小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第49回

夏の怖い話、というわけではないですが、今回は「首」にまつわる不思議な話を持った2冊をご紹介したいと思います。
内向の世代の中心的な作家の一人で、70代・80代・90代まで現役でものを書く作家が当たり前になった現代を考えると、若くして亡くなったのが惜しまれる後藤明生の作品2冊です。

写真1

タイトルは『首塚の上のアドバルーン』と『メメント・モリ 私の食道手術体験』。
『首塚』は89年初版、氏の代表作といえる小説のうちのひとつで、『メメント』は90年の初版のエッセイです。
引っ越してきた先の「団地」(後藤明生は団地を描く作家としても有名です)から見える、小高い丘が気になる作家が、ある日そこを探検することにします。その時の様子を、遊びに来た知人に語っているうちに京都に行った時にたどり着いた新田義貞の首塚のことを思い出し、そこから、引っ越した先の首塚と太平記や平家物語などの軍記物の世界をぐるぐると回りながら不思議な小説世界を作り出していく『首塚の上のアドバルーン』。この連作短篇は、途中、一年間の休載を挟みます。何があったのか?首塚について考えている著者が、食道がんになり手術をしてしまうのです。
そう、その休載一年間の食道がん手術体験について書いたエッセイが、『メメント・モリ』というわけです。
いわば、表裏の関係にあるこの2冊を、同時に入手できました。

写真2

『首塚』は、先ほどの軍記物のほかにも、モンドリアンなどの現代アートや海外文学などへの言及も多く、またその古い首塚と開発されていく都市との対比も印象的な小説です。
内向の世代は、先ごろ亡くなった古井由吉さんや、特にその初期作品で労働と家庭生活の関係を鮮やかに描き出した黒井千次さんなど、素晴らしい作家が多いのに、あまり読まれていないかもしれません。これを機会に、ぜひ当店の日本文学コーナーにもお立ち寄りください。
おくに たかし

小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。

■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。

●本日のお勧め作品は五味太郎です。
gomit_07五味太郎 GOMI Taro
《きりん》
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:16.6×12.3cm
シートサイズ:29.0×29.0cm
サインあり
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●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
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