<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第106回

Demo031_2110(画像をクリックすると拡大します)
手前の黒いヘルメットは機動隊、その後ろの白ヘルは全学連。
学生の群がるあたりには倉庫のような建物があり、
その背後にはアパートが建っている。
ベランダには洗濯物がはためき、身を乗り出すようにして眺めている人がいる。
アパートのところは土地が少し高く、そこからさらに上へ段々状に上がっていく。
つまりこの衝突の現場がいちばん低く、お鉢の底のようになっている。
全学連の行動を鎮圧に来た機動隊が、逆に彼らに取り囲まれているように見えるのは、
この地形のせいもあるかもしれない。

機動隊の動きにはあまり緊迫感がなく、
歩いていたり、おしゃべりしている人もいる。
どことなくお仕事モードの雰囲気である。
それに比べて学生のほうは角材を振り上げて、
さあこい!と意気込んでいる。
そのプリミティブな構えが百姓一揆を連想させる。
都市の街路が舞台ならばこんな感じは受けないはずで、
周囲に漂う生活感(アパート、住宅、見物人、洗濯物など)が関係しているようだ。

画面左の中ほどに眼鏡をかけた男性がいる。
この人だけが周囲から浮いている
他の人のようにジャンパーではなく丈の長いコートを着ており、
風貌も学校の先生ふうだ。
しかも肩にテープデッキのようなものをさげて、右手でそれを操作している。
左手にはマイクを掲げ持っているらしく、マイクの先端がちらっと見える。

録音機だから録れるのは音だけである。
再生しても物と物がぶつかり合う音とか、エイ!とかワーとか、
言葉にならない声が入っているだけで、絵はないのである。
彼は音だけで乱闘を記録しようと試みているのだろうか?
それともマイクにむかってこの場を実況中継しているのだろうか?

乱闘の最中にあって、彼だけが異次元にいるような冷静さを漂わせている。
左下には腕章を巻いた報道陣らしき人物が見えるので、
彼もその一員かもしれないが、まとっている雰囲気がちょっと違う。
音を録ることに集中するあまり、その身がこの場から引きはがされて、
別の意識状態に置かれているかのようだ。
この何も恐れるものはないような大胆さがどこから出ているのか、それが謎である。
大竹昭子(おおたけあきこ)

●作品情報
北井一夫 著『過激派の時代』(平凡社)より

●作家紹介
北井一夫 Kazuo KITAI
1944年中国鞍山生まれ 1965年日本大学芸術学部写真学科中退、写真集『抵抗』(未来社)を出版。 成田空港建設に反対する農民を撮った『三里塚』(のら社)で日本写真協会新人賞受賞(1972年)。『アサヒカメラ』に連載した「村へ」で第1回木村伊兵衛賞受賞(1976年)。
写真集に『境川の人々』(浦安町・1978年)、『新世界物語』(現代書館・1981年)、『フナバシストーリー』(六興出版・1989年)、『1970年代 NIPPON』(冬青社・2001年)、『1990年代 北京』(冬青社・2004年)など。

●写真集のお知らせ
9784582278330『過激派の時代』
著者:北井一夫
出版年月:2020年10月
判型・ページ数:A5 224ページ
刊行:平凡社
定価3,520円(本体3,200円+税)

1964-68年に過激派の学生運動を撮り続けた写真を北井自らがセレクトした集大成的な写真集。高精度デジタルリマスター版。

●トークショーのお知らせ
2021年11月20日(土)~26日(金)まで、ユーロスペースで映画『きみが死んだあとで』のアンコール上映が決まりました。11月22日(月)には監督の代島治彦さんと北井一夫さんがトークを行います。
ご興味のある方はぜひご参加くださいませ。
会場=東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F(ユーロライブ)/3F(ユーロスペース)/4F(事務所)

●本日のお勧めは菅井汲です。
29d01a22菅井汲 Kumi SUGAI
《赤い太陽》
1976年
マルチプル
(アクリル+シルクスクリーン)
(刷り:石田了一)
10.0×7.0×2.0cm
Ed.150
ケースに作家自筆サインあり
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●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
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