駒井哲郎が新井薬師にやってくる
酒航太
(撮影は松下賢太)
この度、「駒井哲郎 銅版画展」を開催することになったスタジオ35分 オーナーの酒 航太です。ヘンテコな名前で失礼します。そもそもスタジオ35分って何?という方がほとんどだと思うので、まず簡単に自己紹介させていただきます。スタジオ35分は中野区の新井薬師前にあるギャラリー&バーです。ギャラリーというと通常は昼間の営業なのですが、スタジオ35分は夜のギャラリーとして営業しています。元々は街の写真屋さんだった場所を自分たちで改装してギャラリーにしました。ギャラリーの名前は、その写真屋さんの看板に「プリントスピード仕上げ35分」と書いてあったものから、「プリントスピード仕上げ」を消した結果です。スタジオというのも、その看板の端に書いてあったものを残しました。
当初はそこでギャラリーだけをやっていましたが、隣にあったラーメン屋さんが辞めてしまったので、今度はそこの場所をバーに改装しました。元は別々の店舗だったため、壁を壊してギャラリーとバーを繋げました。かなり破茶滅茶なつくりですが、それによってギャラリーとバーが全く違う空間になっているのが気に入っています。
ギャラリー運営は初めてだったので、作品を売って生活をするなど夢のまた夢。お酒を売ってなんとか運営しようと思ったのが、バーをやろうと決めた一つの理由です。バーは昼間にやるわけにもいかず、その為に夜のギャラリーとなってしまったわけです。バーの方も全くの初心者でした。かなり無謀なノリで始めたスタジオ35分ですが、なんだかんだで6年がたちました。その間に少しずつギャラリーと酒場の運営を自己流で学びながら色んな人達に助けてもらいながら、どうにかやってきて、現在に至るわけです。


さて、そんな場所でなぜ駒井哲郎なの?という事ですが、僕が駒井作品を知ったのはそんなに前ではありません。はじめて駒井作品を見たのは、大江健三郎の本の装丁であり、たくさんの作品を同時に目にしたのは横浜美術館での「駒井哲郎 煌めく紙上の宇宙」展でした。僕は写真家としても活動していて、モノクロの写真作品を制作しているのですが、駒井さんの実物の白黒の作品を見た時に、写真表現とは全く違う自由さ、不思議さ、温度感に惹かれ、会場を行ったり来たりと何往復もし、見入ってしまいました。僕にとって駒井作品は古い作家の作品というより、むしろ新鮮な体験でした。これはなんとも言葉では言い表せないのですが、子供の頃、一人で遊んでいた時の幸福と不安が同居しているような感覚を思い出しました。この体験によって銅版画や版画に興味を持つようになり、スタジオ35分では周囲の協力もあり、一原有徳や菅野陽といった版画作家たちの展示にも繋がりました。そうなんです。僕を銅版画の世界に案内したのは駒井哲郎なのです。亡くなってから、もうすぐ半世紀たつ今も駒井哲郎の銅版画の魔力は衰えていません。僕のように駒井さんの事をあまり知らなかった人たちにも紹介する良い機会になったらと思い、この度、本展示を企画させて頂きました。


スタジオ35分を下った所に瀧口修造が住んでいました。50年代に実験工房に参加していた駒井さんはその顧問をしていた瀧口修造を訪問しにスタジオ35分の前を通り過ぎていたかもしれません。そして今また新井薬師にやってきます。
今年は駒井哲郎の生誕100年にあたります。お酒が好きっだった駒井哲郎(お酒での波瀾も多かったようですが……)の幻影に想いを馳せて、スタジオ35分で一杯飲みながら、駒井作品を鑑賞するのはいかがでしょうか。
最後に本展示に快く協力してくれた綿貫不二夫・令子夫妻、担当してくれた松下賢太さん、心より御礼申し上げます。
*もちろん、展示のみの観覧も歓迎しています。新型コロナウイルスの感染拡大の状況によっては変更もありえますので、ホームページ・SNSを確認した上でご来場ください。
ホームページ:https://35fn.com
Twitter:https://twitter.com/35minutesonly
Instagram:https://www.instagram.com/studio35minutes/
Facebook:https://www.facebook.com/studio35minutes
(さけ こうた)
■酒 航太 Kota Sake
写真家・スタジオ35分運営
1973年 東京生まれ San Francisco Art Institute卒業
●展覧会のお知らせ/夜間開催


『駒井哲郎 銅版画展』
会期:2020年 7月15日(水)~8月8日(土)17:00~22:00
定休日:日・月・火
会場:ギャラリー スタジオ35分
(〒164-0002 東京都中野区上高田5丁目47-8)
協力:ときの忘れもの
●スタジオ35分に展示されている駒井哲郎作品の一部をご紹介します。
《花》
1965 アクアチント+手彩色
12.5×9.3cm ED.100 Signed
※レゾネNo.186(美術出版社)
《恩地孝四郎頌》
※レゾネNo.309(美術出版社)
1974 アクアチント(亜鉛版)
20.7×10.0cm Ed.50 Signed
日本の四季シリーズより「影」
※レゾネNo.322(美術出版社)
1975 エッチング
25.5×23.5cm Ed.30 Signed
日本の四季シリーズより「岩礁」
※レゾネNo.289(美術出版社)
1975 エッチング
25.5×23.5cm Ed.30 Signed
◆先日開催した「生誕100年 駒井哲郎展 Part1 若き日の作家とパトロン」の動画(WEB展)をYouTubeでご覧になれます。
栗田秀法さんの特別寄稿もあわせてお読みください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
酒航太
(撮影は松下賢太)この度、「駒井哲郎 銅版画展」を開催することになったスタジオ35分 オーナーの酒 航太です。ヘンテコな名前で失礼します。そもそもスタジオ35分って何?という方がほとんどだと思うので、まず簡単に自己紹介させていただきます。スタジオ35分は中野区の新井薬師前にあるギャラリー&バーです。ギャラリーというと通常は昼間の営業なのですが、スタジオ35分は夜のギャラリーとして営業しています。元々は街の写真屋さんだった場所を自分たちで改装してギャラリーにしました。ギャラリーの名前は、その写真屋さんの看板に「プリントスピード仕上げ35分」と書いてあったものから、「プリントスピード仕上げ」を消した結果です。スタジオというのも、その看板の端に書いてあったものを残しました。
当初はそこでギャラリーだけをやっていましたが、隣にあったラーメン屋さんが辞めてしまったので、今度はそこの場所をバーに改装しました。元は別々の店舗だったため、壁を壊してギャラリーとバーを繋げました。かなり破茶滅茶なつくりですが、それによってギャラリーとバーが全く違う空間になっているのが気に入っています。
ギャラリー運営は初めてだったので、作品を売って生活をするなど夢のまた夢。お酒を売ってなんとか運営しようと思ったのが、バーをやろうと決めた一つの理由です。バーは昼間にやるわけにもいかず、その為に夜のギャラリーとなってしまったわけです。バーの方も全くの初心者でした。かなり無謀なノリで始めたスタジオ35分ですが、なんだかんだで6年がたちました。その間に少しずつギャラリーと酒場の運営を自己流で学びながら色んな人達に助けてもらいながら、どうにかやってきて、現在に至るわけです。


さて、そんな場所でなぜ駒井哲郎なの?という事ですが、僕が駒井作品を知ったのはそんなに前ではありません。はじめて駒井作品を見たのは、大江健三郎の本の装丁であり、たくさんの作品を同時に目にしたのは横浜美術館での「駒井哲郎 煌めく紙上の宇宙」展でした。僕は写真家としても活動していて、モノクロの写真作品を制作しているのですが、駒井さんの実物の白黒の作品を見た時に、写真表現とは全く違う自由さ、不思議さ、温度感に惹かれ、会場を行ったり来たりと何往復もし、見入ってしまいました。僕にとって駒井作品は古い作家の作品というより、むしろ新鮮な体験でした。これはなんとも言葉では言い表せないのですが、子供の頃、一人で遊んでいた時の幸福と不安が同居しているような感覚を思い出しました。この体験によって銅版画や版画に興味を持つようになり、スタジオ35分では周囲の協力もあり、一原有徳や菅野陽といった版画作家たちの展示にも繋がりました。そうなんです。僕を銅版画の世界に案内したのは駒井哲郎なのです。亡くなってから、もうすぐ半世紀たつ今も駒井哲郎の銅版画の魔力は衰えていません。僕のように駒井さんの事をあまり知らなかった人たちにも紹介する良い機会になったらと思い、この度、本展示を企画させて頂きました。


スタジオ35分を下った所に瀧口修造が住んでいました。50年代に実験工房に参加していた駒井さんはその顧問をしていた瀧口修造を訪問しにスタジオ35分の前を通り過ぎていたかもしれません。そして今また新井薬師にやってきます。
今年は駒井哲郎の生誕100年にあたります。お酒が好きっだった駒井哲郎(お酒での波瀾も多かったようですが……)の幻影に想いを馳せて、スタジオ35分で一杯飲みながら、駒井作品を鑑賞するのはいかがでしょうか。
最後に本展示に快く協力してくれた綿貫不二夫・令子夫妻、担当してくれた松下賢太さん、心より御礼申し上げます。
*もちろん、展示のみの観覧も歓迎しています。新型コロナウイルスの感染拡大の状況によっては変更もありえますので、ホームページ・SNSを確認した上でご来場ください。
ホームページ:https://35fn.com
Twitter:https://twitter.com/35minutesonly
Instagram:https://www.instagram.com/studio35minutes/
Facebook:https://www.facebook.com/studio35minutes
(さけ こうた)
■酒 航太 Kota Sake
写真家・スタジオ35分運営
1973年 東京生まれ San Francisco Art Institute卒業
●展覧会のお知らせ/夜間開催


『駒井哲郎 銅版画展』
会期:2020年 7月15日(水)~8月8日(土)17:00~22:00
定休日:日・月・火
会場:ギャラリー スタジオ35分
(〒164-0002 東京都中野区上高田5丁目47-8)
協力:ときの忘れもの
●スタジオ35分に展示されている駒井哲郎作品の一部をご紹介します。
《花》1965 アクアチント+手彩色
12.5×9.3cm ED.100 Signed
※レゾネNo.186(美術出版社)
《恩地孝四郎頌》※レゾネNo.309(美術出版社)
1974 アクアチント(亜鉛版)
20.7×10.0cm Ed.50 Signed
日本の四季シリーズより「影」※レゾネNo.322(美術出版社)
1975 エッチング
25.5×23.5cm Ed.30 Signed
日本の四季シリーズより「岩礁」※レゾネNo.289(美術出版社)
1975 エッチング
25.5×23.5cm Ed.30 Signed
◆先日開催した「生誕100年 駒井哲郎展 Part1 若き日の作家とパトロン」の動画(WEB展)をYouTubeでご覧になれます。
栗田秀法さんの特別寄稿もあわせてお読みください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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