スタッフSの海外ネットサーフィン No.93「Ouverture」
Bourse de Commerce Pinault Collection, Paris
読者の皆様こんにちは。長きに渡る緊急事態宣言もようやく解除された今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。緊急事態宣言は解除されど、蔓延防止等重点措置により依然として飲食店の閉店時間は変わらず、日々仕事帰りに近所の中華料理屋へ駆け込む日々が続いております、スタッフSこと新澤です。

今回ご紹介するのは、先月新しくパリにオープンした新たなる現代アートの殿堂、安藤忠雄設計「Bourse de Commerce Pinault Collection(ブルス・ドゥ・コメルス - ピノー・コレクション)」。これまで数度もの開館延期を経て、この度ようやくオープンに至った、フランスの実業家にしてアートコレクターのフランソワ・ピノーによる私設美術館です。ときの忘れものが扱っている安藤忠雄作品の中にも《ピノー美術館》というタイトルの作品がありますが、これはセーヌ川の中州、かつてルノーの自動車工場があったスガン島に同コレクションを収蔵する美術館を建てるという計画でした。このアイデアは様々な要因から白紙となってしまいましたが、あれから18年、場所をルーブル美術館からほど近い「商品取引所(Bourse de Commerce ブルス・ドゥ・コメルス)」として使われていた、5世紀に及ぶ歴史を誇る建造物に移し、引き続き安藤忠雄が内装デザインを行い完成したのが当美術館です。建物の外観と名称は昔ながらのままですが、内部は今回の美術館への改築に伴い「建築の中の建築」と呼ばれるほどに手が加えられており、円形の内部空間内に構築されたコンクリートの構造体は正に安藤忠雄の真骨頂といえるでしょう。
2018年にYouTubeの公式チャンネルで公開された、最初の公式動画。内部の設計時に制作された立体モデルや、展示スペースのサンプル画像を観ることができます。言語はフランス語ですが、日本語字幕があります。
この美術館で現在開催されている、記念すべき第一回の企画が「Ouverture」です。半世紀に渡りフランソワ・ピノーが蒐集してきた380名を超える作家による10,000点以上のコレクションの中から、32名の作家による作品が展示されています。「Ouverture」とはオペラなどでは「序曲」を意味する他、英語では「Open」を意味し、美術館のオープンを指すのはもちろんですが、展示されているピノー・コレクションが固定観念にとらわれない開けた視線を持ち、世代に関係なく多くの人々と時代の潮流や変化を共有したいという美術館設立の想いも意味しているそうです。
1階「ラ・ロトンド」のウルフ・フィッシャーによる作品『無題』(部分) Urs Fischer, Untitled, 2011 (detail) (c) Urs Fischer Courtesy Galerie Eva Presenhuber, Zurich. Photo : Stefan Altenburger Bourse de Commerce — Pinault Collection (c) Tadao Ando Architect & Associates, Niney et Marca Architectes, Agence Pierre-Antoine Gatier
今回の展覧会では10の展示スペースで200点の作品が展示されていますが、やはり一番目立つのは建物中央の「ラ・ロトンド」と呼ばれる円筒スペースの内側に設営されたスイス人作家ウルス・フィッシャーの《無題》でしょう。彫刻や椅子の形をした9つの彫刻で構成されているこの作品、一見すると本物の大理石や椅子のように見えますが、実際には芯材の入った蝋、つまり蝋燭でできています。展示場の中央に設置されているのは後期ルネサンスの彫刻家ジャン・ボローニャの《サビニの女たちの略奪》を精緻に再現した作品ですが、展覧会のオープンと同時に9点の彫刻には火が灯され、展覧会が終了する2021年12月31日には溶け切って崩壊するという、来場者に「形あるものはいつか無くなる」ということを簡潔に突き付ける作品になっています。
YouTubeの公式チャンネルでは建物の改築を定点カメラで撮影した動画や、改築に関わったスタッフのインタビュー動画(安藤先生には二つのインタビュー動画があります)の他、40分以上に及ぶ展覧会の案内動画もあります。残念ながらほぼ仏語音声で仏語字幕しかありませんが(安藤先生は日本語でインタビューを受けているので例外として)、建物や展示作品の雰囲気は楽しめますので是非ご覧になってみてください。
(しんざわ ゆう)
美術館公式サイト(英語)
●本日のお勧めは安藤忠雄です。
安藤忠雄 Tadao ANDO
《ピノー美術館》
2003年
シルクスクリーン
イメージサイズ:36.0×86.0cm
シートサイズ:65.5×90.0cm
Ed.15
サインあり
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
Bourse de Commerce Pinault Collection, Paris
読者の皆様こんにちは。長きに渡る緊急事態宣言もようやく解除された今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。緊急事態宣言は解除されど、蔓延防止等重点措置により依然として飲食店の閉店時間は変わらず、日々仕事帰りに近所の中華料理屋へ駆け込む日々が続いております、スタッフSこと新澤です。

(C) Pinault Collection
今回ご紹介するのは、先月新しくパリにオープンした新たなる現代アートの殿堂、安藤忠雄設計「Bourse de Commerce Pinault Collection(ブルス・ドゥ・コメルス - ピノー・コレクション)」。これまで数度もの開館延期を経て、この度ようやくオープンに至った、フランスの実業家にしてアートコレクターのフランソワ・ピノーによる私設美術館です。ときの忘れものが扱っている安藤忠雄作品の中にも《ピノー美術館》というタイトルの作品がありますが、これはセーヌ川の中州、かつてルノーの自動車工場があったスガン島に同コレクションを収蔵する美術館を建てるという計画でした。このアイデアは様々な要因から白紙となってしまいましたが、あれから18年、場所をルーブル美術館からほど近い「商品取引所(Bourse de Commerce ブルス・ドゥ・コメルス)」として使われていた、5世紀に及ぶ歴史を誇る建造物に移し、引き続き安藤忠雄が内装デザインを行い完成したのが当美術館です。建物の外観と名称は昔ながらのままですが、内部は今回の美術館への改築に伴い「建築の中の建築」と呼ばれるほどに手が加えられており、円形の内部空間内に構築されたコンクリートの構造体は正に安藤忠雄の真骨頂といえるでしょう。
2018年にYouTubeの公式チャンネルで公開された、最初の公式動画。内部の設計時に制作された立体モデルや、展示スペースのサンプル画像を観ることができます。言語はフランス語ですが、日本語字幕があります。
この美術館で現在開催されている、記念すべき第一回の企画が「Ouverture」です。半世紀に渡りフランソワ・ピノーが蒐集してきた380名を超える作家による10,000点以上のコレクションの中から、32名の作家による作品が展示されています。「Ouverture」とはオペラなどでは「序曲」を意味する他、英語では「Open」を意味し、美術館のオープンを指すのはもちろんですが、展示されているピノー・コレクションが固定観念にとらわれない開けた視線を持ち、世代に関係なく多くの人々と時代の潮流や変化を共有したいという美術館設立の想いも意味しているそうです。
1階「ラ・ロトンド」のウルフ・フィッシャーによる作品『無題』(部分) Urs Fischer, Untitled, 2011 (detail) (c) Urs Fischer Courtesy Galerie Eva Presenhuber, Zurich. Photo : Stefan Altenburger Bourse de Commerce — Pinault Collection (c) Tadao Ando Architect & Associates, Niney et Marca Architectes, Agence Pierre-Antoine Gatier今回の展覧会では10の展示スペースで200点の作品が展示されていますが、やはり一番目立つのは建物中央の「ラ・ロトンド」と呼ばれる円筒スペースの内側に設営されたスイス人作家ウルス・フィッシャーの《無題》でしょう。彫刻や椅子の形をした9つの彫刻で構成されているこの作品、一見すると本物の大理石や椅子のように見えますが、実際には芯材の入った蝋、つまり蝋燭でできています。展示場の中央に設置されているのは後期ルネサンスの彫刻家ジャン・ボローニャの《サビニの女たちの略奪》を精緻に再現した作品ですが、展覧会のオープンと同時に9点の彫刻には火が灯され、展覧会が終了する2021年12月31日には溶け切って崩壊するという、来場者に「形あるものはいつか無くなる」ということを簡潔に突き付ける作品になっています。
YouTubeの公式チャンネルでは建物の改築を定点カメラで撮影した動画や、改築に関わったスタッフのインタビュー動画(安藤先生には二つのインタビュー動画があります)の他、40分以上に及ぶ展覧会の案内動画もあります。残念ながらほぼ仏語音声で仏語字幕しかありませんが(安藤先生は日本語でインタビューを受けているので例外として)、建物や展示作品の雰囲気は楽しめますので是非ご覧になってみてください。
(しんざわ ゆう)
美術館公式サイト(英語)
●本日のお勧めは安藤忠雄です。
安藤忠雄 Tadao ANDO《ピノー美術館》
2003年
シルクスクリーン
イメージサイズ:36.0×86.0cm
シートサイズ:65.5×90.0cm
Ed.15
サインあり
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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