁目の角のデパートといえば、知らない人はいないから、
待ち合わせの場所として重宝したのだろう。
現代ならばデパートの入口にこれほどの人数が集まっていれば、
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ひとりもいない。
ドアから出てくる初老の男性を見ると、手に風呂敷包みを抱えている。
中にはきっとこの店の包装紙に包まれた品物が入っているのだろう。
この頃、紙袋というものはまだ出回っていなかった。
品物は包装紙に包むだけで、あとは持参の風呂敷に包んで持ち帰った。
そう思って改めて見回すと、通行人の眼鏡の女性の手にも風呂敷包みが提げられている。
どの家にも風呂敷がごろごろしていた時代だった。
とはいえ、新婚カップルの手荷物には風呂敷包みは見当たらないのである。
男が提げているのは真新しそうなスーツケースで、女の方はネット状の袋だ。
もしもこのデパートで買い物をしたのなら、ネットのあいだから包装紙の包みが覗いていてもおかしくないが、見えないようだ。
やはりデパートは待ち合わせの場所として指定されたのだろう。
必ず行くからなにがあっても動かないようにと念を押され、
オリンピックに湧く都会を物珍しそうに眺めながら、
親戚の人が到着するのを待っている。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●作品情報
『GINZA TOKYO 1964』より
●作家紹介
伊藤昊(いとう・こう)
1943年大阪府生まれ。生後まもなく、両親と共に父親の実家のある宮城県涌谷町に疎開。6年生のときに、京都太秦の小学校に単身で転校。1955年に東京の明治学院中学校に入学。1961年に東京綜合写真専門学校に入学。1963年に卒業後、同校の教務部に就職。この頃に写真展を2度開催する。1968年に同校を退職し、フリーのカメラマンとなる。1978年に益子に移住し、塚本製陶所の研修生となる。1981年に築窯し陶芸家として独立。その後は晩年まで陶芸家として活動する。2015年に逝去。
2020年5月5日に写真集『GINZA TOKYO 1964』が森岡書店より刊行された。 販売は以下のサイトにて。
https://soken.moriokashoten.com/items/2dabee933141
●写真集について
『GINZA TOKYO 1964』
発売日:2020年5月11日 著:伊藤昊
企画・編集・解説:森岡督行 発行・発売:森岡書店
印刷・製本:株式会社山田写真製版所
編集・デザインディレクション:吉田知哉
プリンティングディレクション:熊倉桂三
ページ数:144ページ
仕様:B5判(横)、上製
本体価格:¥5500(税抜き)
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