『倉俣史朗、没後30年』
伝説的デザイナーに近づく「倉俣史朗入門」発行
関 康子
・クラマタデザインが身近にあった
「倉俣史朗」というデザイナーをご存じだろうか?
バラの造花を封印した椅子「ミス・ブランチ」、一枚の布がふわっと立ち上がった摩訶不思議な照明器具「オバQ」などで知られる伝説的なデザイナーだ。
1980年代、私の勤務先だった六本木AXISビルはさながらインテリアデザインのショールームのようだった。倉俣さんに限っても、外苑東通りからの入り口を通るとすぐ正面に通称「クラマタ階段」があり、ビル内には「ル・ガラージュ」、「アクアクラフト」と2店舗が倉俣さんの作品で、後に「ヤマギワ・イン・スピレーション」、「スパイライル」(リニューアル)が加わった。4階のAXISギャラリーでは倉俣さんが展示デザインを手がけた展覧会や展示会が開催され、名作「ミス・ブランチ」の初お披露目もAXISギャラリーアネックスであった。
ご自身も、当時3階にあったレストランがお気に入りで時々ランチにいらしていて、AXIS誌の編集スタッフだった私たちに「やあ!」と気軽に声を掛けてくださった。そんな当たり前というか平穏な日常は、「1991年2月1日、倉俣さん急逝」の報でひっくり返ってしまった。バブル崩壊という時代性もあって、その後のインテリアデザインは大きく変貌し、倉俣さんのインテリア作品も一つずつ消えていった。AXISビルも「クラマタ階段」以外の作品は残っていない。
・『倉俣史朗入門』出版まで
没後30年。書籍『倉俣史朗入門』は、56歳で急逝した倉俣史朗さんの未だに色あせない作品と伝説となった人物像や言説を、未来にPASS the BATONすることを目標に企画・出版した。本の制作に先立って、2018年春に「クラマタプロジェクト」を立ち上げ、近藤康夫さん、五十嵐久枝さん、倉俣美恵子さん、田川欣哉さん、田村奈穂さん、田根剛さん、保坂健二朗さんに加わっていただき、勉強会、公開シンポジウムを行い、そこで交わされた会話や講演録を基に本書を編集した。
その「クラマタプロジェクト」は、2016年よりNPO建築思考プラットフォーム(PLAT)で、私が取り組んでいる「日本のデザインアーカイブ実態調査」事業の一環である。これは、「デザインアーカイブの保存と整備」という視点から、主に個人で活動しているクリエイターを対象に、作品や資料を預ける側(デザイナー自身、家族、スタッフ)と、アーカイブを預かり構築する側(美術館や大学、研究者)の双方を取材、文書化してWEBで公開。日本のデザインの足跡を知り、学ぶための情報と知識を共有することでデザインアーカイブへの意識を高めたいという気持ちがある。けれどもプロジェクトを進めるうちに、「アーカイブ」とは単に作品やスケッチ、資料といった「物」だけでよいのだろうか、物からは抜け落ちてしまう、人から人へしか伝えることのできない何かがあるのではないかと考えるようになったのだ。
「クラマタプロジェクト」は、人から人へ語り継がれる「何か」を探ろうという試みであり、『倉俣史朗入門』はこの活動のアーカイブとして書籍化という形式をとった。今までにも数多くの倉俣史朗本は出版されているが、本書は、名前は知っているけど詳しいことはわからない、戦後の日本のインテリアデザインの軌跡を知りたいという学生や若い世代の方々に読んでいただいきたい入門編だ。実際に手に取って気になる箇所には線を引き、ページに付箋を貼って、読み込んでいただければ幸いだ。
(せき やすこ)
『倉俣史朗入門』
企画/構成:関康子
発行:株式会社ADP
表紙写真:繰上和美
P185、カラー年表、全作品リスト付き
定価:1,650円(税込み)、送料250円
ときの忘れもので取り扱っています
裏
年表

本文

2018年11月東京国立近代美術館で開催されたシンポジウムの模様

関連WEB
『倉俣史朗入門』の詳細
https://npo-plat.org/book-kuramata01.html
NPO建築思考プラットフォーム(PLAT)の日本のデザインアーカイブ事業詳細
https://npo-plat.org/archive.html
■関康子 SEKI Yasuko
『AXIS』誌編集長を経てフリーランスエディター。2011年「倉俣史朗とエットレソットサス」展(21_21DESGIN SIGHT)のディレクション。2015年NPO法人建築思考プラットフォームを設立、「日本のデザインアーカイブ実態調査」を実施。主な著書『ニッポンのデザイナー100 人』『ニッポンをデザインした巨匠たち』(共著、朝日新聞社)『倉俣史朗読本』(企画構成 ADP)など。 女子美術大学非常勤講師
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●「倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier」のご案内
2020年にときの忘れものより刊行したシルクスクリーン「倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier」。
倉俣史朗先生が生前描いた300点近いスケッチの中から、植田実先生がセレクションし、倉俣美恵子夫人監修のもと、昨年『倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier』1集と2集(シルクスクリーン各10点、たとう入り)を制作・刊行しました。
シルクスクリーンの刷りは、磯崎新先生、安藤忠雄先生などの版画を手掛けた石田了一工房・石田了一さんによるものです。イメージサイズはスケッチの原寸で、スケッチブックの縦横や描かれてある位置も忠実に従い、可能な限り実物に色を近づけました。原画はほとんどが製図用のペンや色鉛筆で描かれており、細い線や淡い色を表すため、カラーは多いもので15度刷り、モノクロの作品は3~4度刷りと何版も重ねています。
倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier 1集は倉俣史朗の代表作《ミス・ブランチ(1988)》《How High the Moon(1986)》《ブルー・シャンパン(1989)》《NARA(1983)》《ヨゼフ・ホフマンへのオマージュ Vol. 2(1986)》などの椅子やテーブルをメインとし、《How High the Moon》だけでも4種類入っています。
倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier 2集は《Just in Time》や《傘立て》や、亡くなる前年に描かれたもので実現できなかった《花瓶(1990)》やISSEY MIYAKEの《香水瓶(1990)》などカラーの小物のスケッチが中心になっており、それぞれ魅力的なカイエとなっています。
今年は『倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier 3集』(シルクスクリーン10点)を刊行予定しており、来年3月には倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahierの本も刊行予定です。
カイエたとう
『倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier』2集より
153. 《フロア照明スタンド、フロア照明スタンドと花瓶》 "Floor Lamps, Floor Lamps and Flower Vases"
21.0×27.0cm
14版 13色 14度刷り
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
伝説的デザイナーに近づく「倉俣史朗入門」発行
関 康子
・クラマタデザインが身近にあった
「倉俣史朗」というデザイナーをご存じだろうか?
バラの造花を封印した椅子「ミス・ブランチ」、一枚の布がふわっと立ち上がった摩訶不思議な照明器具「オバQ」などで知られる伝説的なデザイナーだ。
1980年代、私の勤務先だった六本木AXISビルはさながらインテリアデザインのショールームのようだった。倉俣さんに限っても、外苑東通りからの入り口を通るとすぐ正面に通称「クラマタ階段」があり、ビル内には「ル・ガラージュ」、「アクアクラフト」と2店舗が倉俣さんの作品で、後に「ヤマギワ・イン・スピレーション」、「スパイライル」(リニューアル)が加わった。4階のAXISギャラリーでは倉俣さんが展示デザインを手がけた展覧会や展示会が開催され、名作「ミス・ブランチ」の初お披露目もAXISギャラリーアネックスであった。
ご自身も、当時3階にあったレストランがお気に入りで時々ランチにいらしていて、AXIS誌の編集スタッフだった私たちに「やあ!」と気軽に声を掛けてくださった。そんな当たり前というか平穏な日常は、「1991年2月1日、倉俣さん急逝」の報でひっくり返ってしまった。バブル崩壊という時代性もあって、その後のインテリアデザインは大きく変貌し、倉俣さんのインテリア作品も一つずつ消えていった。AXISビルも「クラマタ階段」以外の作品は残っていない。
・『倉俣史朗入門』出版まで
没後30年。書籍『倉俣史朗入門』は、56歳で急逝した倉俣史朗さんの未だに色あせない作品と伝説となった人物像や言説を、未来にPASS the BATONすることを目標に企画・出版した。本の制作に先立って、2018年春に「クラマタプロジェクト」を立ち上げ、近藤康夫さん、五十嵐久枝さん、倉俣美恵子さん、田川欣哉さん、田村奈穂さん、田根剛さん、保坂健二朗さんに加わっていただき、勉強会、公開シンポジウムを行い、そこで交わされた会話や講演録を基に本書を編集した。
その「クラマタプロジェクト」は、2016年よりNPO建築思考プラットフォーム(PLAT)で、私が取り組んでいる「日本のデザインアーカイブ実態調査」事業の一環である。これは、「デザインアーカイブの保存と整備」という視点から、主に個人で活動しているクリエイターを対象に、作品や資料を預ける側(デザイナー自身、家族、スタッフ)と、アーカイブを預かり構築する側(美術館や大学、研究者)の双方を取材、文書化してWEBで公開。日本のデザインの足跡を知り、学ぶための情報と知識を共有することでデザインアーカイブへの意識を高めたいという気持ちがある。けれどもプロジェクトを進めるうちに、「アーカイブ」とは単に作品やスケッチ、資料といった「物」だけでよいのだろうか、物からは抜け落ちてしまう、人から人へしか伝えることのできない何かがあるのではないかと考えるようになったのだ。
「クラマタプロジェクト」は、人から人へ語り継がれる「何か」を探ろうという試みであり、『倉俣史朗入門』はこの活動のアーカイブとして書籍化という形式をとった。今までにも数多くの倉俣史朗本は出版されているが、本書は、名前は知っているけど詳しいことはわからない、戦後の日本のインテリアデザインの軌跡を知りたいという学生や若い世代の方々に読んでいただいきたい入門編だ。実際に手に取って気になる箇所には線を引き、ページに付箋を貼って、読み込んでいただければ幸いだ。
(せき やすこ)
『倉俣史朗入門』企画/構成:関康子
発行:株式会社ADP
表紙写真:繰上和美
P185、カラー年表、全作品リスト付き
定価:1,650円(税込み)、送料250円
ときの忘れもので取り扱っています
裏年表

本文

2018年11月東京国立近代美術館で開催されたシンポジウムの模様

関連WEB
『倉俣史朗入門』の詳細
https://npo-plat.org/book-kuramata01.html
NPO建築思考プラットフォーム(PLAT)の日本のデザインアーカイブ事業詳細
https://npo-plat.org/archive.html
■関康子 SEKI Yasuko
『AXIS』誌編集長を経てフリーランスエディター。2011年「倉俣史朗とエットレソットサス」展(21_21DESGIN SIGHT)のディレクション。2015年NPO法人建築思考プラットフォームを設立、「日本のデザインアーカイブ実態調査」を実施。主な著書『ニッポンのデザイナー100 人』『ニッポンをデザインした巨匠たち』(共著、朝日新聞社)『倉俣史朗読本』(企画構成 ADP)など。 女子美術大学非常勤講師
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●「倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier」のご案内
2020年にときの忘れものより刊行したシルクスクリーン「倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier」。
倉俣史朗先生が生前描いた300点近いスケッチの中から、植田実先生がセレクションし、倉俣美恵子夫人監修のもと、昨年『倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier』1集と2集(シルクスクリーン各10点、たとう入り)を制作・刊行しました。
シルクスクリーンの刷りは、磯崎新先生、安藤忠雄先生などの版画を手掛けた石田了一工房・石田了一さんによるものです。イメージサイズはスケッチの原寸で、スケッチブックの縦横や描かれてある位置も忠実に従い、可能な限り実物に色を近づけました。原画はほとんどが製図用のペンや色鉛筆で描かれており、細い線や淡い色を表すため、カラーは多いもので15度刷り、モノクロの作品は3~4度刷りと何版も重ねています。
倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier 1集は倉俣史朗の代表作《ミス・ブランチ(1988)》《How High the Moon(1986)》《ブルー・シャンパン(1989)》《NARA(1983)》《ヨゼフ・ホフマンへのオマージュ Vol. 2(1986)》などの椅子やテーブルをメインとし、《How High the Moon》だけでも4種類入っています。
倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier 2集は《Just in Time》や《傘立て》や、亡くなる前年に描かれたもので実現できなかった《花瓶(1990)》やISSEY MIYAKEの《香水瓶(1990)》などカラーの小物のスケッチが中心になっており、それぞれ魅力的なカイエとなっています。
今年は『倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier 3集』(シルクスクリーン10点)を刊行予定しており、来年3月には倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahierの本も刊行予定です。
カイエたとう
『倉俣史朗 Shiro Kuramata Cahier』2集より153. 《フロア照明スタンド、フロア照明スタンドと花瓶》 "Floor Lamps, Floor Lamps and Flower Vases"
21.0×27.0cm
14版 13色 14度刷り
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