<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第108回
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四人の人間がそれぞれが違う格好をしているのが目を引く。
中央にいる三人の女性たちは垂直に並んでいる。
人が複数いれば横並びになるのがふつうだから、この光景は珍しい。
四人目は河岸を歩いている小さな男の子で、
彼は周りのことがよく見えており、撮影者の存在にも気がついている。
眉を八の字にしてやや不安そうな表情。
彼が前を通ってきた板塀には落書きが見える。
星の形、判読できない女編の漢字、何かの文字を消した跡……。
三人の女性のうち、いちばん下の人は水辺で靴を洗っているらしい。
石段の上にもう片方が置かれている。
彼女は幅の狭いステップの上と下に足をのせて踏ん張り、
背中をかがめてゴシゴシとやっている。
彼女の後ろには別の女性が背中を向けて立っていて、
彼女も何かを洗っているが、
幾何学模様のシャツを着ていて、その模様が石積の切石のラインと呼応し、
なんだかリズミカルで威勢がいい様子。
彼女の右足は一段飛ばした上のステップにかけられていて、
膝がくの字に曲がっていることも、その威勢のよさと関係ありそうだ。
パッと見ると、下の女性を踏みつけているように見える。
下の女性が身を屈めているので余計にそう見える。
三人目の女性は河岸の上に立っていて、
腕まくりした手を柱につき、もう一方を腰に当てている。
偉そうな態度。現場監督のようだ。
三人が三つの階級の代弁者のように見えてくる。
踏みつけにされる下層階級、踏みつけながらも働かされている中産階級、
何もせず指示だけする上層階級。
そうした支配関係を象徴するように柱が上に伸びている。
でもよく見ればこの柱はだいぶ老朽化が進んでいないか。
真ん中で割れていて、丈の短くなった一方の下を石の台座が支えている。
柱の上には庇があり、その庇が重みとなって固定されているのだろうが、
なんだか危うい感じがする。
その安定感が、ごく小さな空間を共有し合っている三人の関係にも影響しているかのようだ。
たとえば、現場監督の左手が柱から滑って前のめりに落下したとする。
彼女の体は背中を向けている二番目の女性にかぶさり、
その衝撃で女性の体は後ろにのけぞり、靴を洗っている三番目の女性にぶつかる。
ゴシゴシ洗っている彼女は、なにがなんだかわからないまま、水の中に転げ落ちる……。
少し遅れて上の二人も落下し、三つの階級は共倒れとなる。
そのとき、わーっという悲鳴があがる。
歩いている少年の耳がその声をとらえる。
だが、もう次の角を曲がってしまっていて、階級崩壊の現場は見ることができない。
彼は首を傾げつつも、腕に挟んだものを落とさないようにしながらひたすら先を急いでいる。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●作品情報
タイトル:<長江六千三百公里をゆく>より浙江、紹興
制作:2001年撮影(2021年プリント)
タイプ:ゼラチンシルバープリント
サイズ:27.9×35.6㎝
●作家紹介
竹田武史(たけだ・たけし)
1974年京都生まれ。東京在住。同志社大学神学部卒業。大学在学中に一年間休学し、一眼レフカメラと共にオーストラリア大陸を放浪一周する。帰国後は写真家のアシスタントを務める傍ら、1997年から5年間、日中共同研究プロジェクト「長江文明の探求」(国際日本文化研究センター主催)の記録カメラマンとして中国各地に取材を行う。2001年にフリーランスの写真家として活動開始。雑誌、広告、ブライダル等を中心に活動を行う一方で、ライフワークとして中国、アジアへの旅を続ける。とりわけ日本文化のルーツとされる中国西南地域を広く踏査し、急速な経済発展により失われていく生活風景を記録し続けている。日本写真家協会(JPS)正会員、華光撮影学院客員教授。
受賞
2010 コニカミノルタFOTO PREMIO大賞
2014 京都府文化賞(奨励賞)
2019 中国華光撮影双年展 優秀写真家
著書
2004 『長江文明の探究』(梅原猛・安田喜憲共著) 新思索社
2005 『大長江~アジアの原風景を求めて』 光村推古書院
2010 『茶馬古道の旅~中国のティーロードを訪ねて』 淡交社
2013 『シッダールタの旅』(ヘルマンヘッセ原作)新潮社
2015 『桃源郷の記~中国バーシャ村の人々との10年』 新潮社
写真作品集
2021 『長江六千三百公里をゆく』 冬青社
個展
1996 『aa!』 ギャラリーマロニエ (京都)
1998 『自然光』法然院(京都)
2006 『大長江~悠久の大河6300キロの旅』銀座ニコンサロン(東京)
『大長江~アジアの原風景を求めて』京都文化博物館(京都)
『大長江~アジアの原風景を求めて』阪神百貨店美術画廊(大阪)
2009 『茶馬古道をゆく』バロック喫茶・平均律(東京)
2010 『茶馬古道をゆく』コニカミノルタプラザ(東京)
『茶馬古道~中国のティーロードを訪ねて』中国茶館・無茶空茶(大阪)
『茶馬古道をゆく』ギャラリー古都(京都)
『茶馬古道をゆく』グランシップ(静岡)
『茶馬古道をゆく』和歌山県国際交流センター(和歌山)
2014 『ヘルマンヘッセに捧ぐ~シッダールタの旅』京都文化博物館(京都)
『ヘルマンヘッセに捧ぐ~シッダールタの旅』コニカミノルタプラザ(東京)
2017 『バーシャ村の一年』コニカミノルタプラザ(東京)
『バーシャ村の一年』ギャラリー古都(京都)
『バーシャ村の一年』同志社中高同窓会大懇親会特別展示 ウェスティン都ホテル京都(京都)
2022 『長江六千三百公里をゆく~vol1.原風景』 ギャラリー冬青
●写真集のお知らせ
写真作品集『長江六千三百公里をゆく』
刊行:冬青社
サイズ:27cm×24cm
頁数:159ページ
発行年:2021
言語:英語、日本語
定価税込:4,950円
●本日のお勧めは大竹昭子です。
大竹昭子 Akiko OTAKE
《ヴェネツィア/渡し舟トラゲット》
2001年撮影(2002年プリント)
Type-Cプリント
35.5×43.0cm
Ed.1
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
JR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
(画像をクリックすると拡大します)四人の人間がそれぞれが違う格好をしているのが目を引く。
中央にいる三人の女性たちは垂直に並んでいる。
人が複数いれば横並びになるのがふつうだから、この光景は珍しい。
四人目は河岸を歩いている小さな男の子で、
彼は周りのことがよく見えており、撮影者の存在にも気がついている。
眉を八の字にしてやや不安そうな表情。
彼が前を通ってきた板塀には落書きが見える。
星の形、判読できない女編の漢字、何かの文字を消した跡……。
三人の女性のうち、いちばん下の人は水辺で靴を洗っているらしい。
石段の上にもう片方が置かれている。
彼女は幅の狭いステップの上と下に足をのせて踏ん張り、
背中をかがめてゴシゴシとやっている。
彼女の後ろには別の女性が背中を向けて立っていて、
彼女も何かを洗っているが、
幾何学模様のシャツを着ていて、その模様が石積の切石のラインと呼応し、
なんだかリズミカルで威勢がいい様子。
彼女の右足は一段飛ばした上のステップにかけられていて、
膝がくの字に曲がっていることも、その威勢のよさと関係ありそうだ。
パッと見ると、下の女性を踏みつけているように見える。
下の女性が身を屈めているので余計にそう見える。
三人目の女性は河岸の上に立っていて、
腕まくりした手を柱につき、もう一方を腰に当てている。
偉そうな態度。現場監督のようだ。
三人が三つの階級の代弁者のように見えてくる。
踏みつけにされる下層階級、踏みつけながらも働かされている中産階級、
何もせず指示だけする上層階級。
そうした支配関係を象徴するように柱が上に伸びている。
でもよく見ればこの柱はだいぶ老朽化が進んでいないか。
真ん中で割れていて、丈の短くなった一方の下を石の台座が支えている。
柱の上には庇があり、その庇が重みとなって固定されているのだろうが、
なんだか危うい感じがする。
その安定感が、ごく小さな空間を共有し合っている三人の関係にも影響しているかのようだ。
たとえば、現場監督の左手が柱から滑って前のめりに落下したとする。
彼女の体は背中を向けている二番目の女性にかぶさり、
その衝撃で女性の体は後ろにのけぞり、靴を洗っている三番目の女性にぶつかる。
ゴシゴシ洗っている彼女は、なにがなんだかわからないまま、水の中に転げ落ちる……。
少し遅れて上の二人も落下し、三つの階級は共倒れとなる。
そのとき、わーっという悲鳴があがる。
歩いている少年の耳がその声をとらえる。
だが、もう次の角を曲がってしまっていて、階級崩壊の現場は見ることができない。
彼は首を傾げつつも、腕に挟んだものを落とさないようにしながらひたすら先を急いでいる。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●作品情報
タイトル:<長江六千三百公里をゆく>より浙江、紹興
制作:2001年撮影(2021年プリント)
タイプ:ゼラチンシルバープリント
サイズ:27.9×35.6㎝
●作家紹介
竹田武史(たけだ・たけし)
1974年京都生まれ。東京在住。同志社大学神学部卒業。大学在学中に一年間休学し、一眼レフカメラと共にオーストラリア大陸を放浪一周する。帰国後は写真家のアシスタントを務める傍ら、1997年から5年間、日中共同研究プロジェクト「長江文明の探求」(国際日本文化研究センター主催)の記録カメラマンとして中国各地に取材を行う。2001年にフリーランスの写真家として活動開始。雑誌、広告、ブライダル等を中心に活動を行う一方で、ライフワークとして中国、アジアへの旅を続ける。とりわけ日本文化のルーツとされる中国西南地域を広く踏査し、急速な経済発展により失われていく生活風景を記録し続けている。日本写真家協会(JPS)正会員、華光撮影学院客員教授。
受賞
2010 コニカミノルタFOTO PREMIO大賞
2014 京都府文化賞(奨励賞)
2019 中国華光撮影双年展 優秀写真家
著書
2004 『長江文明の探究』(梅原猛・安田喜憲共著) 新思索社
2005 『大長江~アジアの原風景を求めて』 光村推古書院
2010 『茶馬古道の旅~中国のティーロードを訪ねて』 淡交社
2013 『シッダールタの旅』(ヘルマンヘッセ原作)新潮社
2015 『桃源郷の記~中国バーシャ村の人々との10年』 新潮社
写真作品集
2021 『長江六千三百公里をゆく』 冬青社
個展
1996 『aa!』 ギャラリーマロニエ (京都)
1998 『自然光』法然院(京都)
2006 『大長江~悠久の大河6300キロの旅』銀座ニコンサロン(東京)
『大長江~アジアの原風景を求めて』京都文化博物館(京都)
『大長江~アジアの原風景を求めて』阪神百貨店美術画廊(大阪)
2009 『茶馬古道をゆく』バロック喫茶・平均律(東京)
2010 『茶馬古道をゆく』コニカミノルタプラザ(東京)
『茶馬古道~中国のティーロードを訪ねて』中国茶館・無茶空茶(大阪)
『茶馬古道をゆく』ギャラリー古都(京都)
『茶馬古道をゆく』グランシップ(静岡)
『茶馬古道をゆく』和歌山県国際交流センター(和歌山)
2014 『ヘルマンヘッセに捧ぐ~シッダールタの旅』京都文化博物館(京都)
『ヘルマンヘッセに捧ぐ~シッダールタの旅』コニカミノルタプラザ(東京)
2017 『バーシャ村の一年』コニカミノルタプラザ(東京)
『バーシャ村の一年』ギャラリー古都(京都)
『バーシャ村の一年』同志社中高同窓会大懇親会特別展示 ウェスティン都ホテル京都(京都)
2022 『長江六千三百公里をゆく~vol1.原風景』 ギャラリー冬青
●写真集のお知らせ
写真作品集『長江六千三百公里をゆく』刊行:冬青社
サイズ:27cm×24cm
頁数:159ページ
発行年:2021
言語:英語、日本語
定価税込:4,950円
●本日のお勧めは大竹昭子です。
大竹昭子 Akiko OTAKE《ヴェネツィア/渡し舟トラゲット》
2001年撮影(2002年プリント)
Type-Cプリント
35.5×43.0cm
Ed.1
サインあり
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●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、企画展の開催、版画のエディション、美術書の編集等を行なっています。WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
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TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
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